第二世代の新兵器
ACU2309 12/2 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 ハーケンブルク城
「鉄道の方は、順調のようだね」
「はい。若いもんは元気があります」
ナウマン医長はやや疲れた声で。
「そ、そうか……」
「まあ、私も負けぬようには努力しますが」
「頑張ってくれ」
鉄道の敷設は順調に進んでいる。この調子でいけば来年の2月中には完成するそうだ。まあ、元々そう長くはない路線ではあるが。
○
「――シグルズ、どう?」
「ちゃんと車ですね……すごいです」
ライラ所長が披露したのは、シグルズから見れば創成期の自動車。この世界から見たら最先端の乗り物である。
形は完成しており、故障も少なく、安全性もそれなりにある。そもそもこの自動車は帝都からここまで走らせてきたのだ。
「人の運搬手段としては、鉄道に優るかもね」
「はい。鉄道網の届いていないところや前線付近などでは、兵士や物資の輸送に威力を発揮するかと思います」
思いますというより、発揮するのである。それは第一次世界大戦における自動車の活用具合を思い出せば明らかだ。フランス軍なんかは割と素面でタクシーを兵員輸送に使っていたし、どうしても徒歩に頼らざるを得ない前線で乗り物が使えるようになるのは大きい。
確かに、これだけでも帝国の戦力増強にはそれなりの活躍をするだろう。だが、これでは足りない。相手は、ヴェステンラントは、そんな小細工で打ち倒せるような連中ではない。
「で、これをもっと強化するんだよね?」
「はい。装甲戦闘車両を造るのです」
「装甲戦闘車両……かっこいいね」
要は戦車。鋼鉄の装甲と大砲で武装した陸戦の王者である。完成した暁には、攻撃でも防御でも、ヴェステンラントの魔女の大半に優るものとなるだろう。
「でも、エンジンの改良はするとして、具体的にどういう形にするの?」
「ああ、それはそうでしたね……」
本当に本当の創成期においては、戦車の形態は色々と迷走していた。菱形戦車――車体全体を無限軌道がくるんでいる車体などは有名であろう。
だが、正解は恐らく一つだ。その形態が200年間、基本的な姿を変えずに存続したのだから。
「まあ、こういうものがいいかなと思います」
シグルズは手に力を込めた。
そして目の前に戦車を作り出す。Ⅰ号戦車。ドイツが第一次世界大戦と第二次世界大戦の間で最初に設計した戦車である。
見た目は戦車としてはかなりこぶりで、装甲は薄く、戦車砲はなく機関砲が2門搭載されている。
最初から技術習得用として設計された戦車だ。この世界にもたらすのにはもってこいだろう。
「ふーん……」
ライラ所長は戦車の周りをぐるぐると何周か回って、その仔細に至るまで観察しつくした。
「上の機関砲は、回転するように出来てる?」
「はい。これが一番合理的な形でしょう。僕は砲塔と呼びますが」
戦車を戦車たらしめるもの。それは回転砲塔であろう。車体と独立して回転する主砲があるからこそ、戦車は縦横無尽に戦えるのだ。
因みに、回転砲塔のない戦車のことを駆逐戦車と呼ぶ。こちらは大口径の砲を積めるという利点があるが、機動性には欠ける。この世界ではまだ必要ないだろう。
「で、足元は車輪じゃないんだね」
「はい。無限軌道といいます」
「荷重が分散される?」
「――すごいですね。その通りです」
車輪というのは結局、地面に接触するのはほんの僅かな面積となる。自家用車くらいなら問題ないが、大重量のものを車輪で動かそうとすると、地面の方が耐えられない。
だが無限軌道――俗にいうキャタピラ――であれば、車体の重さを広い面積で分散することで、地面を傷つけずに済む。
「それと、不整地走破という面もありますが」
「ああ……確かに」
元々は凸凹の塹壕を無理やり突破する為に創られた兵器。塹壕に限らず、劣悪な環境であっても、無限軌道なら走り抜けられる。
はっきり言って道路の整備なんてされていない諸外国を戦場とするのなら、十分に役立つ能力であろう。
「それと、これって絶対、燃料をすんごく食うよね?」
「まあ、そうですね」
戦車の燃費の悪さは壊滅的だ、何せ、燃費の表し方が「km/L」ではなく「L/km」なのである。1キロメートルを走るのに数リットルの燃料を食うのだ。
「帝国にはそんな燃料はないんだけども」
「あ」
確かに、この辺りに大きな油田はない。
地球とこの世界の資源の配置が同じであればルーマニアの辺り――つまりガラティア帝国かダキアには油田があるが、油田開発を出来るだけの力はまだゲルマニアには期待出来ない。
ヒトラー政権の時には石炭液化で凌いでいたそうだが、そこまでの科学力はゲルマニアにはまだないし、シグルズもそこら辺は専門外だ。
「石炭で動かすのは――無理だな……」
ゲルマニアでも石炭は結構採れるのだが。
「そうなの?」
「はい。何というか、密度が違うんですよ」
「うーん、言いたいことは分かるよ」
「助かります」
戦車に積める燃料の量は限られている。であれば、出来るだけ小さい体積でより大きなエネルギーを生み出せるものを燃料に選ばねばならない。残念ながら石炭は、その要求を満たせない。
「どうしよう」
「どうしようねー」
どんな優秀な兵器でも、燃料がなければ動かない。これは問題だ。
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