第3話 しゅうごう
最悪だ…。今日の打ち合わせに使う書類を忘れた。
駅に到着後、何度も自宅と娘たちに連絡をしたが、音信不通状態。
諦めて戻りますかね。とりあえず、会社に連絡をしないと。
私は自宅へ向かうバス停へと向かった。会社には連絡を入れたので、今日は午後からの出勤となる。リモートでできる内容なので、欠勤扱いにはならない。
よかった。学生時代から 無遅刻無欠席(勤)の女王と呼ばれていたからね。呼ばれたことは無いけど…。
🛣
金曜日の都内は混んでいる。
バイクで渋滞とかバリバリ憂鬱になる。朝のすり抜けは捕まるし、困ったもんだ。
久しぶりの渋滞の中を走る俺のノートン君。数メートル動いては止まりを繰り返すこと30分以上。カーボンが溜まりそうで嫌だな、マジで憂鬱だ…。
出発から1時間以上かかり、クロエの通う高校の近くにたどり着く。ハイヤーやタクシーも多く見られるけど、お嬢様学校なのか?
その看板を見て、俺は大変なことを思い出した。
そうだ!
クロエは女子校じゃねえか!
オジサンが入っても大丈夫なのか?
秋本君に聞いてみるか?
山本さんの方がいいか?
俺は入れるのか?
などと不安要素を膨らませつつ、駐車場・駐輪場はコチラ、という看板にそってバイクを走らせた。
🏫
卒業後も2年間、招待される文化祭。演劇部O Gの部長と副部長は、この文化祭で披露される、演劇の評価をやらされる。
恥ずかしながら、私たち横山姉妹もその1組でして…。今は小山田だけどね。
私たちが部の代表になった経緯、それは当時の先輩が、「双子で部長と副部長とか面白いじゃない?」と言ったのを皮切りに、周りの皆からもキャッキャッと騒ぎ、奉り上げられたのだ。
普通の学校なら内申書の問題もあるので、部長を決めるのは生徒会長を決めるように熾烈を極める事だろう。
しかし、ここの在学生はみな、そのまま同じ系列の大学に行くので、お祭り気分で決められるのである。
そして、今年の演劇部は留学生が入部したらしい。顧問の先生から送られてきた部員の写真を見たところ、その留学生はとんでもなく可愛い女子である。
私が在学していた時の留学生の子も可愛かったので、フランスというお国柄、女子はみな可愛いのかもしれない。
🎓
「こんにちは、招待状ナンバーと保護者名をコチラにお願いします。」
「はい。」
ヤバい、緊張する…。
入り口で記帳をするとか、結婚式みたいだな。
それに先生か? めっちゃ名前を見てるじゃん!
「えぇ!? フォーニエさんのご家族の方ですか?」
声がデケェよ!
「はい。細谷 ノエ フォーニエです。」
自己紹介と同時に黄色い声があたり一面に広がった。
その勢いといったら、池に大きな石を落とした時の波紋よりも凄まじい。
「私、担任の吉岡です。細谷さんはフォーニエさんのお兄様になるのでしょうか?」
言い方!?
お兄様かよ!?
「はい。フォーニエのジジィ…、フォーニエ家の当主から連絡があり、クロエを私の家で生活させるようにと言われまして。」
「そうですかぁ…。」
おい!
なんでジィッと見ているんだよ!
何なんだよ! アンタたち何なんだよ!
何か話せよ!
「あの先生。後ほどお話があるのですが、お時間はあるでしょうか?」
「はい! 今からでも!」
「あ、いえ。今はクロエのところに行きたいので、後ほどでも良いでしょうか?」
「良いです!」
元気のいい先生だな、おい。
「ありがとうございます。できれば、フランセの話せる方も同席していただきたいのですが。」
「わかりました。学年部長も同席いたします。」
「ありがとうございます。それでは後ほどよろしくお願い致します。」
ふぅ。やっと解放だ。ところでクロエの教室はどこだ? この案内図じゃよくわからないな…。
あまりキョロキョロと周りを見ていると、挙動不審で怪しまれそうだし、とりあえず中に入るか…。
校舎に入ろうとした時、俺の腰に何かが触れた。
振り返ると小さな男の子が、俺の真後ろにいる。
「葉っぱが付いていたよ。」
その男の子が俺に葉っぱを見せる。
「このまま校舎に入ったら恥ずかしかったね。ありがとう。」
そういって俺は、男の子から葉っぱを受け取った。
「お姉ちゃんに会いにきたのかな?」
「うん。」
「楽しんできてね。バイバイ。」
「バイバイ。」
お母さんと手を繋いで去る少年、小さい子は可愛いな…。
あの子も中学生くらいになると、「うるせーババァ!」とか言うのかな? 普通は言わねえか。
少年から受け取った葉をポケットにしまい、校舎に向かった。
入り口と書かれたアーチをくぐると、甘ったるい匂いが漂っている。これはクレープか? パンケーキか? この洗礼はキツい、若い子の嗅覚はスゲーな。
てか
考えすぎか? 我。
我、もう帰りたいぞ。
クロエさん、我を助けたまえ…。
迷えって小羊っている我を助けたまえ…。
「
(ノエ! 会いたかったよ!)
