ジャヤカトワン将軍

 ACU2309 10/3 マジャパイト王国 アチェ島 王都マジャパイト


「ここで国王を討つしか、マジャパイトが生き残る道はない!」

「「おう!」」

「皆の者、進め! 国賊ジャヤナガラを殺せ!」

「「おう!!」」


 その日、王宮を襲う数百の人々があった。ジャヤナガラ国王を排除すれば晴虎はマジャパイトを赦してくれるだろうと観測し、ついにそれを実行に移したのである。


 ○


「ど、どうなっているのだ!?」


 王宮の各所から叫び声が響き渡る。その異様な様子に、ジャヤナガラ国王はすっかり動転していた。


「ご安心ください。大したことではございません」


 その横で状況を冷静に分析している剛毅な男。彼の名はジャヤカトワン将軍。マジャパイトだけでなく大八洲などにもその名が知れ渡る名将である。


「し、しかし、これは、どうするというのだ?」

「全て我が手の内でございます、陛下。全てこの私にお任せ下さい」

「わ、分かった。だが、私はどうすればいいのだ?」

「陛下には、ここでくつろいでいて頂きたい。陛下のお手を煩わせることはございません」

「そ、そうか。分かった……」


 逃げるでもなく応戦するでもなく、ジャヤカトワン将軍はここにいるようにとだけ言う。国王にはその真意は全く読めなかったが、彼の言うことは信じることにした。


 ○


「見つけたぞ、ジャヤナガラ!」

「覚悟しろ!」

「は、入って来たぞ!? どうするんだ!?」


 玉座の間に闖入してきた一団。そこには国王と将軍の2人しかいなかった。


「愚かなり……者共、たいらげよ!」

「は、は?」

「「おう!!」」

「な、何だ!?」


 国王の後ろの壁が崩れ、数十の兵士が雄たけびと共に飛び出してきた。


 そして即座に弩で反乱軍に集中砲火を浴びせる。たちまち闖入者の殆どが倒れた。


「て、撤退! 逃げろ!」

「逃がすな。一人残らず殲滅せよ」


 逃げ去ろうとする反乱者を将軍の部隊は追いすがり、次々と討ち取っていく。同時に王宮の各所でも伏兵が動き出し、反乱軍はあっという間に壊滅状態に陥った。


「閣下、数人を逃がしてしまいました」

「これで不穏分子の大半は排除した。深追いをする必要はない」

「了解しました」


 国王を囮にして反乱分子をおびき寄せるという戦略。それは完璧に実行された。


「お、お前は最初から、こうなると知っていたのか?」

「はい。既に情報は得ておりました」

「私に教えてくれてもよかったではないか」

「敵を騙すにはまず味方からと言います」

「ぬ……」


 国王は何も言えなかった。


 ○


 ACU2309 10/5 マジャパイト王国 ヌガラ島 上杉家幕府


「晴虎様、どうか我らにお力をお貸しください!」


 反乱軍の残党は、晴虎に頭を下げた。


「どうか、悪逆なるジャヤナガラを除く手助けを!」

「晴政様!」

「そなたらは、自らの君を裏切るというのか?」


 晴虎は静かに、だが激しい怒気を含んだ声で。


「全ては国を思ってのこと! ヴェステンラントに国を売ったジャヤナガラを除き、マジャパイトを正しき方向に導くは、我らの役目にございます!」

「……そうか。そなたらの考え、よく分かった」

「で、でしたら――」

「この者共の首を刎ねよ! 裏切り者がどうなるか。見せしめとせよ」

「な、何を仰る!?」

「……」


 晴虎の命で、刀を抜いた家臣が反乱者を取り囲んだ。


「や、止めてくれ!」「殺さないでっ!!」「く、来るな!!」


 とても男の者とは思えない、悲鳴のような叫びがこだまする。だが、それもすぐに消え失せた。


 後に残るは、首を綺麗に斬り落とされた死体のみ。


「晴虎様、これでよかったのでございますか?」

「構わぬ。裏切り者には死あるのみ」

「そうでございますか……」


 死体は山に投げ捨てられ、鳥や獣が食らっていた。


 ○


 ACU2309 10/5 マジャパイト王国 アチェ島 王都マジャパイト


「殿下、先住民とは共に戦うべきです」


 ラヴァル伯爵は黄公ドロシアに言う。先住民を捨て駒にするなどとドロシアが言い出す前に先手を打ったのである。


「そのくらい分かってるわよ。先住民の命は有効に使わないとね」

「……そうですね」


 わざわざマジャパイトを訪れたのも、共同して戦う為である。


 ○


「私たちはこれから、8万の軍勢をヌガラ島に送る。当然、あなたたちにも戦ってもらうわよ」

「……分かりました。我が方も3万ほどの兵と、軍船を提供します」

「物分かりがいいじゃない。よろしく。頼んだわよ」


 ドロシアはそれだけ言って立ち去ろうとしたが、それを止める声が。


「殿下、恐れながら、それでは兵の集結が間に合いません。軍がヌガラ島に渡りきる前に、大八洲軍がヌガラ島を制圧していることでしょう」


 ジャヤカトワン将軍であった。


 晴政の進軍はまさに神速というもの。後詰も次々と到着しているし、ヌガラ島全域の制圧には1ヶ月もかからないだろう。


 それに対して、晴虎のここまで早い侵攻を予想していなかったヴェステンラント軍は、まだ真珠湾攻撃や明西嶋奇襲で受けた損害を回復出来ていない。船は人力で作らねばならないのだ。


「じゃあ、ヌガラ島は捨てればいいんじゃない?」

「それはなりません」


 ヌガラ島はマジャパイト王国の半分だ。これを失えば、マジャパイトはもう終わりである。


「じゃあ、あんたが足止めでもすれば?」

「はい。そのつもりです」

「え――そ、そう。じゃあ勝手にやってれば?」

「陛下、よろしいですね?」

「あ、ああ……」

「では、このジャヤカトワン、大八洲軍を少しでも長く足止めします。その間に軍を集結し、決戦を挑むのです。兵力では我に利があります。正攻法でかかれば、負けることはありません」


 かくしてジャヤカトワン将軍はヌガラ島へ向かった。

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