第2話 しめきり
デザイン事務所を営む、
本名は
未だ結婚はしておらず、今は交換留学生としてフランスから来日した、フォーニエ家の末っ子、
そんな細谷 葵のお話し…。
🍎
「
「Bonjour. あぁ…おかえり。」
ああ…フランセを喋っちった…。
「
クロエは学校から帰ると、日課のようにデスクに向う、仕事中の俺の背中に抱きついてくる。
ああ、うざい!
「ああ。おやつはテーブルに置いといたから…。」
「…フンッ!…
頬を膨らませながら自室に向かうクロエ。どうやらご機嫌ナナメのようだ。
「女の子は難しいな…。」
「今のは細谷さんが悪いですよ。」
社員の秋本君が、精気の無い
今のどこが悪いんだ?
「葵はさ、女心がわからないから結婚どころか彼女もできないんだよ。」
アシスタント仲間の山本さんが嫌味っぽく言った。
「結婚していない山本さんに言われてもね。」
反論する俺。
「何を言う! 俺はバツイチだ!」
「大声を出さないで下さいよ山本さん、2
秋本君、ヤバいか? 限界か? 残りは俺と山本さんで行けそうだから帰らせるか? でも、もう少しだけ頑張ってくれ…。
今は締め切り間近の漫画の修正作業をしている。
今回の修正は全体的にあるようで、ウチで請けたのは、まだ楽な方だと言う。本当かよ…。
📖
21時36分。全ての作業が終了した。
先に終わった秋本君は来客用ソファーで寝ている。「少しでいいので仮眠を取らせてください。」と言っていたが爆睡中。
きっと限界だったんだな。2日間の有給をあげるぞ、秋本君。本当にお疲れさん。
山本さんも折り畳み椅子を3脚並べ、窮屈そうに寝ている。豪快な高イビキとゴニョゴニョと寝言も言っている。
あなたはウチの社員じゃ無いから、自分の会社から有給を貰ってくれ。
「俺のケツを触るなぁ…。」
はぁ? 何の夢を見てんだよ!?
山本さん、あんたのケツは命に変えてもさわらねぇよ!
俺は二人を起こさぬように、静かに外へ向かった。
新鮮な外の空気で、タバコを吸うためだ。
事務所のスライドドアを開け、2日ぶりの外へ出た。隣のレンタル農園からは夜露とともに野菜の香りがする。この匂いは白菜か? 白菜のコンソメスープが飲みたいな…。
俺は愛用タバコのコルツ・グリーンティーのシャグを巻きながら、裏のガレージに近づく。すると、猫撫で声で話すクロエの声が聞こえた。
この子は毎日、朝と夜、欠かさずここに来ている。俺の飼っているウサギの様子を見にきているのだ。
野菜や果物を乾燥させ、ウサギ専用のおやつを作り、それを与えているわけだ。
この子の一生懸命に何かに取り組む姿勢を見ると、とてもフォーニエの血が流れているとは思えない。
「
カタコトのフランセでクロエにお礼を言う。
「ノエ!? 昼間はごめんなさい! クロエ、ノエの仕事の邪魔したよ。
俺も大人気ない態度を取ったんですけど。
「
「あはは。うん、わかった。あのねノエ。今度の金曜日は文化祭。金曜日は家族だけ。だからノエは来てでしょ?」
俺のフランセもこんな感じなんだろうな。
「ああ。金曜日は15時から打ち合わせがあるんだけど、午前中に行っても大丈夫かな?」
「うん。きっと大丈夫。でも、クロエは先生に聞くよ。待ってるよん!」
嬉しそうだな。
「あのね、次もノエに質問だよ? 聞くよ?」
真顔で変な日本語ってヤバい。吹き出しそう…。
「ああ。何かな?」
「私の
あっちゃー! スッゲーな女子! 確かに被らせました。俺と同い年の32歳の女性です。
てか、32歳ってオバサンか? 17歳からするとそうなのか?
と言うことは俺もオジサンだよな…。
32歳だもんな…。
「ああっと…。先週の金曜の夜にさ、10分ぐらいかな? 家まで送るのに…ね…。」
腰に手をあて、頬を膨らませながら俺を見るクロエ。
「あの…。メット…カスクを被んないと危ないじゃん? 的な? あはは…はは…。あの…クロエ? ごめんね。」
「
何を言っちゃてんの!?
「恋人じゃないって!
「
「本当だよ! えっと、
「はぁ…。クロエはノエを信じるよ…。でも、もうダメです。わかりました?」
「ああ。その人とは会うことはないと思うよ。」
妹よ、お前さんの勘の鋭さはジジイ譲りか?
2徹の怠さも吹き飛んだぜ。うぇーへっへっへっ。
🏫
金曜日の朝。
今日はクロエの通う高校の文化祭だ。海外にも日本の学校みたいな文化祭ってあるのかな?
俺が通った向こうの学校では無かったよな。それとも
クロエの楽しそうな顔を見ると、向こうでは無かったのかもしれないな。
とにかく、今朝はお弁当も無いし、楽チンだったぜ。とりあえず、今日の仕事内容を秋本君に指示してっと。
「細谷さん、同窓会ですって。」
「同窓会?」
今日のテンプレを秋本君のPCにメールをすると同時に、彼はその往復ハガキを俺に見せてきた。
その葉書を見ると、第30期生 ○○○中学校 同窓会 案内状 と書かれている。
「秋本君、質問をしてもいいかい?」
「はい、何でしょうか?」
「俺、そこの中学って、3年の1学期の…確か、2週間ぐらいで転校したんだよね。」
「マジっすか? それで案内状が来るなんて、細谷さんって人気者だったんですね!」
「いやいや。クラス替えの後だったからさ、知り合いも一人しかいなかったんだよ。しかも急に転校になったから、実質、2〜3日しか登校していないと思うんだけど。」
俺は案内状の差出人に目を向けた。そこには(株)同窓会屋さん と書かれている。
「同窓会屋さん?」
俺がそう言うと、秋本君は食いついてきた。
「マジっすか? それ、めっちゃ有名ですよ! コンセプトは一昔後だそうです。」
はぁ? なんで未来に向けて過去形の単語を使うんだ? 10年後って言うんじゃダメなのか?
「コンセプトは置いといて、よく俺のことを調べられたな。
「あはは。細谷さんの事だけユルユルだったりして。」
ありえるんだけど…。
「まぁいいや。クロエんとこ行ってくる。メールしたテンプレが終わったら、17時前でも帰っていいよ。戸締りはよろしくな。それじゃ。」
「はい。お気をつけて。」
同窓会屋か…。
気持ち悪いな…。
ただでさえ、気が重いのに…。
先生にうまく説明できるかな…。
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