第十五章 ゲルマニア軍の反攻
攻勢開始
ACU2310 4/24 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 帝都ブルグンテン 総統官邸
「本日より、神聖ゲルマニア帝国軍はヴェステンラント合州国軍に対する反抗作戦を開始致します」
ザイス=インクヴァルト司令官は総統や参謀総長などの名だたる面々に対して意気揚々と宣言した。つい3週間前までは帝都への攻撃を許していたとは思えない、時期尚早とも言える作戦である。
「本作戦の第一目標は、敵軍に占拠された低地地方防衛線の奪還です。敵は我が軍の構築した塹壕線をそのまま利用しており、作戦には相当な困難が予想されるでしょう。しかしながら、精鋭なる我が軍は必ずや敵を粉砕すると、私は確信しております」
この少し遠回りな言い方には理由がある。
「少し遅れましたが、本作戦の最高司令官は無論、このヴィルヘルム・オットー・フォン・ザイス=インクヴァルト西部方面軍総司令官です。しかしながら、この第一段階で突撃歩兵を直接に指揮するのは、参謀本部に直属する第88師団を率いるシグルズ・フォン・ハーケンブルク城伯であります」
特に名前のなかった浸透戦術の要となる兵士は突撃歩兵と名付けられた。シグルズはめでたく、突撃歩兵隊長という身分を手に入れた訳である。因みに、動員される突撃歩兵は総勢40,000人である。
「第一段階で帝国の神聖なる土地を奪回した後は、ルシタニア領内への行軍を行います。これが第二段階の攻勢であります。作戦目標としましては、我が軍の防衛線に沿うようにして建設されているヴェステンラント軍の防衛線を突破し、可能な限り友邦の土地を本来あるべきところに還すことにあります」
ヴェステンラント軍は塹壕やトーチカ様の拠点を含んだ防衛線を短期間のうちに完成させた。これに穴を開けるべく、低地地方に敵を引き付けた後に南部での第二次攻勢をしかけるのである。
「ここまでの作戦が順調に進んだ場合、第三段階として、ルシタニア沿岸の占領を目標とした進軍を行います。これについては、よほど第二段階までの攻勢が上手くいった場合に限りますが」
海岸を封鎖してしまえばヴェステンラント軍は孤立無援の状態に陥る。上手く進めばエウロパ遠征軍を完全に殲滅することが可能だろう。だがザイス=インクヴァルト司令官はそこまでことが上手く運ぶとは思っていなかった。
「いずれにせよ、今回の攻勢で浸透戦術の有用性が証明されることになるでしょう。これは我が国にとって非常なる利益となります」
これはザイス=インクヴァルト司令官の本音である。彼は実際のところ、ゲルマニアの端っこの土地やルシタニア王国などに興味はなかった。ヴェステンラント軍にゲルマニア軍の能力を知らしめることこそ彼の本当の目的である。
ヴェステンラントの防衛線を突破することすら可能となれば、ヴェステンラントとて交渉の席に着くだろう。彼が目指すのはどんな形であってもゲルマニアの勝利なのだ。
「以上で作戦概要の説明を終わります。何か質問はありますでしょうか?」
形式的な質疑応答。誰も質問がありませんでした、で終わるつもりだったが――
「一つ、いいかな?」
「はい。公爵殿下」
貴族院の弱弱しい、地位だけは高い貴族が手を挙げた。
「聞くところ、ハーケンブルク城伯はいくつかの師団を指揮するようだな?」
「はい。3つの師団を束ね、突撃歩兵隊とします」
「それでは、彼の地位はどうなるのだ? そのような地位は前例がないが……」
帝国軍で師団より大きな単位は方面軍のみである。その間に入る、いくつかの師団をまとめた単位というものは規定されていない。
「それについては、新たに軍団という編制を設け、その指揮官にハーケンブルク城伯を任じることとしました」
「しかし、城伯と言えば伯爵の下。師団長よりも地位の低い人間に、その軍団というものを指揮させるのか?」
「はい。ハーケンブルク城伯は、私の名代という形で軍団を率いてもらうつもりです。何か問題でも?」
「いや、しかしな……」
爵位にしか興味のない連中にしてみれば、爵位の低いものが高いものに命令するというのが気に入らないらしい。
「でしたら、我が親衛隊に逆らうおつもりですか?」
カルテンブルンナー親衛隊全国指導者は、不気味な微笑みを浮かべながら言った。今すぐにでも国家反逆罪で彼を逮捕し処刑する力がカルテンブルンナーにはある。
「い、いや、そんなつもりはない……」
「妥当な判断です。貴族制などという陋習に囚われた愚かな貴族は、ゲルマニアには必要ありませんので」
カルテンブルンナー全国指導者は平民だ。それが公爵を圧倒する力を持っているのである。
「あ、ああ……気を付けるよ」
「カルテンブルンナー、あまり荒っぽいことはするものではないぞ」
貴族に対しては攻撃的になるカルテンブルンナーを、ヒンケル総統は諫めた。ヒンケル総統自身は貴族に対してそこまでの恨みはない。
「これは、申し訳ありません、総統閣下。貴族の方々には敬意を払うべきでした」
「それでいい」
ゲルマニアは政治的にも急速に近代化されつつあるのだった。
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