ウィンドボナ包囲戦
ACU2271 2/4 神聖ゲルマニア帝国 パンノニア公国 首都ウィンドボナ
シグルズがゲルマニアに名を馳せるおよそ40年前。神聖ゲルマニアはまだスカディナウィア半島を領有しておらず、また特徴的な東に突き出た部分(ウクライナくらいに相当)もまだ持ってはいなかった。
産業革命の発生から100年が経ったが、帝国主義によって資本主義を推し進めた地球の欧州列強とは違い、著しい進展は見られなかった。これはヒンケル総統が独裁体制を確立することで飛躍的な進化を遂げることとなる。
蒸気機関なども諸外国からは国家規模の趣味だと思われており、周辺諸国と比べ取り立てて強大な影響力を持っている訳ではなかった。寧ろルシタニア王国こそエウロパの代表だと考えられていた時期である。
そんな中、ゲルマニアにとって最大の脅威はエウロパの隣国ではなかった。東より迫りくる強大な軍事国家、ガラティア帝国である。
2271年、ガラティア帝国はついにゲルマニアへの侵攻を開始した。
その最初の目標は、ゲルマニア南部の最大都市、ウィンドボナであった。構造はエウロパにありがちな城塞都市であるが、規模としては帝都ブルグンテンに迫るものである。
「これが……ガラティア軍……」
ウィンドボナの物見やぐらからガラティア軍の姿を初めて捉えたのは、まだ新兵1年目のディートフリート・カール・フランツ・カイテル小隊長であった。言わずもがな、後に参謀総長となる男である。
「話には聞いていましたが……こう見ると恐ろしいものですね……」
エウロパの兵士とは全く違う出で立ち。最低限の服だけを纏い、美しさを捨てた実践的な服装。見栄を気にして綺麗な軍服を揃えているゲルマニア軍とはまるで違う軍隊だ。
「あ、ああ……悪く言えば蛮族だが、よく言えば戦いに慣れ親しんだ連中なのだろう……」
「軍服の洗濯が評価対象の我々とはまるで違うということですか……」
「まったく、笑えるな」
そうしてガラティア軍はウィンドボナへの総攻撃を開始した。兵力の差はゲルマニア駐屯軍15,000ほどに対し、ガラティア帝国軍60,000。しかも5,000人以上の魔導兵を擁する部隊である。
「死守せよ! 蛮族どもに我らが神聖なる都市を明け渡すなど、断じてあってはならん!」
ゲルマニア軍の築城技術はガラティアのそれを優に超えており、城壁そのものが打ち崩されることはなかった。となると当然、ガラティア軍は城門に押しかけてくる訳だ。
「撃て! 一兵たりともここを通すな!」
城門の手前に設けられている、半円状の城壁に囲まれた領域。大八洲皇國の曲輪に倣い、防御の為だけに作られた区画である。ここが激戦地となった。
ゲルマニア軍はこの中に5重の柵を作り、その後ろから最新式の小銃で撃ちかけた。しかしまだまだ1発撃つのに10秒はかかるというもので、何とか持ちこたえているという風であった。
「クソッ! こいつら一体どれだけいるんですか!?」
「私が知るか! とにかく撃ち続けろ!」
水際の防衛戦。だがそれも時折綻びを見せる。
「く、来るな!」
「クッ……」
敵はたちまち柵まで到達し、ゲルマニアの陣地の中に突入した。
「この野蛮人どもが!」
カイテル中隊長は咄嗟に剣を抜き、敵兵に斬りかかった。半分お飾りとなっていた剣も捨てたものではない。
「ちゅ、中隊長殿……」
「いい銃を持ってるからと驕るな! 最後に勝敗を決するのは剣だ!」
「「「おう!!」」」
ゲルマニア軍は戦術を切り替え、剣を持っての白兵戦に移行した。ガラティア兵もその豹変ぶりにドン引きし、1日目は何とか一歩も後退することなく耐えることが出来た。
しかし、その幸運もそう長くは続かなかった。2週間後、2月19日のこと。
「あ、あれは……」
「まさか、魔導兵か……」
これまでとは打って変わり、全身を重々しい鎧で覆った騎兵が姿を見せた。
「う、撃て!」
一斉に射撃をしかける。だが、その弾丸はいとも簡単に跳ね返された。
「これが……魔導兵……」
「く、来るぞっ!」
「撃てっ!」
走りくる魔導騎兵。ゲルマニア軍は全力で射撃を行ったがほとんど効果はなかった。そして魔導兵は陣地の中に侵入し、剣を振り回した。
「応戦だ! かかれっ!」
カイテル中隊長は剣を抜きながら命じた。
しかし、白兵戦が出来る相手ではなかった。魔導装甲は剣など通さず、こちらの剣は一刀両断されてしまった。
「こ、こんな奴らが……」
「中隊長殿! どうされますか!?」
「どうすると言っても……そうか!」
「ど、どうされました!?」
「奴らの鎧の隙間を狙え! 突き刺せ!」
全身を覆った鎧とは言え、隙間はある。そこを剣で刺し貫けば、魔導兵を殺すことも不可能ではない。
「死ね!」
「ぐあっ……」
確かにその試みは成功した。が、大局をひっくり返すには至らず、曲輪は突破され、ウィンドボナは市内に敵の侵入を許しつつあった。
「このままではこの街は……」
「ん? あ、あれは……」
「どうした?」
「敵が、撤退しているようです……」
怒涛の進撃を続けていたガラティア軍が、突如として後退を始めた。
「一体、何が……」
「え、援軍です! 援軍が来ました!」
「援軍……だと?」
「は、はい。ルシタニアとダキアからの援軍が到着したとのことです!」
「ルシタニアが……そうか……」
ゲルマニア・ルシタニア・ダキア連合軍、総勢130万が、ぎりぎりで間に合ったのだ。そしてガラティア軍は流石に分が悪いと判断し、撤退を決断したのだった。
エウロパの本気というものをガラティアに見せつけた戦いであった。
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