大輸送作戦
ACU2311 4/28 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
シグルズやヴェロニカやオーレンドルフ幕僚長など、自力で空を飛べる第88師団の面々は、全速力で帝都に舞い戻って来た。
そして早速、総統御前会議に参加する。
「――よって、この帝都よりメレンへの、装甲列車による物資の輸送を提案します」
ヒンケル総統やその他閣僚の前で、シグルズはあまりにも現実離れしたその策を提案した。
「ば、馬鹿じゃないの!? 流石に無理よ、流石に!」
真っ先に提案を全否定してのは、労働大臣にして帝国第二造兵廠のクリスティーナ所長である。
「まあまあ、ザウケル大臣、少しは落ち着けたまえ」
ヒンケル総統は彼女をなだめた。
「――す、すみません。ですが、この案はあまりにも現実離れしていると言わざるを得ません」
「ふむ。それでは、現地人から食糧を略奪してはいかがですか?」
親衛隊のカルテンブルンナー全国指導者は不思議そうに言った。自国民ですら犠牲にするのを厭わない彼としては、ダキア人など塵芥も同然なのである。
「それはちょっと……」
「ああ。まだ策が残っている状況で、無為にダキア人に危害を加える訳にはいかん。いざとなれば考えるが……」
ヒンケル総統はゲルマニアの印象が悪くなることを懸念していた。逆に言えばどうしようもなくなればダキア人を殺すことに躊躇はない。
とは言え、今は略奪には反対である。
「分かりました。それでは、総統閣下のご随意に」
「――ああ。では、ザウケル大臣、先程の話しだが、詳しく話してくれるか?」
「はい。まず、距離が長すぎます。帝都から、短く見積もっても国境線からメレンへの道のりは、途中駅なしで行けるような距離ではありません。それに、こちらの方が大きいですが、通るのは敵地です。敵地のど真ん中を列車で駆け抜けるなど、正気の沙汰じゃありません」
「しかし、メレンへの進軍の際には敵地を貫いたではないか」
「あれはあくまで大部隊と行動を共にしていたから出来たことです。装甲列車単体で敵地を横切るなんて、無茶です」
まあシグルズも割と頭がおかしい提案をしていることは理解している。が、決してふざけている訳ではない。勝算はちゃんとある。
「と言う訳だが、どうだ、シグルズ?」
「はい。まず距離についてですが、それは問題にはなりません。僕は無限に魔法を使えますから」
「でも、列車が故障したらどうするの? あなたに修理は出来るの?」
「それについては……親愛なるライラ所長が一緒に来てくれると約束してくれました」
「あ、あいつ……」
装甲列車を設計した本人が来てくれるのだ。修理は容易だろう。
「それに、私がいないと線路を敷けなかったじゃない。そこはどうする気?」
「え、クリスティーナ所長が来てくれるのではないのですか?」
「いつ私がそんなこと言った!?」
「え、まあ、暗黙の了解?」
「いやいやいや、言ってないし。大体、私には労働大臣としての仕事が――」
「そこについては心配しなくてもいいぞ、ザウケル労働大臣。仕事の引き継ぎは手配してある」
ヒンケル総統はからかうように言った。実のところシグルズは既にヒンケル総統に根回ししていたのである。
「んなっ……ま、まあそれについては認めます。しかし、いくら装甲列車とは言え、敵地のど真ん中を通過するのは無謀過ぎます」
「ふむ。どうだ、シグルズ?」
「僕はただ、帝国第二造兵廠の誇る装甲列車ならば、ダキア軍のあらゆる攻撃を跳ね除け、必ずや前線の友軍を救ってくれると信じるだけです。それとも、ご自身の兵器に自信がないのですか?」
「うっ……じ、自信がない訳じゃないわよ。ただ……」
クリスティーナ所長は頬を赤らめて。こんな簡単な芝居で心を揺るがすことの出来る、ちょろい御仁である。
「わ、分かりました! この仕事、受けて立ちましょう! 必ずや装甲列車をメレンまで運んでみせます」
「うむ。頼んだ。それでシグルズ、こちらでは何を用意すればいい?」
「はい。ありったけの食糧と武器弾薬、あと兵士を二、三千人ばかり用意して頂けますか?」
「お易い御用だ。すぐに手配しよう」
〇
食糧と武器弾薬なら帝都にごまんと備蓄してある。こちらは問題ではなかった。
が、少々問題があったのが兵士である。帝都の周辺は基本的に軍が配備されておらず(一応近衛隊はいる)、有事の際は適当な方面軍の人員を徴用することとなる訳だが、その選定が難儀であった。
東部方面軍は全ての人員を前線に貼り付けており、西部方面軍、南部方面軍を東部の最前線に送るというのもおかしな話だ。
「で、親衛隊という訳か……」
「私の大切な部下たちです。くれぐれも、犬死なんてさせないでくださいね」
「え、ええ……」
カルテンブルンナー全国指導者に激しい圧をかけられた。
最終的に装甲列車に乗せる人員については親衛隊から出すこととなった。社会革命党の軍隊である親衛隊なら確かに自由に動かせるが、軍人ではない彼らにシグルズは何とも言えないやりにくさを感じざるを得なかった。
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