第一次攻勢Ⅳ
「どうして戦車が燃えてるんだ! 魔導弩で戦車の装甲を貫くことは不可能だった筈だ!」
シグルズは珍しく声を荒らげた。戦車はこれまで何十両も失われてきたが、その原因は全て納得のいくものだった。だがこれは違った。明らかに敵の攻撃によって、真正面から戦車が撃破されたのである。
「この短時間で魔導弩を強化したとでも……?」
全く考えられないが、戦車と初遭遇してからの1ヶ月程度で戦車を撃破できるほどの性能を持った魔導弩を開発したと、そういうことになりかねない。
「いいや、師団長殿、敵は燃料槽を魔導剣で刺したんだ」
オーレンドルフ幕僚長は、流石の冷静な観察眼で、戦車が撃破された原因を見抜いた。
戦車というのは真正面から敵に突っ込むことを前提としている。よってその装甲は正面に偏って厚く作られており、側面や後方の装甲は薄い。特に本来敵に見せることのない背中の装甲は薄い鉄板といっても差し支えないようなもので、鉄を斬ることに関しては得意な魔導剣に貫通されたという訳だ。
しかも魔導剣の原理が高温でものを焼き斬ることであることから、燃料に引火して大爆発したという訳である。魔導剣は意外にも戦車を破壊するのにかなり適した武器だった訳だ。
が、仕掛けが分かれば対応は難しくない。
「――歩兵隊は降車し、戦車にまとわりついた敵兵を追い払え!」
これまでは装甲車の中から射撃していた歩兵隊は次々と降車し、車両の間を縫って近くの魔導兵を次々と撃ち殺していく。
戦車が邪魔でダキア兵は魔導弩の長射程を活かせず、装填が非常に遅いのもあって、機関短銃の前にはロクな抵抗も出来なかった。
「よし。これで問題ないな」
「油断は禁物だぞ、師団長殿」
「ま、まあそれもそうか……」
シグルズは気を引き締め直した。が、その矢先、またもやロクでもない報告が飛び込んできた。
「シグルズ様! 森の中から魔導反応です!」
「何?」
咄嗟に森の方を見る。が、特に兵士の姿は見えない。森は静まり返っている。魔導士がいるような様子はない。
「……ヴェロニカ、本当か?」
「はい。間違いない……と思います――っ、反応が増大してます!」
「嫌な予感しかしな――!」
その瞬間、数百の矢が一斉に飛来し、戦車や装甲車を叩きつけた。そして当然、多くのゲルマニア兵が撃ち抜かれ、多数の損害が出た。うめき声と悲鳴が木霊し、戦場は一転してゲルマニア兵の方が狩られる側となった。
敵は一切の魔法を使わずに魔導探知機から隠れ、かつ草木に姿を完全に隠し、ギリギリまでゲルマニア軍を引き付けたところで一斉に射撃を行ったのだ。
実に賢い戦い方である。ゲルマニア軍の手の内をこれでもかと読んでくる。
「クソッ! ここまで見込んだ罠か!」
「師団長殿、落ち着いてくれ」
「ああ……総員、装甲車の中に戻れ!」
矢は降り注ぎ続けている。敵の射線の中に兵士を晒しておく訳にはいかない。
シグルズは直ちに撤収を命じた。が、それで済む問題ではない。
「師団長殿、兵士を下がらせれば、今度は戦車が破壊されるぞ」
「クッ……」
敵を恐れて歩兵を下げれば、丸腰になった戦車が魔導兵の白兵攻撃で撃破される。歩兵か戦車か、どちらかを必ず殺すか壊す、最高の手だ。今すぐに指揮官をなぶり殺したくなるくらいには。
どちらを選択するべきか。答えは――どちらでもない。
「全車、砲塔を回転させ、森の中に榴弾をぶち込め!」
「あ、そ、そんなことも出来るんでしたね……」
「ああ。何のために口径を落としてでも回転砲塔を付けた、ってことだね」
回転砲塔を廃し固定砲にすればより大きな大砲を積むことが出来、攻撃力は当然上がる。榴弾にしても炸薬は多い方がいい。
戦車は砲塔を右に90度回し、榴弾砲を森の中に向けた。
「撃て!」
敵は隠れているのだろう。だが榴弾の前には関係ない。
大木は折れ、土は凹む。そして草木に偽装していたダキア兵があぶり出されてきた。不運な兵士は直撃を受けて吹き飛ばされ、残った者も怯えて持ち場から逃げ出し始めた。
「うん……出てきたな」
「横から撃てば撃ち返されないとでも思っていたのだろうな」
確かに、ポドラス会戦では回転砲塔をほとんど活用しなかった。敵が戦車の能力を見誤ってくれた訳だ。
「どうする、指揮官殿?」
「簡単に帰してやるわけにはいかないな。機関銃で掃討せよ!」
こっちも多くの兵士を殺されているのだ。逃げ惑う敵とは言え、容赦などしない。
回転砲塔には主砲の榴弾砲の隣に2丁の機関銃が取り付けられている。
「撃て!」
榴弾で隠れた敵をあぶり出し、あぶり出された敵を機関銃でなぎ倒す。ダキア兵は次々と倒れ、森は赤く染まっていった。そうしてダキア兵の射撃はほぼ無力化された。
「よし! 歩兵隊は再び出撃! まとわりついた敵を追い払え!」
魔導弩を撃ちかけてきた魔導兵は排除した。次は陣形の間に入りこんだ虫を排除するだけだ。
「今度こそ、これで問題ないな……」
「そうですね。今度こそ、周囲に魔導反応はありません……」
「ふう……」
ダキア軍の奇襲は一先ず撃退することが出来た。が、戦車大隊は多大な損害を出すこととなってしまった。
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