自業自得
ACU2309 9/15 マジャパイト王国
「そ、その、ドロシア殿、どうか我らをお助けしてはくれませぬか」
マジャパイト国王ジャヤナガラは、黄公ドロシアに半ば跪くように懇願した。
将来的な東亞の覇者が合州国になると見込んで尻尾を振り、合州国の後ろ盾の下、暴虐の限りを尽くしてきたマジャパイト王国であったが、大八洲の晴虎の侵攻によって窮地に立たされていた。
そこで、宗主国であるヴェステンラントに恥を忍んで助けを求めているのである。
「あー、ごめんなさい。こっちも今忙しくて、暫くは援軍なんて送れそうもないわ」
「そ、それは、虐殺で忙しいだけではありませんか!」
「ええ、そうよ。悪い? 私たちは先住民を殺すので忙しいの。テラ・アウストラリスの西部開拓は簡単な仕事じゃないのよ」
ドロシアは悪びれもせずに言い放った。つまりは虐殺を楽しんでいるのだから邪魔はするなと。
ジャヤナガラ国王は、その態度に耐えられなかった。
「そのような! そのような遊びの為に、同盟の情誼をないがしろにされるか!?」
「ええ、そうよ。だから?」
「何の為の同盟か!? 我らは合州国が為、どんな非道な真似でもしてきた! だが、あなた方は何もしないというのか!?」
「ええ。だから、何が悪いの?」
ドロシアはまるで相手にしようとしなかった。国王のことなどどうでもよく、次の殺戮に思いを馳せていたのだ。
国王は自らの腕が無意識のうちに刀を抜こうとしていることに気付いた。それほどまでに、はらわたが煮えくり返ったいた。
「……ヴェステンラント人というのは、条約すら守れない野蛮人だったか」
「条約? こんなちっぽけな国との条約を、私たちが守ると思ってるの?」
「条約を守らねば、外交は成り立たないであろう……」
「外交? あなた、私たちと外交をしているつもりでいたの?」
ドロシアは思わず噴き出した。彼女の眼はゴミを見る目だった。
「な、何が言いたい……?」
「あんたたちみたいな先住民は、白人の奴隷になる為に生まれてきたんでしょう? 最初から対等な立場な訳ないじゃない」
「合州国憲法には全ての人間は平等だと書いている筈だ」
「ええ。人間、はね。で、人間っていうのは白人のことを言うの。知ってた?」
「馬鹿を言え! 我々も人間だ!」
「奴隷が何を言ってるんだか……」
ドロシアはやれやれと首を振る。
そこで国王はやっと気づいた。白人という悪魔と手を結んでしまった自らの愚かしさを。悪魔に国を売ってしまった自らの浅薄さを。
「じゃあ、そういうことよ。精々、奴隷として役に立ちなさい」
「………………」
マジャパイトは選択に迫られている。このままヴェステンラントにつくか、或いは大八洲につくか。
「晴虎は、我らを受け入れてくれるだろうか?」
「彼は正義を重んじる人間です。2度も裏切る者を受け入れるとは……」
最初は東亞の有色人種を裏切り、そしてまたヴェステンラントをも裏切ろうとしている。信義など、欠片もない。
○
ACU2309 9/16 大越國 明西嶋
「晴虎様、マジャパイト王国より密書が届いております」
「密書?」
晴虎は怪訝な顔をした。この時期に届く密書となれば、中身は大方予想がついた。
「何と申しておる?」
「読み上げさせて頂きます」
朔は密書を読んで聞かせた。
内容は、端的に言えば、これよりヴェステンラントを裏切って大八洲につくというものであった。晴虎の予想通りのものである。
「……分かった。返書にはこう書け。義なきものに聞く耳は持たぬと」
「それだけ、でございますか?」
「それだけでよい。斯様な下劣な男、断じて赦さぬ」
マジャパイト王国がヴェステンラントの力で無理やり臣従させられていたのならば、受け入れないことはなかった。いや、寧ろ喜んで手を差し伸べていただろう。
だが、マジャパイトは自らヴェステンラントの側についた。自ら民族の誇りと義を捨て、ヴェステンラントに魂を売ったのである。
それを赦す気などさらさらなかった。
「晴政様……」
晴政の目は怒りの炎で燃えていた。ジャヤナガラ国王は最も踏んではいけない地雷を踏んだといっていい。
「我らはこれより、マジャパイトの征伐に乗り出す。ただちに兵を集めよ」
「はい。諸大名に通達します」
本当ならばもう少し兵を休ませて万全の準備を整えるつもりだった。だが気が変わった。
これ以上マジャパイト王国がこの世に存在することを、晴虎は許容しなくなっていた。直ちに滅ぼす以外の選択肢は、最早見えてはいなかった。
○
ACU2309 9/18
場所は地球で言うところのフィリピン南部。上杉家の直轄であるこの国には、真珠湾攻撃から帰って来た大名の軍勢が配置されていた。
「ほう。晴虎様も、随分と無茶を仰る」
「はい。半月以内に軍勢を集めよとは……」
その通達は当然、
「これは、晴虎様が相当にお怒りのようだな」
「ええ。間違いないかと」
晴虎は基本的に冷静な君主だ。だが今回の命令は、冷静さを著しく欠いているように見える。
真珠湾攻撃も明西嶋奇襲もあくまで奇襲であって、長期間の出兵を維持するような準備は整っていない。今はマジャパイト王国への侵攻に備え兵糧や武器を前線近くに集めている段階だ。
半月後の侵攻というのは性急に過ぎるのである。
「しかし、こうなるともう誰にも止められまい。素直に支度を整えるとするか。頼んだぞ、源十郎」
「はっ。すぐに手配致します」
大八洲軍は動き出した。
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