ハーケンブルク城
ACU2309 9/20 神聖ゲルマニア帝国 グンテルブルク王国 ハーケンブルク城
「お久しぶりなのです、シグルズ」
「久しぶりだね、リリー」
リリー・ハーケンブルク。このハーケンブルク城の城主と名乗る貧相な身なりをした小さな少女は、相変わらずここに住んでいた。一体どうやって生計を立てているのか、全くもって謎であるが。
「今回はどのようなご用件です?」
「そろそろこの城をちゃんと使おうと思ってね。今回は沢山人を連れてきた」
「ほー。確かに、たくさんいるのです」
まず、クロエとザイス=インクヴァルト司令官が休戦条約を結んだことによって、シグルズとハーケンブルク城伯軍にはやっと暇が出来た。この機会にせっかく与えられて土地であるハーケンブルク城を整備しようとやって来たのである。
そしてそのハーケンブルク城伯軍だが、低地地方での戦いにおける戦功を鑑み、通常の師団と同じ、およそ15,000名にまで増員されている。
それに伴い、名前も少々変わることとなった。ゲルマニア帝国の師団としての名を与えられることとなったのだ。
「一昨日からなんだけど、ハーケンブルク城伯軍っていう名前は変更になった」
「何になったのですか?」
「第88師団。正確には、正式名称第88師団、通称ハーケンブルク師団ってところかな」
「なるほど。分かったのです」
これはシグルズが希望した数字である。ヒンケル万歳の頭文字だ。
もっとも、公式には何となく思いついた数字ということにしてあるが。
「この城については私が案内出来ますが、どうします?」
「それなら、頼みたいかな」
「分かったのです」
城の設計図や城下町の地図などは一切残っていなかった。その為、自らの手で探索をして地図を作る必要がある。その点、リリーの申し出は非常にありがたかった。
○
「――ここが抜け穴です」「――ここが開くと出し狭間があります」「――ここに投石機を置くといいのです」
等々。リリーの案内は詳細であったが、どうも物騒な話が多い。
「ねえ、リリー。ここって割と戦う目的で作られた城なの?」
「はい。そうなのです。地下には大きな食糧庫もありますよ」
「すごいな……」
もっとも、内地にあるここが戦場になる時はゲルマニアが終わるときな気がするが。
そんなこんなで、城内の案内は2時間以上に渡った。そうしてやっと、城内の構造が把握出来たのである。思っていたよりも大きな城であった。ボロボロだが。
取り敢えず、まずは片づけからだ。作った地図を元に部隊を割り当て、ハーケンブルク師団の総力を投じ、城内に散らかったごみを処分し、傷んでいるところは補修をする。
これは骨が折れそうだ。
○
「シグルズ様、お客様が来ているようです」
「客?」
読んだ覚えはないし、行くという連絡を受けた覚えもない。それにここに客が来る理由も分からない。だが、来たというからには会っておかねばならないだろう。
シグルズはその客とやらの下に向かった。
○
「何であなたがここに……」
「うーん、何となく?」
「はあ……」
そこにいたのは頭に三角帽子を被り、お伽噺の挿絵に出てきそうな外套を纏った少女――帝国第一造兵廠のライラ所長であった。
「ていうのは冗談で、ええと、私がここに来たのは、ここに第一造兵廠を移設しようかと思ったからなんだけど……」
「はい……?」
――いや、何で?
研究機関は帝都にある方が明らかに便利だし、この鉄道路線も何も整っていない場所に移設する理由もない。
「いやー、やっぱりシグルズにはこれからも色んなものを作ってもらいたいんだよねー。で、シグルズがここを拠点にするっていうならここに来ようって思った」
「……そこまでします?」
別にハーケンブルク城とブルグンテンはそんなに離れている訳ではない。魔法で空を飛んでくれば数十分で行ける距離だ。徒歩だとしても数時間。
「するよー。だって、気になったらわざわざ飛んでいくのはめんどくさい」
「まあ……分からなくもないですが……」
ちょっと質問をするのに数十分。それは確かに面倒だ。
「通信は……意味ないか」
「うん」
シグルズは工学に明るい訳ではない。ただ思い浮かべたものが手元に勝手に現れるだけだ。その点、魔導通信機で話ができたとしても何の意味もない。
「と、言う訳で、適当なところを借りるからよろしくー」
「それは構いませんが……」
所詮は1個師団。全員分の兵舎を立てたとしても大した土地は使わない。帝国第一造兵廠を移設してもなお、土地は余るだろう。その点については問題ない。
「何か、都合悪い?」
「その、移設の費用とかはどうされるおつもりで?」
「あー、考えてなかったー」
「え」
――考えてなかった!?
よくそれで所長が務まっているものだ。
「まあ、何か適当にやってれば何とかなるよ」
「何とかならないと思いますが……」
「因みに君も、お金の管理は大丈夫?」
「僕は……」
今のところは大丈夫だ。何故なら兵士の給料以外に何にも金を使っていない。
だが、これから先に本格的に師団を運営していくとなると、厳しいものがあるだろう。何せ、この師団には経理担当者がいない。
ライラ所長に何も言えなくなってしまったシグルズであった。
「ところで、自動車の開発はどのくらい進んでるんですか?」
「あー、何とか人を乗せて動かせるくらいのものは作ったよー」
「流石です……」
その功績は十分に称賛に値する。だが、それでは足りない。ただの自動車など戦場では何の役にも立たない。
「それを、出来れば――車体の全体を装甲板で覆っても動かせるくらいには強化して欲しいですね」
「厚さは?」
「5センチくらいです」
「5センチ……」
ライラ所長はむっと考え込んだ。
「考えてみる。出来たら後で教えるよー」
「お願いします」
シグルズが目指すのは戦車だ。恐らく、どんなに小銃を強化したところでヴェステンラント軍に攻勢を仕掛けるの不可能である。だが、これならば或いは――
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