ブルグンテン市街戦Ⅱ
「閣下! 突撃隊の損耗率50パーセントを超えました!」
「困るなあ、まったく」
兵士の半分が死傷。普通は3割が死傷したら全滅と判定されるのだが、それを上回る損害を出してもなお、カルテンブルンナーは突撃隊を撤退させる気はなかった。
「か、閣下! どうか撤退をお許しください!」
「撤退? 何を言っているのかな? 彼らはゲルマニアに忠誠を誓った愛国の志士。最後の一人になっても戦うべきだろう?」
「で、ですが!」
「それとも、国家反逆罪で死罪になりたいのかな?」
「……い、いえ」
「ならばよろしい。戦いたまえ」
「はっ……」
酷い戦場であった。ヴェステンラント兵による一方的な殺戮とゲルマニア親衛隊による一方的な殺戮が同居している。互いに守りを捨てた殴り合いだ。
だが、天秤はヴェステンラント側に傾いたらしい。
「閣下! 突撃隊が突破されました!」
残りの兵が2割を切った頃、ついに突撃隊は瓦解した。指揮官がほぼ全滅したことにより指揮系統は崩壊。街路を塞ぐことすら叶わなくなったのである。
ヴェステンラント軍はカルテンブルンナーの罠地帯を、大きな損害を出しながら突破した。後には親衛隊の兵士と突撃隊の死体の山が残された。
「まったく……」
カルテンブルンナーは驚くでもなく、つまらなさそうに欠伸をした。
「ザイス=インクヴァルト司令官に連絡。親衛隊は失敗した」
「はっ」
およそ1,500の魔導兵を殺すことに成功した。しかし依然として7,500の敵兵が残存している。これをどうするべきか。ザイス=インクヴァルト司令官にはまだ策が残っている。
○
「チッ、狂信者どもが」
馬の足で死体の山を踏みつけながらノエルは吐き捨てた。殆ど自殺のようなことを意気揚々とやってくるゲルマニア兵に、ノエルは得体の知れない不気味さを感じざるを得なかった。
「ノエル様……」
「まあいいさ。損害は出したが、まだまだいける。目指すは総統官邸! 進め!」
「「「おう!!」」」
目標に変更はない。このままブルグンテンを突き進んで総統官邸を落とす。それだけである。
しかし、まだまだ罠は仕掛けられていた。
「何だ!?」
前後左右から押し寄せる銃声。たちまちノエルを囲んでいた兵士が倒れた。しかしその一発で銃声は途絶えた。
「ノエル様を守れ!!」
ノエルを数名の魔女が取り囲み、鉄の壁を作って完全に防護した。
「何だ今のは……」
たったの一回の斉射で多くの魔導兵が倒された。先程の狂ったような銃声とはまた違った攻撃である。
「ノエル様、もしかしたらヒスパニアと同じかもしれません」
ゲルタには思い当たる節があった。ヒスパニア半島でルシタニア王国は旧式の火縄銃を使っていた。これは装填に非常に時間がかかるが一撃の威力が非常に高いという特徴を持っている。つまり奇襲にはもってこいということだ。
「あれか……面倒――」
その瞬間、またも斉射。数百の魔導兵が一瞬にして失われた。ヴェステンラント軍は恐れおののいて防御の体勢に移り、突撃の勢いを失ってしまう。
だがそれこそがザイス=インクヴァルト司令官の狙いである。動かなければ鴨にされるだけなのだ。
○
「ザイス=インクヴァルト司令官も、なかなかやるではないか」
カルテンブルンナーはヴェステンラント軍を見下ろしていた。
ヴェステンラント軍は様々な魔法で壁を作って完全に防御の体勢に移行している。その堅牢さたるや亀の甲羅のようである。
「親衛隊もこれに加われ」
火縄銃を携えた兵士が作る罠に、機関短銃を持った親衛隊も加わる。これで火縄銃の装填の遅さを補える訳だ。敵の精神を摺り減らすにはもってこいだ。
機関短銃から延々と砲火を浴び、数十秒に一度、魔導装甲をも破壊する一撃が飛んでくる。ヴェステンラント軍は今や、全く動けなくなってしまったのである。
「しかし、このままではつまらないな」
「このまま敵の損耗を待つというのは……」
「それはあまり現実的ではないな」
ただ壁を作るだけならば、消費する魔力はそう多くない。エスペラニウムが尽きるまで絶え間なく撃ち続けるというのは現実的とは言えない。
「では、どうされますか?」
「ふむ……」
完璧な膠着状態だ。ヴェステンラント軍は手も足も出せないが、ゲルマニア側も砲火を途切れさせることは出来ない。
カルテンブルンナー全国指導者にもいい案は浮かんでこなかった。と、その時だった。
「敵に動きがあります」
「何?」
確かに、ヴェステンラント軍の甲羅がもぞもぞと動いている。
「何をする――飛び出した!?」
騎兵は防御を捨て、甲羅の中から飛び出したのだ。
「う、撃て! 逃がすな! 殲滅しろ!」
ゲルマニア側は守りを捨てた騎兵に弾丸を叩きこんだ。これで千にも迫る兵士が一気に倒れた。だがヴェステンラント軍は死者を捨て置いて総統官邸の方向へと猛進し始める。
追いかけようとするが、馬の足に人間は追い付けない。
「ま、まずい……」
最後の防衛線が落とされた。総統官邸を守る兵士はもういない。親衛隊も国民突撃隊も国軍も。
「そ、総統閣下に連絡。直ちに官邸からの避難を!」
「はっ!」
総統が死んだらこの国はお終いだ。それだけは避けねばならない。
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