5 涙
神様、たんと苦しみ下さい
この辛さを忘れるほどに
神様、たんと悲しみ下さい
涙の
目の前に広がる海よ
涙は昔ヒトが海に暮らした名残だという
だからヒトは
寂しい時
母なる海が恋しくて
悲しい時
慈愛の海に抱かれたくて
そして今日も歌う
海だけが聞いてくれる歌
波の音に消される叫びも
海にはきっと届いている
この涙は
海へと還そう
そしてあしたも祈る
誰に届かなくても
海と空は黙って聞いてくれるから
今だけはわがままを
この想い
海と空へ
潮風に耐え
砂地に根を張る松の木
背筋を曲げても枝を広げ
空を仰ぐ大樹よ
風と語らってきたろうか
わたしも生きてゆけるだろうか
飛んでいきそうな心捕まえて
大地に足を踏みしめて
生きていくしかないのだろうか
だから海よ
数え切れない悲しみと
忘れてしまいたい苦しみの
たくさんの涙を注いだ海よ
一粒だけでいいから
塩辛くない涙を
誰かに拭ってもらえる涙を
神様、どうか束の間の安らぎを
あしたへと向かえるように
神様、どうかささやかな喜びを
生まれてきて良かったと思えるように
今日を生きていいですか
あしたもちゃんと生きられますか
(1990 H2年 2月)の改作
**************
物心ついた頃から高校生まで、眼の前に松林があり、その向こうに太平洋が広がる、そんな家に住んでいました。
毎日のように松林と砂浜を歩き、海に向かって歌っていました。
或る日、私が帰ろうとすると、見知らぬ小母さんに声を掛けられました。
「海に入らなくて良かった」と。
松林の中で私に気付き、自殺してしまうのではないかと、気になって見ていたのだそうです。
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