What ever.

konnybee!

第1章 Shut the fuck up! 的な感じの元クラスメイト。

第1話 うそつき

 小山田おやまだ 千穂子ちほこ32歳。彼女には20歳になる双子の娘がいる。長女の綾乃あやのと次女の華乃はなの。と言っても実の娘ではない。千穂子の姉、麻穂子まほこの子である。麻穂子の病死後、保険金がおりたと同時に失踪した旦那の代わりに、二人を養子として迎え入れた。

 

 そんな小山田 千穂子のお話し…。

 


 

    🚃




 今日の飲み会は本当にキツかった。終電間近まで解放しないとかパワハラじゃねぇか!

「女子は 2,500円ねー!」

 意味わかんねぇし! 私はグランべサワー一杯だし? サワー一杯で 2,500円とかありえ無いし! 腹減ったし!!


 週末の混み合う終電で、私は空腹のためイラついていた。自宅、最寄り駅に着いても、この時間では既にバスも走っていないだろう。これは田舎あるあるの問題点だ。

 ただいまの時刻、22時45分。娘も明日は予定があると言っていたので、おそらく寝ている事だろう。お迎えは期待できない。仮に娘にお迎えを頼んだら、タクシー代より高く付きそうだ。


 こりゃ諦めてタクシーだな…。


 ○○駅に着き、改札を抜ける。エスカレーターまでの長い行列は、タクシーも行列している事を予想させる。

 最悪だ…。

 私の目の前を歩く男性もきっとそうだ。タクシー乗り場に行くに違いない。

 歩き方は軽やかだが、行列の具合にイラついているようす。

 この男性は私と同年代だろうか? 綺麗な茶色がかった長い髪をうなじ辺りで縛っている。

 西部劇でよく観る、濃いベージュ色のカッコいいロングコートを身に纏う男性。背は180cm以上はありそう。私の身長は158cmなので、見上げる形になる。

 そんな彼のたまに見える横顔に、私は目をそらせないでいた。

 

 下りエスカレーターに乗ると、彼のうなじがよく見える。縛った髪のおくがセクシーだ。

 今の私ははたから見ると、たいそうキモい存在だろう。


 すると、突然振り返る彼。どうやら私からの気持ち悪い視線ビームに気付かれてしまったようだ。


 ばちん!!


 彼と目が合う。

 猛禽類のような鋭い目つきの男性。

 

 ヤッバ! イケメンすぎか!

 その男性が私に向かって話しかけてきた。

「あれ? 小山田?」

 そうですとも。私の旧姓は小山田ですよ。

 ん? ・・・ってあなた様は誰?


「うん、小山田。」

 やべ!? 語彙力なさすぎだっちゅーの!

「ああ。俺の事なんて覚えて無いよね。俺って今以上に影薄かったからな。小山田はタクシーだろ? それじゃ。」


 エスカレーターを降りると同時に、彼はスタスタとロッカーの方へ歩いて行った。

 どんどん長くなるタクシーの行列をよそに、私の視線ビームは彼の姿を追い続けている。


 ロッカーからヘルメットを取り出した彼は、再び私の視線に気がついたようだ。

 ヘルメットを片手に私に歩み寄る彼。


「どうしたの? もしかして、お金が無い的な感じ?」

「うん。」

「今はほとんどのタクシーがクレカ使えるから大丈夫だと思うよ。」

「カードも無い。てか、お財布が無い。」

 嘘ついた…。

 お金もあるし、クレカもある。それどころかお財布じたいがバッグに入っている。私の自慢のPRADAのお財布だ。忘れる事など有り得ない。


「寒くてもいい?」

 どういう意味だ?

「寒さには…強い…よ。」

 なんで私は片言な喋り?

「それじゃこっち。」

 そう言って彼は歩き始めた。

 私は言われるがまま、彼に続き歩く。

 脚のリーチの問題か、彼の歩幅は異様に大きい。交互に出す脚のスピードはゆっくりだが、私は競歩状態。たまにトテテテっと早足になる私を見て、彼が言う。


「どうしたの? 酔っているのかな?」

「飲んだのは一杯だけ…。グルンブ…。サワーだけ…。」

 優しい口調の彼に対し、私の喋りはカミまくりの異星人だ。

 そんな会話をする中、市内では有名なケーキ屋さんの前に到着。

「ここのお店のオーナーと知り合いでさ。バイクを置かせてもらったんだ。はい、これ娘のメットだけど、無いよりマシでしょ? あとグローブね。その手袋じゃ滑るから。」


 クリーム色のヘルメットを私に手渡す彼。いい加減、名前を聞かなきゃ。


「どうしたの? メット被んないと乗れないよ?」

「名前…。」

「ああ、Nortonノートン Commandコマンド。」


 それバイク! それってバイクの名前でしょ? 多分だけど。

「そう…なんだ…。カッコいいね…。」

 うわぁ。なんだか私ってキモいかも…。


「ところで家はどこら辺?」

「国道のマックの近く。の大きい公園の近く。に川があって、○○の近く。」

「○○の前でいい?」

「のとこから、市役所の方に向かう途中にあるレンション。」

「レンション?」

「マンション…です。」

「オッケー。」


 なんだよレンション!?


