初遭遇戦
エカチェリーナ隊長率いる100人ばかりの飛行魔導士隊は装甲列車へと飛び立った。シグルズを刈り取る為である。
「敵はたったの3人。しかも1人は魔導士ですらない。刈り取れる、筈……」
実際、流石のシグルズでもたったの1人で、しかも線路を敷きながら飛行魔導士隊を相手にするのは手に余る。アレクセイの見立ては正しい。
とは言え、アレクセイは何とも言えない不安感を抱かざるを得なかった。
「後は、気になるのは列車の上にある大砲だが……」
「敵が大砲を保有していることを想定し、塹壕を掘ったのではありませんか」
「それはそうだが――っ!? この音は!」
その時、聞き覚えのある重々しい爆発音が辺りに響き渡った。間違いなくゲルマニア軍の大砲である。
「まさか、あれが撃ってきたのか!?」
「まだ距離は20キロパッススは離れています。そんな筈は……」
「……いいや、退避! 退避だ!」
砲弾が飛来する時特有の音。それを感じてアレクセイは退避を命じた。
ゲルマニアの塹壕を見習い、ダキア軍の塹壕にも退避壕が設けられている。ゲルマニアからの砲撃があった際に退避するための空間だ。
猶予は僅かに数秒であったが、こんな事態も想定していたダキア軍はすぐさま退避壕の奥に入り込んだ。機関銃などがない分ゲルマニア兵よりもかなり身軽である。
「衝撃に備えよ!」
すぐに砲弾は飛来し、塹壕線に突き刺さった。地鳴りのような振動が周囲を揺るがし、砲弾が直撃した地点からは土煙が立ち上っている。
「こ、これは……」
「これまでの大砲の比ではない威力……です……」
塹壕も退避壕もまるで意味を成していないようだった。地面は抉られ、半球状に大きくへこんでいる。
「直ちに被害状況を知らせよ!」
「着弾地点の第3小隊、連絡途絶!」
「生存者は確認出来ません!」
「全滅……だと……」
たった一発の砲撃で、100人近い魔導兵が殲滅された。しかも塹壕線はその面影すら残さない程に破壊されていた。
「こんなとんでもないものを作ってくるとは……」
「しかもそれが6つも……」
「うん……? そ、そうではないか!」
ゲルマニアの車列の3両目と最後尾の装甲列車には、それぞれ3門ずつの巨大砲が備え付けられている。
アレクセイはあんなに巨大な大砲をすぐさま再装填することは出来ないだろうと踏んで暫し安心していたが、よくよく考えれば他の5門に砲弾が既に装填されていても何もおかしくはない。
「全軍直ちに散開! 一網打尽にされるぞ!」
「来ます!」
「クソっ!」
調子に乗ったのか、今度は2門が同時に火を噴いた。
そして砲弾は正確な照準で飛来し、またも百人単位の人間を吹き飛ばした。塹壕は破片避け程度にしか機能しなかった。
「クッ……エカチェリーナ君、早くしてくれ……」
最後の希望に賭け、アレクセイはひたすら耐えることを選んだ。
○
「ホルムガルド公……急ぎなさい! あの列車を止めるわ!」
「「「はっ!」」」
エカチェリーナ隊長の号令で、飛行魔導士隊は更に加速する。空に航空機など飛んでいない以上、彼女らを遮るものは何もない。全速力で空を飛べば、その速度はゲルマニアの機関車の最高速度を優に超える。
向こうも近づいてくるのもあって、20分程度で装甲列車にたどり着いた。
「情報通り敵は3人……総員、撃ち方始め!」
「撃てっ!」
飛行魔導士隊はシグルズたちを射程に入れると、一斉に魔導弩で攻撃した。敵の集団を相手にするには爆発物を投げつけた方がいいが、敵が少数であれば弩で狙撃した方がいい。
それに、岩や火球ならば回避も出来るが、銃弾並みの速度で飛翔する矢を見てから回避することは不可能。これでシグルズは死ぬはずだった。
が、そう簡単に死んでくれるシグルズではない。
「っ――壁か……」
最も単純な防御の手段。その奇妙な3人を守る鉄の壁が矢を弾き返した。
「で、ですが……シグルズは線路を作っている筈では……」
アンナ副長はおどおどと言う。
魔法は2つしか同時に使えない。今空を飛んでいる以上、その他に使える魔法は1つだけ。その枠は線路を生成するのに使われている筈。実際、線路は伸び続けている。
であれば、シグルズ自身を防御することは不可能は筈。
「一体誰が……」
「あの……隣にいる変な格好をした人では?」
「あれ……?」
自力で空を飛んでいるのは2人いる。シグルズと、無駄に長い帽子を頭に載せて外套を着ている女である。そのもう片方が魔法で矢を防いだのかもしれない。
距離を取りつつ何度か斉射を続けたが、全て防がれた。一切反撃を行ってこないのも、飛行魔導士隊の神経を逆なでした。
「……だとすると、厄介ね……ゲルマニアにまだ強大な魔女がいたなんて……」
「ど、どうされます?」
「接近するしかないわ。総員前進! 白兵戦を仕掛けなさい!」
「「「はっ!!」」」
飛行魔導士隊は散開し、全速で前進。みるみるうちに距離は詰まり、互いの顔が見えるくらいには近づいた。
「かかれ!」
半球状の陣を組み、3人を100人ばかりが囲んで襲い掛かった。
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