武田、今川、伊達
ACU2309 7/1 大八洲皇國 辨辰國
「お館様、上杉殿よりこのような通信が入りました」
「うむ。見せよ」
大名でありながら公家のように厚化粧をして着飾ったこの男は、今川家当主の今川辨辰守昭元である。
この容貌のせいで多くの大名からの評判は悪いが、当世の大名は武より文を重んじるべきだとの彼の思想は、晴虎含め一部の開明的な大名には受け入れられている。もっとも、公家のようなその恰好は御免だというのが大半であるが。
「なるほど。ついに上杉殿は戦を決意されたか」
通信とは言うが、平明京から電話のように伝えられた内容を紙に書いただけのものである。
「そのようですな」
「そしていつもの通り、この話を武田家にも通せと」
「そのようで……」
今川家が將軍家から信用されるのは悪い話ではないが、大八洲の未来を考えると、国の筆頭である上杉家と最大の大名武田家には早々に和解してもらいたい昭元であった。
「まあよい。この件は十年や二十年で解決出来るものでもなし。直ちに武田殿に通信を入れよ」
「はっ」
○
ACU2309 7/1 大八洲皇國 楽浪國
「やっと動くか。遅過ぎる。儂ならば半日は早く決めていたものを」
武田樂浪守信晴。唐土出兵の時代を知る数少ない大名の一人であり、歴代の武田家当主同様、上杉家を嫌っている。
武田家は千年の昔から潮仙半嶋を治める由緒正しき大名家である。その家格は大八洲の大名の中で一番高く、軍事力でも上杉家に次ぐ第二位の力を持つ。
それが最近になって頭角を現したばかりの上杉家に仕えるのに反発を抱くのは、当然のことであろう。
「それで、どうされますか」
「是非に及ばず。無論、我らの支度はとうに出来ておる」
「そのように伝えます」
嫌いではあるが、命令に従わない訳ではない。信晴もまた皇御孫命の臣民。皇國の大事には、個人的な好みなど関係はないのだ。
○
ACU2309 7/1 大八洲皇國 陸奥國 千代城
「ほう、ついに將軍が動くか」
大八洲でも一番の若手の大名、
「こいつは伊達の名を示す好機じゃないか、兄者」
晴政の弟、伊達兵部成政。伊達家随一の熱血漢として、伊達家の繁栄への情熱で兄を支えている。
「その通りだ。伊達の名を天下に示す時よ。だが、それだけではつまらぬな」
「じゃあ、ヴェステンラントの切り取り自由を晴虎様から頂くってのはどうだ? 兄者なら、どこまでだって土地を手に入れられるぜ」
切り取り自由というのは、占領した土地をそのまま自分の領土にしていいということである。
「違いない。だが、それでもつまらぬな」
「何が不満なんだ?」
「將軍の命で動くことよ。俺が一国や二国の国主で満足する人間ではないことは、お前がよく知っていよう」
「そりゃあ、そうだが……まさか兄者は……」
――まさか大戦に乗じての謀反を企んでいるのではなかろうな……
そう直接問うことも出来ず、成政は不安げな目で晴政に訴えたが、彼は不敵な笑みを返しただけであった。
「どうせいつもの大言壮語でしょ。受け流すことね」
辛口の感想を浴びせたこの少女の名は、鬼庭
「ほう。大言壮語と思うか?」
「いつものことじゃない。ほんと、馬鹿なことしか言わないんだから」
「ではそういうことにしておこう。今のはただの妄言だ。なあ、成政」
「だったらいいんだが……」
確かに晴政はいつも天下がどうだのと口走り、その度に家臣に諫められている。晴虎に謝りにいく羽目になったことすらあった。と言うか、今この時点でも弁解の為に人を送っている。
だが、今一瞬だけ見せた目。それはいつもの夢見がちな青年のものではなく、獲物を狙う獅子の目であった。少なくとも成政はそう感じていた。
「あんたはさっさと討ち死にでもしてきたらいいのよ。その方が伊達の為だわ。伊達が改易にでもなったら、みんながどうなると思ってるのよ」
「お前も戦場に赴くのだぞ。俺を後ろから刺し殺しでもするつもりか?」
「そ、そんなことはしないけど……」
桐は戦場でもこんな調子だが、晴政の命令に従わなかったことはない。ここでこうして重臣であるのがその証拠だ。それに裏切りは彼女の道徳観に反する。
「しかし、危険な場所に配置されれば、確かに名を立てる好機ではあるな。ついでに俺が死ねばちょうどいいだろう」
「そうね。將軍様にお願いしておくわ」
「そういうことなら俺も全力で戦うぜ、兄者」
「よく言った、成政。共に天下を目指そうぞ!」
「当たりめえだぜ!」
「バカじゃないの、あんたたち……」
死地に送られるかもしれないと聞いて喜んでいるこの二人に、桐はため息を吐いた。と言うか、こういうのを失言というのである。
「まあ、どうなるかは全て晴虎様の采配次第だ。俺の知ったことではない。とにかく、伊達は今この時であろうと出陣出来ると伝えよ」
「はいはい。分かったわよ」
○
ACU2309 7/1 平明京 金陵城
「武田樂浪守様、北條常陸守様、大友
全国に通信をしてまだ30分と経っていないが、続々と戦意に満ちた通信が返ってきていた。
「よいな。後は西國の者か」
大大名の中では西国の嶋津、長曾我部、毛利からの返信がまだ来ていない。因みに唐土の諸大名は各々の本国で留守番だ。
「彼らはいつも動きが遅いと存じ上げます。どうにかならないものでしょうか」
「彼らには彼らの流儀があるのだ。あまり角を立てるでない」
西国大名の反応が遅いのは、嶋津四兄弟やら一兩具足やら百萬一心と言って、彼らが話し合いを重んじるからである。それが悪いことだとは、晴虎は思っていない。
「承知しました……」
だが朔は、晴虎に迷惑をかけている彼らが嫌いであった。
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