メレン蜂起Ⅱ

 正面玄関のバリケードは打ち破られ、多数の機関銃と小銃、そして死体が散乱している。彼らを蹂躙した紫の装甲の兵士は、本部への突入を試みていた。


「これは、もぬけの殻――という奴ですか?」

「上には兵士がいるだろうが」

「確かに」


 建物の内部へと侵入した訳だが、そこには誰もいなかった。聞こえるのは上層からの銃声だけで、1階は奇妙な静寂が支配していた。内部に侵入されたというのに抗戦しようとしないゲルマニア軍の様子は理解しがたいものである。


「どうしますか、隊長?」

「誰もいないんだったら、上に上がって制圧するべきだろう」

「そ、そうですね。行きましょうか」

「ああ。ただし、警戒は怠らずな」


 ヴェステンラント軍が新たに開発した新型の魔導装甲。それは機関銃の集中砲火にすらある程度耐えられるほどの耐久力を誇る。それを身に着けているにも拘らず、彼らは何とも言えない恐怖心を抱いていた。


 数十人が集まったところで、彼らは敵の指揮官がいると思われる3階への侵攻を始めた。


「階段、ですね」

「ああ。階段だな」


 階段の先は真っ暗である。


「よし。行くぞ!」

「はっ!」


 どぎまぎしている暇はない。早速彼らは階段を駆け上り始めた。


「て、敵だ!」


 しかし、階段を半ばまで登ったところ、上から豪雨のように弾丸が降り注いだ。階段は穴だらけになり、手すりが崩れ落ちるような火力である。たちまち先頭の魔導兵が倒れ、彼らは後退を強いられた。


 ○


 ゲルマニア側を指揮しているのはカルテンブルンナー全国指導者である。貴族みたいな格好をしている彼だが、その見た目とは似合わず、最前線での指揮を好む。


「よし。銃撃を絶やすな。1匹たりとも2階には通すな」

「はっ!」


 階段の上には100名程度の兵士が機関短銃を構えて陣取っている。踊り場を過ぎた敵の姿が見えた瞬間、毎秒1,000発ほどの圧倒的な火力で殴りつける。いくら耐久力に優れた魔導装甲とは言え、これほどの火力に耐えることは出来ない。


 狭い階段という敵が一直線でしか攻め込めない場所では、この戦術は非常に有効である。


 十人程度を殺したところやがて敵の姿が見えなくなった。


「敵が……諦めたのでしょうか?」

「敵は機を待っているだけだろう。ここ以外に上に上がる手段はない。奴らは必ず来る」

「そう、ですね」


 親衛隊本部は建物の中も防御に向いた構造になっている。その一つとして、普段は非常に不便なのだが、上に上がる階段が1つしかない。ここさえ守っていれば敵が侵入することはない。


 敵がただの人間であれば、だが。


「閣下! 敵です! 外から!」


 と、窓に置いた機関銃を操っている兵士が叫んだ。


「何?」

「て、敵が――うああっ!!」


 硝子が粉々に砕け、窓から紫の鎧を着た魔導兵、いや、魔女が飛び込んできた。そして他の窓からも間髪入れずに次々と魔女が入り込んでくる。


「反撃だ! 殺せ!」


 機関短銃を持った兵士たちが、勢い余って廊下で転がっている魔女に容赦なく弾雨を浴びせた。


 数人は殺せたが、入ってくる敵の勢いの方が激しく、とても捌き切れるような状況ではなかった。また2階から地上への火力も減退し、より多くの魔導兵が地上から侵入して来ていた。


「閣下! 下から敵が来ます!」

「こっちも抑えきれません!」

「クソッ……2階は放棄する! 総員、3階に上がれ!」


 カルテンブルンナーは、ここで持ちこたえることが不可能と判断した。数十人の殿軍を残しながら、彼らは3階へと駆け上がった。


「階段の防御を固めると同時に、機関銃は窓に照準を合わせて再設置しろ」


 階段の防御はこれまで通りに機関短銃で。窓から侵入してくる魔女については各部屋の中に置き直した機関銃で、侵入した瞬間に血祭りに上げる。


 ここが制圧されれば親衛隊は終わりだ。絶対に敗北は許されない。


 やがて2階の殿が全滅し、敵が3階への攻撃を開始した。


「敵です!」

「落ち着け。入って来たところを撃ち殺せ」


 早速翼を生やした魔女が3階の直接突入してきた。が、廊下に入った瞬間、その奥に置かれている機関銃が火を噴き、左右からは機関短銃に撃たれ、魔女は死んだ。


 階段からの侵入はこれまで通りに順調に防げている。


「後は弾薬が切れなければ――ですね」


 確かに1階、2階に置いてあった弾薬は全て失ってしまった。


「敵の絶対数はそう多くはない。それに、増援が来るまで耐えられれば我々の勝ちだ。心配には及ばん」

「か、閣下……」


 敵は1人残らず殺し尽くすのが信条のカルテンブルンナー全国指導者が、耐え抜くことを目的としている。これは状況がかなり悪いことの証左である。


「まあいい。今は目の前の敵を皆殺しにしろ」

「はっ!」


 その後も激しい戦闘は続いた。


 地上からの侵入は妨害することすら出来なくなり、階段から多数の兵が侵入してくる。窓からは次々と魔女が侵入し、周辺に矢を舞い散らして数人の兵士を殺す自爆まがいの攻撃をしかけてくる。


 弾薬と人命は消耗し続け、戦況は苦しくなるばかりだ。


「閣下、このままでは……」

「我々が苦しいとき、敵もまた苦しいのだ。ゲルマニアの為に戦い続けろ」

「――はっ!」


 逃げ場などない。最後の一兵になるまで戦う他に道はないのだ。



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