Ⅲ号装甲列車
ACU2311 4/29 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン近郊 帝国第二造兵廠
そして翌日。装甲列車を用意する為、シグルズはクリスティーナ所長の根城である帝国第二造兵廠に向かった。
「さて、やるとなったら私は本気でやるからね。うちで作った最新のを出すわ」
「最新……ですか?」
「ええ。これよ」
シグルズは造兵廠の機密区画に案内された。そこには様々な試作兵器が乱雑に置かれていたが、ど真ん中の装甲列車は特別威容を誇っていた。
「これが……最新の装甲列車ですか?」
「ええ。あなたなら、見れば色々と分かるんじゃない?」
「ええ。分かりますよ」
これまでの装甲列車より、全体的に刺々しいといった印象だ。つまるところハリネズミの様に機関銃が配置されているのである。
正直客車を少々改造した程度であったこれまでの装甲列車と比べれば、格段に対歩兵戦闘能力を向上させている。一般に砲塔を増やしすぎるのは装甲が
「機関銃を満載ですね……」
「ええ。これまでの装甲列車は後付けだったけど、こっちは最初から備え付けにしたわ。命中精度も期待できるでしょう?」
「ですね。現場の兵士としては非常に助かります」
「でも……そっちじゃないでしょう?」
そう、普通の人間が見て注目するのはそこではない。確かに機関銃の運用も重要な要素ではあるが、それはあくまで既存の能力を改良したに過ぎない。この装甲列車には新たな機能が備わっている。
「列車砲……とでも言うべきですか」
「列車砲……ねえ。特に名前は決めてなかったけど、そういう名前にしましょうか」
装甲列車の天井には3門の大砲が取り付けられている。シグルズに言わせてみると、これこそ装甲列車と言った感じだ。
「口径はどうなのです?」
「これもねえ……聞いて驚け、装甲列車の為に新式の砲を作ったわ。8センチ砲よ」
「8ですか……それはまたとんでもないものを……」
地球の単位に換算すれば、史上最大の戦車であるマウスの主砲をも超える口径である。装甲戦力など相手にする必要のないこの世界では過剰とも言える火力だ。直撃を受けて耐えられる魔女も建築物もあるまい。
「戦車には積めなかったけど、列車なら積めると思ったの。それに、後々にもっと大口径の砲を作る練習にもなるしね」
「ああ、なるほど。流石はクリスティーナ所長ですね」
「――え、ええ……ありがとう」
シグルズが以前提唱した、戦艦を建造する計画。まだまだ船体の一部が完成しているだけという状態で、艤装などはまだ作り始められてもいない。
戦艦の主砲は最低でも20パッススはなくてはならない。装甲列車の列車砲はその為の練習も兼ねていたのである。
「えー、で、この最新式の装甲列車だけど、ちゃんと名前があるのよ」
「確かに、いちいち『最新式の装甲列車』などと言うのは面倒ですね」
「ええ。で、名前は、『Ⅲ号装甲列車』よ! 『Ⅲ号列車』と略すと楽ね」
「Ⅲ号――なんですか? Ⅱ号はどこに?」
これまで装甲列車は一種類しかなかった筈なのだが。ちなみに、その初期型の装甲列車は改めて『Ⅰ号列車』と命名されたそうだ。
「ああ……Ⅱ号ね……あれは失敗作だったわ……」
クリスティーナ所長は真っ暗な声でぼそっと言った。
「い、一体何が……」
「まあ、技術屋にありがちな迷走よ。気にしないで」
「あ、はい……」
シグルズはこれ以上聞くことを止めた。
「しかし……こんな重武装の列車、相当重いですよね」
「ええ。それはまだまだ改良の余地ありね」
「ではどうするので?」
「機関車2両で引っ張るわ。大変ではあるけれど」
ここまでくると1両の機関車で車列を引っ張ることは不可能。2両の機関車で引っ張るのは確定路線だ。Ⅲ号列車が重すぎるのならそもそも持っていかなければいいと思わなくもないが、この戦闘能力はやはり欲しい。
「そうなると、腕の立つ機関士が必要ですね」
「それについては安心して。労働省から帝国鉄道に根回しして、腕の立つ機関士を持ち逃げしといたわ」
「職権乱用では……」
「せ、正当な権限を使ったまでよ! 誤解しないでよね」
まあ機関車の運用については問題なさそうである。
「それで、Ⅲ号列車は何両用意してあるんですか?」
「2両だけね。まあ、先頭と最後尾に並べれば問題ないでしょう」
「なるほど。すると、編制は、端っこにⅢ号で、間にⅠ号という感じですか」
「そうね。基本は今まで通りⅠ号列車にしましょう。Ⅲ号列車にはものを殆ど積めないから」
Ⅰ号列車は客車を改造した程度と形容されるように、中はかなり広い。なんなら普通に客車として運用することも可能なくらいだ。故に多くの物資を運送することが出来る。
が、Ⅲ号列車は完全に戦闘に特化した車両であり、弾薬を搭載すればそれで満杯である。とても食糧などを運べるものではない。
そういう意味では今回の編制は互いの特徴を活かしたよい采配と言えるだろう。
「基本的には、2両の機関車、8両のⅠ号列車、2両のⅢ号列車という感じで行きましょう。もうこっちで用意してあるわ。後はものを積んで出撃するだけ」
「流石は準備がいいですね。僕の仕事が次々と消滅していきます」
「ま、私は一応労働大臣だからね。そこら辺は任せてもらって構わないわ」
という訳で、物資も兵員も含め、たったの1日で物資も輸送部隊の車列は完成したのだった。
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