「
(クロエ〜。やっと会えて嬉しいよ〜。)
クロエ、マジ天使だな! お兄ちゃんは助かったぞ! てか、なんだこの人だかりは?
クロエは人気者なのか? とりあえず、クロエのクラスに行きたいな…。というよりも、あまり目立たないところに行きたいんだけど…。
🎓
あれ? あの人って。
「綾乃、あの人。」
華乃に言われ、その方角を見た。
華乃の示したその先には、先日ママを送ってくれた人がいるではないか。
「華乃、ママに連絡しなきゃ!」
「うん。」
私たちは急いで携帯を取り出す。
「ウヒョー!?」
携帯の画面を見て中途半端な奇声を発した私たち。さすが双子だ。今のウヒョー! をステレオにしてやったぜ。
それはさておき、何なんだ、この怒涛の着信は?
「どうしよう…。ママ、何かあったのかな?」
華乃が私に聞くのと同時に、私はママに電話をかけていた。
ワンコールで受話器に出るママ。
「もしもし?」
うぅ…。怒っている…。
「ごめん、音を消していて…。」
「大丈夫よ綾乃。気にしないで、用事は済んだから。」
よかった。
「そうそう、この前ママを送ってくれたイケメンがここにいるの。」
「…ふごぁ!」
「何? どうしたの? 大丈夫?」
「だっ大丈夫よ。ペンケースを足に落としちゃって。イタタタ…。」
ママ、スッゲー動揺しているんだけど…。
「留学生の女子と腕を組んで歩いてる。多分身内なんだと思うけど、探りを入れるね。朗報を待っていてね。」
「ダッダメよ。迷惑になるでしょ!」
ママが女子になってるんだけど…。ジワるんだけど…。
「大丈夫よ。周りの女子や先生まで、あの人のことを色々聞いているから。」
「そ、そうよね。そうなるわよね。」
「それではママよ、朗報を待ちたまえ。」
「ラ、ラジャーでござる。」
ちょっと! ママもノリノリじゃん!
🎓
俺はクロエに手を引かれ、クラスや校内を案内された。
すれ違う友人たちとハイタッチをする様は、学校での生活を楽しんでいる証拠だと思う。これなら俺も一安心だ。
「山崎先生! ノエはクロエの
クロエが真面目そうな先生に話しかけた。生活指導か風紀指導かその辺の担当をしているのだろうか? 髪型もきっちりと分けている。
「え? 葵君か?」
ん?
んんー!?
「山崎って、ザキちゃん? ザキちゃんかよ!?」
ザキちゃんこと山崎 豊。彼は小学校から中学の転校するまでの間、ずっと同じクラスで、仲も良かった友人だ。
「ザキちゃん…あっ山崎先生はここの先生だったのか?」
「もう5年目だよ。つーか、葵君…。細谷さんはフォーニエさんの身内なの?」
「複雑な事情があってさ、血は繋がっていないんだけどね。」
「そうだったのか…。」
暗い話になっちったな…。
「ところで、クロエの学年の部長ってどういう人?」
「え? 俺だけど?」
よかった。ザキちゃんだったら話しやすいぞ。
「実は吉岡先生にお話はしたんだけど…。」
ここまで話しただけで、込み入った話と察した山崎先生。
さすが学年部長だな。
そして俺はクロエと別れ、面談室にとおされた。が、来たのは吉岡先生だけ、どうやらザキちゃんは問題発生のため、少し遅れるとの事。
話を進める訳にもいかず、俺は吉岡先生と他愛のない話をしていた。
そして15分ほど経過し、山崎先生が登場する。
まずはクロエをこの学校に編入させることを話さなければならない。
🏠
リモートワークを終わらせ、早めの昼食も済ませ、食器も洗い終わった。
あの日から私は何度も卒業アルバムを確認している。だが、あの人の写真は見つからない。小学校のアルバムも確認したが、見つからなかった。小学校は別だったのかな…。
何でこんなに気になるんだろ…。
この歳になって恥ずかしい…。
私は同窓会の案内状を見ながら、そんな事を考えていた。
「そろそろ会社に行くか。」
重い腰を上げ、玄関に向かう。
パンプスを履き、ドアに手をかけた時、娘からの着信がなった。
「ママ! 細谷さん! 細谷 ノエ フォーニエ 葵さんだってさ。思い出した?」
細谷…。
葵…。
えっ?
細谷って、葵君?
なんで?
思い出した…けど…。
昔と違いすぎじゃん…。
ダメだよ…。
ダメだよ、葵君…。
私になんか優しくしちゃダメだよ…。
「ママ? 聞こえてる?」
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