装甲列車防衛戦Ⅴ

「じゃあもう一発いっときましょうか」

「了解です。ぶち込んでやりましょう」


 素早く列車砲の再装填を済めせ、三度ダキア軍を砲撃する。その塹壕線はすっかり崩れ落ち、僅かな残骸だ残るのみとなっていた。


「ここまでやれば動くでしょ」

「そうだといいですが……」

「うーん……」


 更にもう一度砲撃を行ったが、飛行魔導士隊は相変わらず空に居座っているのだった。


 ○


 その飛行魔導士隊は非常に苦しい状況に置かれていた。目の前に味方を虐殺する悪魔の兵器があるというのに手を出すことも出来ず、自分の身を守ることで精一杯。


 そんな余りにも不甲斐ない状況に、エカチェリーナ隊長は歯ぎしりするしかなかった。


「このままでは友軍が……」

「そんなことは分かっているわ」

「す、すみません……」

「謝ることではないわ。でも……何とかしないと……」


 飛行魔導士隊がここに来たのは装甲列車の進撃を止める為である。確かにその動きを止めることは出来た。が、砲撃が友軍の陣地に届いている時点で意味はない。


 飛行魔導士隊などいてもいなくても変わらない。ゲルマニア軍からすればそんな状況なのだろう。


「隊長! ホルムガルド公から通信です!」

「通信? そう、繋いで」

「はっ」


 エカチェリーナ隊長にホルムガルド公から直接の通信である。


『そちらは大丈夫か、隊長?』

「今のところは。数名の死者が出ただけです」

『……そうか。それで、察するに、敵の砲火が激しく、装甲列車を破壊することは出来ないようだな』

「はい。私の不甲斐ないばかりに、申し訳ありません」

『いいんだ。あれを直接叩こうということこそ我が驕り。失敗は私の責任だ』


 ホルムガルド公は状況をしかと把握している。作戦を変えなければ装甲列車の前進を食い止めることは不可能であると。


「では、次の策をお教えください」

『――それは、ない……』


 ホルムガルド公は声だけでも分かるほど悔しそうな声で告げた。


「ない……とは……」

『文字通りの意味だ。我々にあれを食い止めることは出来ない。少なくとも現在の兵力ではな』

「では、兵を整えて再び挑むのですか?」


 親衛隊の総兵力は12,000であるが、ここに出撃したのは3,000程度に過ぎない。兵力の余裕はまだまだある訳だ。


『それも厳しいだろう。親衛隊を首都――まあ今はオブラン・オシュから動かすことは出来ない』

「それは……仕方ないのですね……」


 国内の不穏分子に対する対策として、親衛隊を全て前線に出す訳にはいかない。出せても精々6,000だろう。それで装甲列車に打ち勝てるかというと、微妙なところだ。


『まあそういう訳だ。よって今回の作戦はこれを以て終了とする。飛行魔導士隊はただちに撤退せよ』

「……はっ」

『必ず生きて帰れ。無駄に死ぬんじゃないぞ』


 ダキア軍は敗北を悟った。


 ○


「敵はやっと撤退するようね……」

「やっとですね……」


 空に居座っていた飛行魔導士隊はそそくさと装甲列車から離れ、対空戦闘は終了した。


「地上の方の様子はどうだ?」


 シグルズはオーレンドルフ幕僚長に通信をかけた。


『ああ。こっちでも敵が退き始めた。我々の勝利だな、師団長殿』

「了解だ。ひと先ずは休むこととしようか」

『承知した。これ以上兵を働かせるのは無理だろう』


 ダキア軍は完全に撤退し、戦闘は終結した。ゲルマニア軍は装甲列車を守り切ることに成功した訳である。だが、失ったものも大きかった。


「結局、損害はどうだ?」

「はっ。戦死381名、戦傷は重軽傷含め681名です……」


 ヴェロニカは各部隊の被害を集計し、シグルズに報告した。


「装甲列車だというのにこの有様とは……」

「やはり車内に敵の侵入を許したのが大きかったな」

「そうだな。やはり改良が必要か……」

「考えておくわ……」


 クリスティーナ所長は沈痛とした面持ちで応えた。


「それで……穴の開いた7号車はどうするのですか?」


 ヴェロニカは尋ねた。7号車から敵は撤退したものの、装甲に大穴は開けられ、車内の武装は多くが破壊されている。とても実戦に投入出来るような状態ではない。


「あれを持っていくのは無理だな。無事な弾薬、食糧を移し、車両を破壊した後、再び前進する」

「え、壊しちゃうの……?」


 クリスティーナ所長は心底信じられないという感じで言う。


「それは……敵に技術が流出したらマズいですし……」

「それはそうだけど……でも……」


 クリスティーナ所長としては自分が作ったものを何が何でも壊されたくないらしい。しかしまだまだゲルマニアの最新技術が残っている装甲列車を敵にくれてやる訳にはいかない。


「まあー、いいんじゃない、別にー」


 ライラ所長はどうでもよさそうに言った。


「え、ちょ、あなたの発明品でもありますよね!?」

「そうだけど……別に私は発明するところまでしか興味ないし……」

「…………分かりましたよ、ええ。とっとと粉々にして頂戴、シグルズ」

「わ、分かりました……」


 7号車は物資や銃器を運びだした後に爆破解体。6号車については損傷が少なく、元の車列に復帰することとなった。


 かくして装甲列車は再編され、再びメレンに物資を届けるべく、前進を始めた。

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