「それじゃ走るよ。」

「ムン。」


 なんだよムン!

 ウンって言えよ!!

 ってふごぁ!!!

 突然走り出すバイク。

 そしてすぐに信号で止まった。


「お尻の下あたりに、グリップバーがあるから、それをつかむと楽だよ。」


 え? お尻の下?

 どこだ?


「いやそれ、俺のお尻だから。自分のね。」


 恥ずーーーーーーっ!!

 どこだよ?

 あった! コレか?

 って、ふごぁっ!?

 信号が変わり、走り出すバイク。


 何これ!

 楽しいんだけど!?

 気持ちいいんだけど!?

 カーブ怖いんだけど!!

 メチャクチャ楽しいんだけどぉ〜!!


「着いたよ。」

 ゆっくりと止まり、エンジンを停止させる彼。

「えっ? もう?」

 もっと乗りたい。


「つーか、小山田うるさい。子供みたいに騒ぐなっつーの。恥ずかしいから、早く降りて。」


 声に出ていた的な?

 大声で叫んじゃった的な?

 ヤバいんだけど!


 私からヘルメットを受け取り、それを後部座席のホルダーにかける彼。


「あの、ありがとう。また会えるかな? お礼したいし。」

 騒いじゃったのを怒っているかな…。


「近所に住んでいるんだから、見かけることぐらいはあるんじゃない? 」

 ニコッと笑いながら言う彼。どうやら怒ってはいないようだ。


「お礼は気にしないで。それじゃおやすみ。」


 そう言って彼は走り去った。


 マジか!

 イケメンじゃねぇか!

 同級生だよな!

 あぁ。また会いたいな…。

 でも、娘がいるって言っていたから、既婚者か…。

 ダメじゃん…。


 

 自宅マンションのエレベーターに乗る私。

 エレベーターを降り、玄関に入ると娘が立っていた。


「ねえママ? 今のは誰ですかぁ〜?」

 楽しそうに私に聞く次女の華乃はなの


「ああ。同級生よ。見ていたの? てか、起きていたのかよ!」

「あらあらぁ? 今日は会社の飲み会じゃなかったのかなぁ?」


 リビングで私にコーヒを淹れながら、私に質問攻めをする娘。


綾乃あやのは?」

「綾乃も起きているよ。今ね、さっき撮った写真を拡大して、ママの男の趣味を解析中。」


 ちょっ!?


「こら綾乃!」

 私は娘の部屋に、写真を削除するよう向かった。

 綾乃の部屋に入ると、その写真はすでにPCに取り込んでいる。


「あっママお疲れぇと、お帰りなさい。」

「綾乃! 写真を削除しなさい!」

「うん。削除するけど、その前に見て。ヤッバイじゃん。めっちゃイケメンじゃん?」

 モニターに映る先ほどの男性。

「あらやだ。こうやって見ても、本当にイケメンね。」

「きゃー! なになに? 恋っすか?」

 盛り上がる長女の綾乃。


 私と綾乃の会話に、妹の華乃がコーヒーを持って入ってきた。

 そして、「名前は?」と聞く華乃の質問に、私は答えられずに黙っている。送ってもらったのに、知らないとは言えなかった訳だ。


「いいじゃぁん、名前ぐらい教えてよぉ。」

 甘えた口調で私に聞く綾乃。


「わからないんだよね…。向こうは私の事を小山田って言っていたけど…。」


「キャハハハ! ウケる! 何それ!」

 笑う華乃。


「あっ。そう言えば、ママに来ていたよ。」

 そう言って、綾乃が玄関から郵便物の束を持ってくる。色々と届くDMや案内状を振り分け、一通のハガキを見つけた。

「あった。これこれ。」

 綾乃から渡された、往復ハガキ。


 そこには 

 第30期生 ○○○中学校 同窓会 案内状

 と書かれていた。

 なんだか違和感を覚える。


「近所だったら会えるんじゃん? もしかしたらだけど。」

 そう言って華乃は出席に丸を付けている。

「だねだね。お父さんとも離婚が成立したし、ママの第二の人生の始まりだね。」

「だねだね!」

 盛り上がる娘たち。

 まったく。向こうは既婚者だし、私には関係ないんだけどね。

 でも。もう一度会って、きちんとお礼ぐらいしないと。

 


 ん?

 あれ?

 ここって実家じゃないし、何で私がここにいる事を知っているの?

 しかも、横山(旧姓 小山田)って、中学の同級生を結婚式に呼んでいないから、私が横山だというのは知らないはずだよね…。


 だいたい幹事の、(株)同窓会屋さん って、何? めちゃくちゃ怪しいんだけど。

 これって、大丈夫なの?



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