試し胴
ACU2309 9/17 レモラ王国 王都レモラ
「シグルズ様、アリスカンダル様からお呼び出しみたいです」
「陛下が?」
シグルズの元に手紙が届いた。
曰く、シグルズがせっかく持ってきた武器を何にも使わずに持って帰るのはもったいないだろうということで、アリスカンダルの前で兵器を披露して欲しいと。
「なるほど。まあ、いいんじゃないかな」
「では、みんなに連絡していいんですか?」
「ああ。頼んだよ」
「了解しました」
本来の目的は、大声では言えないが、アリスカンダルの恫喝であった。だがアリスカンダルが自分から不戦を宣言した以上、使い道はなくなった。
確かに、わざわざ列車を手配してまで持ってきたものをそのまま持って帰るだけといのも確かにもったいない。それに、実際ゲルマニアの新兵器を見たことがある訳ではない彼に機関銃などを見せれば、より一層、やる気をなくしてくれるかもしれない。
そういう打算もあって、シグルズはこの申し出を快諾した。
○
「これほど沢山の武器を持ってきたのか……」
アリスカンダルは目の前に陳列された数々の兵器を見て唸った。
「はい。まあ、我が国も色々と作っていますので」
「大方、ヒンケル総統に、この兵器の威力を見せつけて不戦を誓わせて来いとでも言われたのだろう?」
「――そ、そんなことはありません。我が国の手の内を晒した方が、より誠意を示せると思ったまでです」
「そうか……」
アリスカンダルは責めるでもなく笑うでもなく、ただ、どうでもよさそうであった。その恐るべき才覚がゲルマニアに牙を剝かないことを祈るばかりだ。
「では、見せてくれたまえ。的はこちらで用意した」
「ありがとうございます」
何十枚かの厚い鉄板が用意されていた。これを撃って威力を証明せよということだろう。確かに、ゲルマニアが用意したものならば、意図的に内部が空白になっているなどのイカサマがしかけられている可能性がある。
どこまでも先を見通している男だと、シグルズは舌を巻いた。
「では、まずは我が軍の基本的な兵装である小銃から」
「ああ」
シグルズは小銃を構えると、まずは軽く一発撃った。
「ふむ。威力は、我が軍の小銃とそう変わらないのか」
「はい。ですが――」
鎖閂式が鎖閂式たる理由はその連射力である。シグルズは次の一発を放ち、3秒程度で更に次の弾を放った。そうして、弾倉に残っていた6発を20秒もしないうちに撃ち切った。
「なるほど……これは、こちらの小銃を純粋に数倍強くしたものであるのか」
「大方、そういうことになります」
既存の元込め式小銃(火縄銃を除く)と比べれば、完全上位互換である。誇張でもなんでもなく、シグルズは自信を持ってそう言える。
「では次は――」
取り回しは悪いが絶大な制圧力を持つ機関銃。
短距離でなら魔導兵とすら互角に渡り合える機関短銃。
数は少ないが圧倒的な破壊力を持つ対空機関砲。
シグルズはこれまでに発明してもらった兵器の数々をアリスカンダルに紹介した。もっとも、ヴェステンラントとの実戦で使ったことのあるもの限定ではあるが。流石に開発中の機密は見せられない。
「よくわかった。ゲルマニアはここまで進んだ技術を持っているのか……」
「はい。我が軍は日々、戦争に邁進しています」
「邁進、か……」
アリスカンダルはため息を吐いた。
「シグルズ、この武器、売ってはくれないか?」
「え、そ、それは……」
そう来るとは予想外だった。故に、その判断はシグルズには出来ない。
「総統にでも確認を取らねばならないのか?」
「は、はい。まさにその通りです」
「ならば、聞いてみてくれるか? 私は暫く待っているから」
「りょ、了解しました」
シグルズは部下の何人かに総統官邸への通信を任せた。
「しかし、陛下はどうしてこの銃を買いたいなどと……」
「我が国にも魔導兵に対抗出来る武器が必要だと考えただけだ」
「それは……」
――まさか、戦争をやる気になったとでも?
「別に、どこかと戦争がしたい訳ではない」
「――そ、そうですか」
相変わらず心を読んでくる。
「汝平和を欲さば戦への備えをせよ、と、よく言うだろう?」
「まあ、そうですね」
古代からずっと言われている言葉だ。軍事的に弱体な国家は周辺国の侵略に晒され、平和を失う。それ故、強力な軍事力を持つことこそ平和への唯一の道だ、ということである。
「我が国は国力こそあれど、軍事的には弱体だ。そこで、国力を軍事力と結び付けられる方法として、ゲルマニアの武器に可能性を見出したまでだ」
「あくまで自衛の為、ということですか」
「その通りだ。私は平和以外を欲さない」
「シグルズ様、報告です」
ヴェロニカが持ってきた返答によれば、武器を売るのはいいが設計図などは譲るなというものであった。
どの道ヴェステンラントに鹵獲された武器あたりがガラティアにも流れるだろうから、ここで売ってしまおうと大した問題はない。設計図さえ渡さなければ、はっきり言って何も渡さないも同然なのだ。
シグルズもこの方針には賛成である。
「では、ここにあるものは取り敢えず売ります。更に纏まった量をお望みならば、それは本国に問い合わせて頂きたい」
「君に窓口になってはもらえないのか?」
「僕は商人ではありませんので……しかし、一応、話くらいはしておきましょうか?」
「それで十分だ」
自分から積極的になり始めたシャーハン・シャーを見て、シグルズは昔日のアリスカンダルとやらが復活したのかと思ったが、彼の目には相変わらず生気がなかった。
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