造反
ACU2311 3/29 ダキア大公国 戦時首都メレン クレムリ
「現在、敵はここより西方10キロパッススに迫っております!」
「で、殿下! 早く脱出しましょう! あと2時間もすればゲルマニア軍がここに着きます!」
「もう時間がありません! 守備隊も潰走し、ここを守るのは飛行魔導士隊くらいしか残っておりません!」
ピョートル大公に貴族や兵士や将軍が次々と訴える。ダキア守備隊は散り散りになり、ゲルマニア軍は一直線にダキア軍の首脳部が揃ったここクレムリを目指している。
最早一刻の猶予もなく、今すぐにここを捨て、メレン市外に脱出しなければならない。
しかしピョートル大公は全く動こうともしなかった。その態度に大抵の者は苛立っていた。
「ここは我が軍の最高司令部だ。ここを捨て、更にはメレンの市民を捨てて逃げることは出来ない」
「殿下! 我が軍の首脳部を存続させる方が重要です! メレンを捨ててでも、我々はダキアという国家を守らねばならないのです! どうか!」
ホルムガルド公アレクセイは必死に訴えた。ここにいる大公や大貴族や将軍たちが失われれば、ダキア大公国という国家は消滅したに等しい。
故に、国家を存続させる為にはメレンを捨てねばならない。
「クソッ。殿下、やはりあなたは我々の主に相応しくなかった!」
その時、一人の男が机を叩きつけながら立ち上がった。ダキアを代表する大貴族の一人、リャザン公ルドルフである。
「ふむ……確かに、私は完璧な君主などではなかったな」
「そういう話ではない! 最早ダキアは終わった! 我々には他に生きる道はない!」
ルドルフは懐から拳銃を取り出し、迷いなくピョートル大公に向けた。反乱である。
「ほう? この私にその銃を向けるか」
「ヴェステンラントにたぶらかされ、国家を無為な戦争に巻き込んだ罪! それは裁かれねばならない! そしてダキア大公国を存続させる為にも、お前を除かねばならない!」
「ダキアの為、か。どの口がそれを言う?」
「貴様に言われたくはない! さあ立ち上がれ、憂国の志士たちよ!」
ルドルフが檄を飛ばすと、覚悟を決めたのか、10人程度の人間がピョートル大公に銃を向けた。かなりの大貴族も含まれていた。
「なるほど。リャザン公の衝動的な行動ではないという訳か」
「そうだ。我々はかねてより、貴様を排除する機を伺ってきた。もしも貴様が国家の為によき選択をするのであれば、我々もそれに従うつもりであった。だが、貴様は自らの私情でダキアを戦争に巻き込み、国家を滅ぼそうとしている! 我々は貴族として生まれ持った神聖なる義務に基づき、貴様を弾劾する!」
「ふん。愛国者気取りか」
「気取りなどではない! 我々は憂国の志により――」
「やかましい。つまりは勝ち馬に乗りたいということだろう? この売国奴どもが」
「話し合いは無意味なようだな! もう死んでもらう!」
ルドルフは引き金に指をかけ、ピョートル大公の眉間に照準を合わせた。
「し――」
が、その瞬間、ルドルフの首が体からずり落ちた。
「うむ……」
「な、何だ!?」
「だ、誰かいるのか!?」
造反を企てた者も、特に関係ない者も恐怖を抱かざるを得なかった。
「さて諸君、まだ私に逆らうか?」
「こ、このっ!」
貴族の一人がピョートル大公を撃とうとした。が、次の瞬間には彼の心臓が胸から飛び出した。議場は床は2人の血で赤黒く染まった。
「こ、こんな……馬鹿な……」
「な、何が……」
反逆者たちは次々と拳銃を落として諸手を上げ、無抵抗の意思を示した。
「こいつらを拘束せよ」
「はっ!」
守衛の兵士たちが造反を企てた者どもを拘束した。かくしてこの反乱は未遂に終わった。
「よくやってくれた、マキナ君」
「仕事ですので」
ピョートル大公の傍にメイド服を着た少女が突然姿を現した。さっきまで存在していなかったのが、瞬きをしたらそこにいるのである。
「そ、その少女は何なのですか……?」
ホルムガルド公アレクセイはおずおずと尋ねた。
「ヴェステンラントに送ってもらった援軍だ。こいつらの謀略を未然に察知し、そして今、そこに転がってる2人を殺してくれた子でもある」
「な、なるほど……」
ピョートル大公は自らに反意のある者の存在を既に知っていた。その上で今日まで泳がせていたのである。そうして反逆者を一網打尽にすることに成功したのであった。
「ま、まあ……殿下に仇なすものを排除出来たのはいいとして、ゲルマニア軍はもうすぐそこに迫っています。どうされるおつもりで?」
「それについては、我々にお任せください」
「君たちは……飛行魔導士隊か」
「ええ」
黒い修道女のような恰好をした、飛行魔導士のエカチェリーナ隊長である。
「我等に善を行う者に善を施し給え……。私たちが皆様をメレン市外にお連れします」
「そういうことだ。私たちは飛行魔導士隊に運んでもらう」
「しかし……飛行魔導士隊も所詮は60人しかいません。ここにいる全員を運ぶことなど……」
「兵士諸君を運ぶのは確かに不可能だ。飛行魔導士隊が運ぶのはあくまで首脳部。ここの守衛たちは、好きに降伏することを許す。さっき私に銃を向けた者どもは置いていけ」
「――はっ」
かくしてダキア大公を筆頭とする大貴族たちは、飛行魔導士隊の手取り足取りで脱出するのだった。
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