閑話 ガラティア帝国の歴史
概説
ガラティア帝国というのは正式な国名ではない。というかこの巨大な国家を示す名前はそもそも公式には存在しない訳だが、便宜上はガラティア帝国と呼ぶこととしよう。
地球で言えばアフリカ北海岸、イタリア半島からインドに至る広大な領土を統治するガラティア帝国。経済力では大八洲皇國に次いで世界第二位であり、軍事力では大八洲の後れを取り第三位。
だが旧大陸の東端と西端にある国家と同時に接しているという特異な国土を持ったこの国は、国際政治に確実な影響力を持っている。
この国の歴史は、エウロパの諸国と同じく1136年のレモラ大分裂に始まる。
いくつかに分裂した国家のうち、地中海東海岸を治めるパルミラ王国とレモラ東方副帝領の国境付近にそれは生まれた。メフメト一世を首長とする遊牧民の一団が、両国の紛争を利用して独立国に近いものを作り上げたのだ。
これこそがガラティア帝国の始まりである。
レモラ東方副帝領は、その名の通りレモラ皇帝から東方の統治を任されていた東方副帝の領土である。中央の皇帝権が実質的に消滅した後も東方副帝は東方全域への支配権を主張したが、それに従うのは自らの直轄領だけであった。
西方のエウロパ=レモラ帝国と異なり、東方副帝領は東方を再統一することは出来なかった。そして毎日のように領土を献上しろと迫る東方副帝は、地中海東方の諸国に煙たがられていた。
しかし400年以上の群雄割拠の時代にあって無闇に戦を起こせば、他の勢力に背中を刺される。誰もあえて東方副帝領を滅ぼそうとはせず、勢力均衡のまま数百年の時が流れた。
その中で頭角を現したのがメフメト家のガラティア君候国である。ガラティアは東方副帝領と紛争を繰り返し、いくらかの領土を奪い取っていた。そこに目を付けたのはパルミラとイランである。
ガラティアと接する両国はガラティアを経済的、軍事的に支援し、自らの手を汚さずに東方副帝領を滅ぼそうと考えた。そしてその故地を掠め取ってしまおうと。それに、万が一ガラティアが滅んだところで自分たちはどこも痛まない。
だが彼らの思惑は逆の意味で裏切られることとなる。
長年の戦争で鍛え上げられたガラティア兵はあまりにも強かった。彼らに武器を与えればこの世界の誰も敵わないとすら思われた。
2034年のこと。ガラティア君候国は東方副帝領を完全に滅ぼし、周辺諸国と完全に対等な地位を獲得した。その間パルミラやイランの干渉を許すことは一切なかった。
諸国は新たな強国の出現を知った。
だがガラティアはそれだけに留まらなかった。ガラティアは小国が乱立していたアイモス半島(バルカン半島の辺り)に攻め込むと、たちまちその全域を占領。領土を倍近くに広げ圧倒的な軍事力を得たガラティアは、周辺諸国に服従を要求した。
遠交近攻を巧みに交えた外交と精強な兵士たちの力により、ガラティアは周辺諸国を席巻した。特に2201年にレモラ王国が実質的に併合されたことは周辺諸国に衝撃を与えた。
力を失ったとは言え、かつてはレモラ帝国の中心であったこの王国がガラティアの軍門に降ったのは驚くべきことであったのだ。
もっとも、アイモス半島のようにその領土を完全に自国に組み入れた訳ではない。あくまでレモラ国王をガラティア王が兼ねるという形である。この頃からガラティアの君主は自らをシャーハン・シャー、諸王の王と名乗り始めた。
さて、ここまででガラティア君候国は国名を変えただろうか。否、変えていない。2311年に至るまで、ガラティアが国名に何らかの変更を加えたことは一切ない。
ガラティアはガラティア君侯国のままである。更に言うと、レモラやパルミラはガラティア君侯国の領土ですらない。あくまで同君連合だ。
だがエウロパの諸国がそんな事情を知ることはなく、シャーハン・シャーに従う国家群を纏めて漠然と、「ガラティア帝国」と呼んだ。
ガラティア帝国はその後も躍進を続け、2250年にはゲルマニア、ルシタニア、ブリタンニアを除く旧レモラ帝国の領土を全て回収することに成功した。アリスカンダルの父、ラーディンの時代である。
当面の国是であった東方領土の統一を完遂したガラティア帝国は、当然ながら西方に目を向けた。エウロパの諸国をも版図に組み込み、レモラ帝国の領土を完全に再現しようと試みたのだ。
だが、その試みは2271年のウィンドボナ包囲戦で失敗に終わった。
エウロパへの侵攻の困難なことを知ったガラティア帝国は、更に東へと目を向けた。アリスカンダルの代となり、2293年、建国以来の盟友であったイランへ服属を迫り、イランがこれを拒否すると躊躇なく進行を開始、たちまちこれを壊滅させた。
アリスカンダルはその後も東方への進撃を続けたが、その計画は2302年のヴァンガの戦いで頓挫することとなった。
どうしてアリスカンダルが東方への拡大にここまで執心したのか。その理由の一つにとある神話がある。
レモラ帝国が建国されるより遥か以前、一眼は夜の暗闇を、一眼は空の青を抱くと形容された、アリスカンダルという英雄があった。彼の野望はアイモス半島に始まり、東にある世界の果てを目指したそうだ。
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