ゲリラ戦Ⅲ

「こういう武器を作るのはどうでしょう」

「うん?」


 シグルズは手元に少し力を込め、小銃の半分くらいの長さの筒状の兵器を作り出した。


「何だそれは? 武器のようの感じはあるが……」


 ローゼンベルク司令官はシグルズの作り出したそれを色々な角度から観察したが、よく分からなかった。


「これは、小さな砲弾を近くに飛ばす為の、まあ小型の大砲です」

「ほう……」

「僕はこれを、迫撃砲と名付けました」


 無論、シグルズが名付けた訳ではない。地球にあった兵器のパクリだ。


 迫撃砲。


 元はと言えば第一次世界大戦の少し前、塹壕を効果的に攻撃する武器として開発されたものである。


 歩兵が普通に扱えるような小型の砲であり、手榴弾くらいの大きさの砲弾を高く打ち上げ、敵の塹壕の真上からぶち込む為のものだ。


 まあシグルズとしては敵の真上から攻撃する能力は重要ではなく、歩兵でも榴弾を扱えるようになるということの方が重要である。機関銃ではどうにもならない、森の中に隠れた敵兵を炙り出す為の兵器だ。


「なるほどな……まあ、実用化出来れば、心強い武器になるだろうな」


 オステルマン師団長も迫撃砲の概念については高評価だ。


「ああ。完成すれば、だがな」

「あはは……」

「こんな兵器をゲルマニアが作ったことはないし、この大きさの砲弾を量産する余裕があるかも分からない。開発までは少なくとも1ヶ月はかかるだろう――と言ったところかな」


 まあ1ヶ月で新兵器を完成させれられるのは十分におかしいのだが。まったく、ライラ所長のお陰で正常な感覚が狂ってしまっている。


「手厳しい……」

「別にシグルズ君の発想を否定している訳ではないんだ。いずれは我が軍で採用すべき兵器だろう。が、今はそんな猶予はない」


 迫撃砲を実用化出来れば、確かに補給線を維持することは容易くなるだろう。が、今は正に今現在の危機を脱する手段が必要なのだ。1ヶ月とて待ってはいられない。


「直ちにここに武器弾薬食糧を運んで来られる手段……誰か、何か案はないのか?」


 沈黙。誰もいい案を持たなかった、と思われたが――


「一つだけ……あるのではありませんか?」


 ファルケンホルスト師団長は言う。


「何だ?」

「装甲列車です。あれならば、魔導兵に破壊されることもなく、大量の物資を輸送することが出来ます」

「そ、それはそうかもしれないが……ダキアに線路など……ああ……」


 ローゼンベルク司令官はシグルズにゆっくりと視線を合わせた。


「そうなっちゃいますよねー……」


 つまるところ、またゲルマニア本土からダキアまで魔法で線路を作り、装甲列車を無理やり運び込もうというのだ。


 シグルズとしては不本意ではあったが――


「そうとなれば頼めるか?」


 圧倒的に高位の存在である筈のローゼンベルク司令官が、シグルズに頼むと言った。そこまで言われては断ることなど出来ない。


「無論です。僕の力は全てゲルマニアの為に使います」

「おお。ありがとう――」

「しかしながら」

「――うん?」

「これはゲルマニアの為にはなりません。本来あるべき姿ではないのです」


 シグルドは子を諭す親のように言った。東部方面軍総司令官を子供のように扱うというなかなかの暴挙だが。


「どういうことだ?」

「兵士の個人芸に頼るなど、国家のあるべき姿では到底ありません。もしも僕が死んだら補給線が崩壊する戦術は、使うべきではないかと」

「ここに攻め込んだ時は快く承諾してくれたではないか」

「ぐっ、そ、それは……」


 確かにシグルズは自己矛盾に陥っている。


 確かにあの時はシグルズも戦車を使いたくて仕方がなかった。私情に流されていたことは否定出来ない。故にそこを突かれると痛いのである。


「まあまあ、今だけのことだ。暫くは我慢してくれたまえ」

「――了解しました。暫くは装甲列車で戦線を維持することとしましょう」

「しかし、スカディナウィア半島に装甲列車などありましたか?」


 オステルマン師団長はなかなか鋭い指摘をした。


「どうだったか……向こうに聞いてみないと分からんな」

「総司令官閣下が把握されていないと?」

「……そんな兵器全ての配置など覚えている訳がないだろう……まあいい。確認してくれ」

「はっ」


 そうして本国に装甲列車の配置を確認することとなった。そして結果は芳しくないものであった。


「スカディナウィア半島には装甲列車は配備されていないとのことです」

「そうか……困ったな……」


 流石に列車を海を越えて運ぶのは不可能だ。スカディナウィア半島から装甲列車を出すことは出来ない。


「となると、やはり別の策を考えるか……」

「このままでも問題ないのでは?」


 オステルマン師団長は不思議そうに尋ねた。


「何が問題ないんですかね……」

「どういうことだ?」

「ブルグンテンからここまで装甲列車を走らせて来ればいいではありませんか。帝都の方がヘルシングフォシュみたいな田舎より、よほど多くの物資が揃っています」


 オステルマン師団長は、ダキアの未占領地すら力づくで横切って、ここまで装甲列車を走らせて来いというのである。


「それを僕にやれと……?」

「まあ、そうなるな」

「やれなくはないですが……」


 結局シグルズは断れなかった。

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