撤退戦Ⅲ
一方その頃、主戦場から遠く離れた空中では、シュルヴィ・オステルマンとエカチェリーナ隊長が膠着状態に陥っていた。
「はあ……そろそろ死んでくれねえか?」
「……そちらこそ、いい加減に死んでくれないかしら」
お互いに魔法を使い続けて疲れ果て、殆ど惰性で戦っていた。双方ともに、相手を終わらせる気などとうに失せていたのだ。
だが殺し合いを終わらせることも出来ず、こうしてブレブレの弾丸を撃ち合っている。
『隊長、ご無事ですか!?』
その時、エカチェリーナ隊長の耳元の魔導通信機から、アンナ副長のかわいらしい声が聞こえた。銃撃を続けながらエカチェリーナ隊長は応える。
因みに、相当前にシュルヴィの特製弾薬は尽きている。
「ええ、無事よ。どうしたの?」
『よ、よかった……』
「――要件を言いなさい」
『え、は、はいっ! これから友軍が最後の突撃を行うとのことで、その……一応お伝えしておこうかと……』
ホルムガルド公アレクセイは、十分に体勢を整えられたと判断し、これよりゲルマニア軍の防衛線に対し、最後の突撃を敢行しようとしていた。
「そう。分かったわ。引き続き味方の援護を」
『はい!』
通信終了である。
「へー。あんたも部下に仕事を任せてるんだな」
「ええ。あなたのせいでね」
オステルマン師団長は師団をヴェッセル幕僚長に任せ、エカチェリーナ隊長は飛行魔導士隊をアンナ副長に任せている。そう考えると、両名は自分の部下をほっぽり出して決闘を挑んでいるというよろしくない共通点を持っている。
そしてこんなに長く戦っているのだ。お互いにちょっとした共感を覚えつつあった。
「ああ……そう言えば、私の仕事は飛行魔導士隊とやらを足止めすることだったな……」
「あら、じゃあ仕事は大失敗ね。おめでとう」
「チッ……流石にマズいな……」
戦闘狂のシュルヴィとは言え、そろそろ自分がエカチェリーナ隊長の術中にあるということに気付いてきた。シュルヴィがエカチェリーナ隊長を殺すのに夢中だったせいで第18師団は飛行魔導士隊に撃たれっぱなしなのである。
「ああ……やめだ、やめ! 私は帰る!」
「とっくに弾切れじゃないかしら?」
「ああ……そうだったな……」
シュルヴィは弾薬を使い切ってしまえばもう戦えなくなる。よって今のシュルヴィが前線に駆けつけたところで大した意味はない。
シュルヴィは前線に行く気を失くした。
「大体、お前はどうしてそんなに撃ちまくってるのに弾薬が尽きないんだ?」
「さあ? ちょっとは考えてみたら?」
「チッ……」
シュルヴィは考える気も起きなかった。
「まあいい。もう疲れた。帰らせてもらう」
「……そう。じゃあとっとと失せなさい」
エカチェリーナ隊長は追いかける気も起きず、決闘はここで解散となった。
○
「突っ込め!!」
「「「おう!!!」」」
放置された柵を打ち倒し、ホルムガルド公アレクセイの率いるおよそ10,000の軍団は、ゲルマニア軍がありったけの機関銃と小銃を持って構える柵に突撃した。
「撃て!!」
「「「おう!!!」」」
ゲルマニア軍も応戦を開始。辺り一面に銃声が響き渡り、戦場は銃弾で満ちる。殆どの銃弾は魔導装甲に弾かれるが、十数発に一発は魔導装甲の耐久限界を超え、ダキア兵の体を貫く。
しかしそこでゲルマニア軍は奇妙な動きを始めた。
「うん? 奴ら、何をしている?」
アレクセイはゲルマニア兵たちが所々で道を開けるように散開していくのを見た。まるで戦意を喪失した部隊が勝手に逃げ始めたように。
「あれは……敵が戦意を喪失したのでは?」
「いや、それにしては、周囲の部隊にそんな兆候は見られない」
戦意喪失で敵前逃亡する兵士が出始めたら、それは末期の軍隊だ。そうであるのなら、暫く待っていればゲルマニア軍は完全に瓦解する。が、そんな様子はない。
「なれば、あれは敵の作戦……警戒を――」
「公爵様! あれを!」
「――!?」
兵士が抜けた隙間から、荷車の正面に4つの銃口を取り付けたような、奇妙な形をした武器が姿を現した。
「あれは……」
「対空機関砲だ!」
「え、そ、そうなのですか?」
「全軍、あれを避けろ!!」
アレクセイは必至の形相で命じた。だが既に遅かった。対空機関砲は火を噴き、機関銃弾の倍以上の口径を持った機関砲弾が真正面から襲い掛かる。ものの1、2発で魔導兵すら屠るその威力。風に薙がれた草のように、対空機関砲の正面のダキア兵は狩り取られていく。
「こ、これほどのものをゲルマニア軍は隠していたのでしょうか……」
「いやそうではない。言ったろう、あれは対空機関砲だと」
「で、ですが……ここまでの兵器をどうしてゲルマニア軍は使ってこなかったのでしょうか……」
魔導兵にこんなに有効な兵器なのだ。ゲルマニア軍がこれまで一度も地上戦に使ってこなかったのは訳が分からない。
「そんなことを考えている暇はない! 全軍、対空機関砲を避けながら進むのだ! 相手取ろうなんて思うな!」
対空機関砲の数自体は大したことはなく、防衛線を片っ端から守り切れるほどの数はない。
大いに勢いを削がれ、一瞬にして千近くの損害を出しながら、まだまだ突撃は終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます