最初の障害

 ACU2309 10/1 マジャパイト王国 ヌガラ島 コニンガウ城


 ヌガラ島への上陸を完了した大八洲軍は、一晩の休憩を挟むと即座に南進を開始した。兵力が少ないのを逆手に取り、一日でおよそ160キロパッススを南下。最初に辿り着いたのは、マジャパイト北部の要衝、コニンガウであった。


 コニンガウの中心に聳えるコニンガウ城は、数百年前に大八洲から伝わった様式の城である。


「城門を打ち破るのだ。我らの勝利は固い」


 晴虎はそれだけを命じ、その先のことは諸大名と上杉家の諸将に丸投げした。だが、それだけで十分だった。


 ○


「弓隊放て! 大番衆と共に、破城槌、前進せよ!」


 獨眼龍晴政の率いる伊達軍は、城の南門の攻略を担当していた。


 城壁に多数備え付けられた狭間より、敵が弩をひっきりなしに撃ちかけてくる。


 大八洲は大番衆――西方の言葉で言えば十人隊ケントゥリア級を前面に立てて矢をはじき返し、反対に弓矢の雨を降らせる。


 直線に撃つしか能がない弩と違い、使用者の力量次第で城壁の向こうの敵を直接狙える為朝ためとも弓は、このような場面では一方的と言ってもいい強さを発揮する。因みに、弩でも曲射は出来なくもないが、矢の飛距離を調整出来ない以上、非常に困難である。


「何をもたもたとしておる! 進め!」


 城門を破る為の巨大な槌――破城槌を持つのは軽装の兵士である。矢が飛び交う戦場に突っ込むのに怯え切っているようだった。


 そんな様子に業を煮やした晴政は号令をかけて無理やり進ませようとする。だが、彼らはなかなか進もうとしない。


「桐、聞こえているか?」


 晴政は彼に直属する飛鳥衆の少女に呼びかける。


『何よ?』

「破城槌を持った者どもを後ろから撃て。尻に火でもつけてやらんと奴らは動かん」

『そんな役は御免よ! ふざけるのも大概にしなさい!』

「桐、俺は本気だ」

『本気――なの?』


 桐の声音が変わる。これは冗談ではなく本気の命令であると、晴政の声から察したからだ。


「ああ。俺はほ――」

「晴政様、お止めください」

「源十郎、何だ急に」


 片倉源十郎が止めに入った。


「お味方を撃つような真似はお止めください。伊達の名に関わります」

「ではどうしろというのだ?」


 実際のところこの会話は彼らに聞こえていて、破城槌は進み始めていたのだが、晴政は何とかして苛立ちを解消しようとしていた。


「晴政様が先陣を切ってかけられるがよろしいかと」

「――お前はそれでいいのか?」


 真珠湾でそれをやった時、源十郎はそれに断固として反対していたが、今回は進んでやれという。どういう風の吹き回しかと、晴政は源十郎に尋ねる。


「今回の敵は弱体のマジャパイト兵。晴政様なれば、隻眼であっても何の心配もないでしょう。無論、私もお供させて頂きますが」

「言うではないか」


 晴政はにやりと笑う。源十郎は静かに頷いた。


「よし。弓隊は成政に任せる」

「任されたぜ、兄者!」

「では行くぞ! 俺に続け!」


 晴政と源十郎はたった二人だけで陣を飛び出した。


「者ども続け! 俺に遅れるは末代までの恥と思え!」

「「おう!!」」


 矢の嵐に晒されながらもその悉くを撃ち落とす晴政の姿を見て、兵らは奮い立った。


「突っ込めい!!」

「「「おう!!!」」」


 晴政と源十郎が駆けだすと同時に、破城槌隊も全力で走り出した。マジャパイト軍は攻撃を激しくするが、伊達軍の勢いを止めるには至らず。数十人程度が倒れようが気にせず、一行は門に直進する。


 晴政と源十郎は自らの力量に恃んで矢を落とし、破城槌隊は大番衆が作った壁によって守られる。


「門を破れ!」


 破城槌は到着した。


 掛け声と共に、城門に槌が打ち付けられる。それを何度か繰り返し、閂がバキッと折れる音がしれ、門は開いた。


「一兵たりとも通すな!!」

「おっと、まずいな」


 門を開けた先には数百の兵が待ち構えていた。彼らは皆、弩を正面に向けて構えている。


「撃て!!」


 問答無用に弩による一斉攻撃をしかけてきた。しかし――


「弱い。弱すぎるぞ!」


 晴政は余裕をもって矢を弾いた。源十郎の助けを借りるまでもなかった。


「晴政様、兵に損害が」


 晴政の後ろでは流れ弾に当たったいくらかの兵士が倒れていた。晴政一人を狙った訳ではなかったらしい。


「ぬ、そうだな。破城槌隊、退け! 大番衆、奴らを蹴散らせ! いや、俺に続け!」

「私も続きます」

「来い! 源十郎!」


 晴政はまたも単騎での突撃を開始。マジャパイト軍の部隊に乱戦をしかける。


「奴が大将だ! 討ち取れ!」


 晴政に気付いたマジャパイトの将軍は、彼を最優先で殺すように命じた。彼の命令と自らの名誉欲に基づいて、マジャパイト兵は晴政の元に殺到する。


 だが、彼の体に刃が届くことはない。


「死ね!!」「黙っていろ」「ぐあっ――」「晴政様に手は出させぬ」「う――」


 それは晴政と源十郎だけで十分だと思えるほどのものだった。押し寄せる敵兵は次々と討ち取られ、死体の丘を作っていく。


「我らも加勢致します!」

「遅いぞ!」

「申し訳――ございませぬ!」


 そう言いながら敵兵を斬り伏せる。


 晴政にだけ目が行って周りのことも後先も考えていなかったマジャパイトの部隊は、後続の部隊の衝撃によってあっさりと瓦解した。


 その後も城門から伊達の兵が雪崩込み、城門を守る兵は捕虜となり、南門は完全に大八洲勢の制するところとなった。


 ○


「伊達陸奥守様、南門を突破。北條常陸守様、北門を突破。武田樂浪守様、西門を突破。これにて全ての門を落としたことになります」


 朔は晴虎に戦況を告げた。今回の城攻めに参加したのは一部の纏まった兵力を持った大名のみであり、上杉も含め多くの大名は物見をしていただけである。


 会戦から僅かに半刻。全ての門は突破され。残るは本丸のみとなった。数百年前から大して進歩していないこの城には、一重の防衛線しか用意されていなかったのである。


「分かった。本丸を落とさせよ」

「承知いたしました」


 晴虎が命じ、暫くたつと城の本丸から火の手が上がった。


「義なき者の城など、この程度に過ぎぬ」


 コニンガウ城は一日ともたずに陥落。大八洲軍は更に南進を続けるのであった。

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