メレン攻撃Ⅴ

「やってくれてるじゃないか……」


 シグルズは戦車の装甲に魔導剣を突き立てている魔導兵を見つけた。


「ま、やるか」


 シグルズは何の躊躇もなく引き金を引き、機関銃弾を10発ほど叩き込んだ。魔導装甲は割れ、ダキア兵は倒れた。が、次から次へと兵士が乗り込んできて、シグルズの視界の中ですらダキア兵が狼藉を始めた。


 更には大破炎上する戦車すら現れ始める。


「クッソ……」


 敵は一斉に襲い掛かってくるのではなく、断続的に兵士を送り込んでくる。こちらに休む暇すら与えない敵の戦術は実に素晴らしく、迎撃も間に合わないでいた。


 ――どうしよっかな……


 シグルズの速射銃もあまり効果なし。というかそもそも速射銃はそこまで遠距離を狙うものではなく、遠くの方はどうしようもない。


 シグルズは考える。現状を少しでも改善できる新たな武器を――


「じゃ、対物ライフル」


 頭の中で思い浮かべる。元々戦車を撃破する目的で設計され、歩兵が扱う武器としては最大最高の火力を誇る狙撃銃。人間が扱うのなら地面に固定しないと自分が吹っ飛ぶほどの代物である。


 それを思い浮かべれば、たちまちシグルズの手元に対物ライフルが召喚された。


「さーて、狼藉は許さんぞ……」


 速射銃はかなぐり捨て、シグルズは対物ライフルを構えた。


「じゃあまずは……」


 3人組で、2人が防御を担当しつつ1人が装甲を貫こうとしている兵士たちがあった。防御の魔法が使える魔女を含んだ精鋭だ。機関短銃や小銃程度では厚い壁を貫くことは出来ない。


 だが、その防御も方向は限定的。遠く離れたシグルズのいる方向は防御されていない。


「ではさようなら」


 シグルズはスコープを覗き込み、剣を持っている兵士に狙いを定め、引き金を引いた。魔法で筋力を強化したとは言えその反動は凄まじく、反動で体がハッチの側面に打ち付けられた。まあまあ痛かった。


「で……おお」


 兵士は一撃で頭を貫かた。いや、貫かれたというよりは、あまりの破壊力によって頭が半分ほど吹き飛んでいた。大量の血と脳漿を流しながら兵士の体は戦車から落下した。


 後ろにいたはずの兵士の頭がいきなり爆発し、魔女たちも震え上がった。そうして混乱しているうちに彼女(恐らく)達は機関短銃によって討ち取られた。


「魔導装甲を一撃で貫ける火力か……」


 シグルズは不気味に微笑んだ。が、この武器には欠点もある――いや、欠点しかない。


 反動はあまりに大きく連射はとても不可能。


 シグルズでもそれなのだからこの世界の人間に扱うことは到底不可能。


 シグルズが魔法で作ったこの銃に匹敵する精度のものをゲルマニアが生産することも不可能。


 よって、対物ライフルの登場によって戦争の局面が一変するということはあり得ない。だが今この場の戦況を一変させることは出来る。


「やってやろうじゃないか……」


 遠くの敵や近くの敵を代わる代わるに狙撃し、ダキア兵たちの体が粉砕されていく。彼らから見ればまるで人体が突然爆発したとしか見えない訳で、ダキア軍はたちまちパニックになった。


「……これで任務完了、かな」


 何故に自分たちが死んでいるのか理解できない。その状況は最高に効く。シグルズが実際に殺したのは20名ほどであるが、ダキア兵たちは戦車大隊から逃げ出し始めた。


「敵が逃げていくようだぞ、師団長殿」

「ああ、まあ、そうだな」

「今回は何をしたんだ?」

「ちょっと新しい武器を使ってみただけだ」


 蜘蛛の子を散らすように兵士たちは無秩序に逃げ惑い、そのせいで更に多大な損害を出すことになった。敵に背を向けた死体という不名誉なものが量産される。


 こうしてダキア軍の襲撃は撃退されたのだった。


「ヴェロニカ、被害状況は?」

「はっ。戦車が3両、装甲車が4両が大破しました。また4両の戦車が走行不能になっているようです」

「走行不能? どういうことだ?」

「はい。どうやら履帯を壊され、マトモに操縦することが出来なくなったようです」


 どんなに装甲を強化しようとも足回りだけは防御することは出来ない。故にいかなる時代の戦車においても弱点は足回りであり、戦車に抵抗する兵士たちはいつもそこを狙ってきた。


 それはゲルマニアの戦車においても同様である。偶然にしてもそれを突かれたということは、つまりは弱点を見抜かれたということ。


 これは由々しき問題である。


「ヴェロニカ、それらの車両は故障扱いとし、この場に放置。分かったな? 司令部にも故障扱いで報告して」


 シグルズは一切の反論を許さないといった語調で命令した。無限軌道を狙えば戦車を止められると敵に知られることは断じて許容されない。司令部を騙してでも、だ。


「りょ、了解しました……」

「ああ」


 ヴェロニカは質問することも出来なかった。


「師団長殿、これも戦車の弱点なのだな」

「……ああ。決して口外するなよ」

「無論だ。この私がそんなへまをしでかし訳がなかろう」

「それでいい。……では、再び進軍を始めよう」


 戦車大隊の損害は十分に許容できる範囲だ。シグルズはクレムリへの進軍を続けた。

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