玄武隊の活躍
ACU2311 2/7 大元國
大八洲皇國は、その北の小国――大元國がヴェステンラントに協力していると知るや宣戦を布告。国境警備の軟弱な兵をいとも簡単に打ち破り、アストラハヤを貫く大道路を押させようとしていた。
「直江殿、東方二千パッススにヴェステンラント軍の荷駄隊を確認しました」
「了解だ。皆の者、剣を抜け! 戦だ!」
大八洲の部隊を率いているのは、皇國の北方にある上杉家の天領を支配する直江蒙古太守藤原眞人晴兼である。比較的若いながらも(それでも晴虎よりは年上だが)温和な性格と仕事を淡々とこなす有能さから、同輩や臣下たちからの信頼の厚い男だ。
「敵の数はおよそ三千です」
「音に聞く、黒き兵なるものは見えるか?」
ゲルマニア親衛隊がダキア蜂起の際に遭遇した、機関銃ですら力不足の黒い魔導装甲を纏った魔導兵。その情報は大八洲にも届けられ、諸大名は大いに警戒していた。無論、晴兼とてその例外ではない。
「それが……見えます。どうやら、その者どもが荷駄隊を守っているようです」
「――了解だ。皆に気を引き締めるよう伝えよ」
「はっ」
これが大八洲にとって初の遭遇だった。初めての敵と戦うというのはやはり、緊張を伴うものである。
さて、この戦闘の目的は、ダキアに鬼石を運ぼうとしているヴェステンラントの部隊を撃退することである。決して敵を殲滅することではない。何なら戦う必要すら理論的にはないものだ。
「敵の武士は何人ほどだ?」
「およそ、五百かと」
「こちらは四千……戦わずして逃げてはくれまいか……」
敵の大半は鬼石を運んでいるだけの軍属。実際に戦えるのは五百のみである。この八倍の兵力差、普通の将軍ならば逃げることを選ぶ筈であるが――
「敵は――一歩も引く様子などないようです」
「我らに気付いていないということはあるまいな」
「それは流石に……」
「そうだな……」
こちらには倍以上の人数がいるのだ。敵が気付いていない訳がない。それでも大街道を堂々と行進してくるのは、正面切って戦う意思があるということだろう。
「分かった。趙と周の軍は一番槍だ。他は魚鱗の陣にて敵を迎え撃つ」
今回晴兼が率いる部隊は合計で四千であるが、そのうち晴兼が直卒する部隊――玄武隊の人数は、半分の二千でしかない。残りの二千は唐土の諸国から集めた兵で構成されている。
本来玄武隊の総兵力は一万四千であるのだが、これだけの兵力しか出せていないのは、未だに唐土で反乱の足音が絶えないからである。玄武隊は国境の管理の他に、唐土の諸国への牽制という重要な役割も与えられている。
「趙と周の兵で合わせて千。これだけでも普通は勝てる筈であるが……」
「そうは思っていらっしゃらないのですね」
「まあ、そうだな。ここまでの自信を持って八倍の敵に当たれるとなれば、敵は相当な強者。出来得る限りの備えをするにこしたことはない」
「で、ありますな」
街道を封鎖するように展開した大八洲軍。そしてついに、敵は動き出した。
「敵の総勢五百、突っ込んできます!」
「趙と周には、焦ることなく、無理をせずに戦わせるのだ」
「はっ!」
禍々しい黒、或いは紫の甲冑を纏った五百の騎兵。それらはまず、倍の数の防御を整えた部隊に突撃した。
双方の鬨の声が響き渡り、戦端は開かれた。
趙の騎兵がまずは先行し、騎兵同士の戦いが始まった。しかし、その様子はあまりにも一方的だった。
「こ、これは…………」
「落ち着くのだ。ここまでは、分かっていたこと」
唐土の騎兵はまるで紙人形のように次々と切り伏せられていった。
敵の鬼鎧は極めて固く、こちらの頼光刀ですらなかなか通らない。しかし敵の剣はべらぼうに強靭であり、こちらの鬼鎧はいとも容易く切り裂かれた。それはまるで、武器を持たぬ者を持つ者が一方的に殺して回っているようだった。
「ここまでの刀と鎧が……」
「いや、それだけではない。よく見るのだ」
「まさか、剣術においても敵に長があると?」
「その通りだ。これは……」
敵は装備が優れているだけではない。その剣術は大八洲の武士をも上回るものであり、同じ装備をしていたとしても恐らくはかなり劣勢な戦いを強いられていただろう。
「鬼に金棒とは、まさにこのことですな」
「鬼に金棒か。うまいことを言う」
しかしそんな冗談を言ってもいられない。僅かに十数名の敵を倒しただけで、趙と周の前線はあっさりと突破されつつある。
「ど、どうしますか、直江殿」
「ここは、あの手しかあるまい。皆、槍を持て!」
「――承知しました」
前線で時間を稼いでいる間に、晴兼本隊の武士たちは一斉に槍を構えた。
「敵が来ます!」
「奴らを絡み落とせ!」
「「「おう!!!」」」
武士たちは数の優位を生かして一人の敵を数人で囲むこむと、槍を用いて馬上の敵を引きずり下ろした。そうして落馬した敵を囲んで力づくで倒す。
それを何度も繰り返し、ついに敵は多大な損害を出して撤退した。
「勝てたのですから、よしとしましょう」
「そうだな。あまり気持ちの良いものではなかったが……」
大八洲では一対一での正々堂々の戦いが好まれ、このような集団戦は基本的に卑しいものとみなされている。その禁忌を侵さざるを得なかったことは、晴兼の心を痛めた。
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