おうち時間日本代表

てこ/ひかり

Q.貴方を家の箇所に例えると、何に当たりますか?

「それでは次の質問です。家には玄関、窓、庭、屋根……内装、外装。様々な箇所パーツがあります。貴方を家の箇所パーツに例えると、何に当たりますか?」


「はい。私は『玄関』です! 玄関は家の入り口。家族や客人を招き入れる、開かれた場所です。私も『玄関』のように、御社の素晴らしさを発信していけるような、そんな存在になりたいと思っています!」


「自分は、やっぱり『柱』ですね。外観からは目立たないかもしれませんが、『柱』無くして家は立たず、その家の根幹をなす重要な部分です。『大黒柱』と言う言葉もあるように、いずれは御社を支えられるような、中心的な事業にも携わっていきたいと考えています」


「私は、『窓』になりたいです。『窓』は『玄関』のように人が出入りする場所ではありませんが、日光を取り入れたり、風通しを良くしたり。家の中の快適度を高めるのに大変役立っています。今はまだ堂々と自分のことを『窓』だなんて、畏れ多くて言えませんが、いずれ社内の風通しを良くするような、そんな『窓』を目指しています」


「僕は……『野球』、ですかね。ほら、『おうち時間』って奴で、外で野球し辛くなっちゃったでしょう? それで友達と家の中で野球してたんですよね。え? いえ違います……ゲームじゃなくて、本物の野球です。バットとかボールとか、家に持ち込んで……もちろん18人集めました。


部屋はぎゅうぎゅうだったなぁ。マウンドがないから、コタツの上からピッチャーが振りかぶってね。一部屋が狭かったから、隣の部屋の壁ぶち抜いて、何とか18m確保しました。あんまり狭いもんだから、みんなイライラして途中乱闘が起こったりね。家の中で。だから僕は『野球』です。御社の中でも、『野球』、やってみたいですね」


「俺は、『柔道』っスね。『おうち柔道』。畳だから難易度低いって思われるかもしれないけど、これが簡単そうでなかなか難しいんッスよ! 背負い投げしちゃうと、足、天井にぶつかっちゃうし。何度蛍光灯かち割っちゃったか。大外刈りのついでにテレビも真っ二つにしちゃったり。


被害総額が家賃超えちゃった時は流石に青ざめましたけど、でもやっぱり……一日稽古しないと、取り戻すのに三日かかるってよく言われるじゃないですか。だからおうちにも御社にも『柔道』は必要っスね。押忍」


「自分は『マラソン』かなぁ。『おうちマラソン』です。ルームランナーに乗って、42.195km走るんですよ。何が辛いって、景色が変わらないこと。テレビやラジオだって、走ってたらそのうち疲れで聞こえなくなっちゃいますから。あと、お風呂やトイレが目の前にあるのに、競技中は行けないことですね。生殺し状態です。ただ、走りきった後はすごい爽快感だったなぁ。


道具も少ないし、会社の中でも他の競技よりは断然やりやすいと思います。おすすめですよ、『おうちマラソン』」


「ウチは『スノボ』。『スノーボード』。おうちでやるの。本番よりも、家の中に雪持ってくるのがめっちゃ大変だったナ。部屋中が真っ白になって、服なんかもうビショビショ。んでもって滑るんだけど、そりゃ壁中に穴開くよね? って感じ? ウチ5階だから、『おうちスキージャンプ』にしとけば良かったかナ……って。も少し家が高かったらナ。でも『スノボ』楽しいよ。『スノボ』やろうよ、『御社スノボ』!」


「僕ァ『開会式』なんですよね。競技じゃないの。『おうち開会式』。各国のスター選手をね、家の中に呼んで……ウチ、アパートでしょう? 最初は選手の皆さんも笑顔で手を振ってるけど、だんだん入りきらなくなってきて、どんどん人間『テトリス』みたいな感じになっちゃうの。それ自体がもはや別の競技みたいな感じになっちゃって。


御社はウチより広いから、『開会式』やりやすいんじゃないですか? やってみません? 御社で『開会式』」


「なるほどですね……皆さんの話は分かりました。これで全ての質問は終わりです。今回の集団面接、我が社に採用するのは……『おうちスキージャンプ』の人です!」

「えーっ!?」

「何で!? 何で!?」


「ええ。我が社は13階建なので……白熱の『スキージャンプ』が楽しめそうだなと思って」

「大丈夫ですか? そんな高さから飛んで、新手の自殺志願者と間違われたり……」

「そもそも『スキージャンプ』の人は面接に来てないのでは?」

「その辺は経費でどうにかしましょう。それでは最後に、『玄関』の人も、『柱』の人も『窓』の人も……他の『おうち競技』の方も席をお立ちになって。全員で一斉にご唱和ください。準備はいいですか? せーの……」


「「「「頑張れ!! 日本代表!!!」」」」


「……ありがとうございました。それではこれで本日の面接を終了します」


「それにしても、落ちていく『スキージャンプ』がただ一人受かって、他の競技が全員落ちるだなんてね」

「盲点だったな。正解は絶対『柱』だと思ったのに」

「『玄関』も良かったよ。俺はあっちだと思ってた」

「あら。『おうち柔道』だって、素敵だったわ」

「皆さんお気をつけてお帰りください。各々、好きなように過ごし、良い『おうち時間』を」

「はい。本日はどうもありがとうございました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おうち時間日本代表 てこ/ひかり @light317

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