ゲリラ戦Ⅱ
「この状況、どうするべきか……」
ローゼンベルク司令官は唸った。補給線が脅かされるような戦争をゲルマニアは戦ったことがない。対応に迷うのも無理はないだろう。
「単に護衛を増やすというのは?」
オステルマン師団長は、思いつく中では最も単純な解決策を提示した。が、それに対する反応はあまりよくない。
「増やすといってもな……装甲車の数に余裕がある訳ではないし、そもそも敵は荷馬車だけを狙うという戦術を使っている。護衛を増やしたところで意味はないだろうな」
「……しかし、今のところ装甲車が撃破された例はないのですよね?」
「まあ、そうだな」
魔導弩からの攻撃に対しては、装甲車は現状無敵である。装甲の表面に傷がつくくらいで貫通を許したことは一度もないのだ。
「では、物資も全て装甲車に詰め込めばいいだけでは?」
「それは、あまり現実的ではないかと」
「そうなのか、シグルズ?」
シグルズは装甲車の発案者として反論せざるを得なかった。
「まあ単純に、装甲車の車内は狭いです」
「馬車よりよっぽどデカいのにか?」
「はい。現実的な戦闘能力を持たせるためには機関銃を定数通り配置し、十分な兵士を乗せなければなりません」
地球での装甲車の扱いとは異なり、ゲルマニアでは装甲車も主力戦闘車両である。多くの武器、兵器が搭載されているのだ。これは戦車に相当する敵がないからである。
従って、装甲車で物資を運ぼうというのは、戦車に輸送任務を任せるようなものなのだ。とても現実的とは言えない。
「そうなのか……だったら、武器を搭載しない装甲車を作ったらいいんじゃないか?」
「確かに、それはありですね。あえて新しい型を開発せずとも、武器を外せばいいですし」
「だな」
現下の大問題は、物資を運ぶ荷馬車があまりにも軟弱なことである。多少の強化を行ったとて、所詮は木製の馬車。魔導兵の攻撃には耐えられない。
だったら馬車など使わねばよい。実に単純な解決方法である。
「まあ、故障の時が少し怖くはありますが――」
装甲車が一気に故障すればダキアのど真ん中で立ち往生する羽目になる。そして故障は往々にして同時に起こるのだ。これは故障が割かし環境要因によって引き起こされるからである。
ダキアとの開戦も想定して防寒をそれなりに考えて設計された戦車と装甲車であるが、ゲルマニアの技術はまだまだ未熟だった。
「しかし背に腹を代えられません。このままでは僕たちは飢えて死にます。多少の危険を覚悟の上、装甲車のみで構成せれた輸送部隊を編制すべきです」
「ということです、総司令官閣下。シグルズの太鼓判ももらった訳ですが、いかがですか?」
オステルマン師団長はどちらかと言うと命令めいた口調で提案した。
「あ、ああ。いい案だ。早速向こうの工廠に伝えよう」
「ありがとうございます」
かくして装甲車のみで独立して構成された部隊が編制され、食糧や武器弾薬の輸送が開始された。
〇
「第2特別輸送隊より通信です!」
「何と言っている?」
「輸送用の装甲車が撃破されたとのこと!」
「何だって!?」
シグルズはまた声を荒らげてしまった。故障したとか足止めを食らったとかならともかく、撃破せれたというのは考え難い。
「通信士、間違いはないのか?」
「はい。確認も取れていますし……」
「そんな馬鹿な……」
これまで馬車に放火して逃げるのを繰り返してきたダキア軍が突然装甲車を直接攻撃し出した。しかも物資を満載した装甲車だけを狙って。
「やはり、ゲルマニアの情報は漏れていると考えるべきか……」
「そのようだな、シグルズ君」
「はい。これで疑いは確定的になりました」
この際、内通者であるのか通信が傍受されているのかは関係ない。
メレン攻撃で薄々感じていた、こちらの手の内が筒抜けだという感覚。それは今確信に変わった。
「つまりところ、小手先の工夫程度ではどうにもならない、ということですね」
オステルマン師団長はやけに自信ありげに言った。また確かにそれは間違いないのだが。
「そうだな……だが、だったらどうせよと言うのだ?」
「単純に、ダキア兵を完全に撃退出来るだけの戦闘能力を持たせるべきかと」
「そう言う簡単だがな……何か勝算はあるのか?」
「まあそこら辺はシグルズに考えてもらいましょう。なあ、シグルズ?」
「え、僕ですか?」
「ああ、君だ」
何とも酷い無茶ぶりである。が、オステルマン師団長のお陰で目的は明確になった。ダキアの魔導兵を撃退出来る程度の戦力を装甲車に持たせることである。
決して敵を殲滅する必要はない。敵が撤退しようと思うくらいの損害を与えれれればそれで十分だ。
まあ今の装甲車ではその要求すら満たせない訳だが。
――まあそれも仕方ないか。
地球方式での運用を前提として設計された装甲車は、戦車と同時に存在しなければ真価を発揮出来ない。
特に欠けているのは、歩兵を薙ぎ払う榴弾である。
「そうか……榴弾砲を積めばいいのか……」
「何だ、シグルズ君?」
シグルズの頭にはいい兵器が思い浮かんでいた。
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