第2話 冬の騎士 マイク


結露という冬将軍に立ち向かう、冬の騎士。その名はマイク。


目を刺すようなイエローグリーンという攻めの色遣いが朝の眠気を吹き飛ばし、冷たい結露へ立ち向かう勇気をくれる。


窓枠とガラスにつく水滴を吸い取り、

ずっしりと水を含んだマイク(ロファイバーモップ)。

でも、ひとたび絞れば すぐに元の吸収力を取り戻すのだ!


やるじゃん マイク!!あんた最高だ!!!





使い古しタオルの雑巾ではあり得なかった、その吸収力。


「何故朝食も済まぬうちから、このワタクシが雑巾など持たねばならぬのか‥‥?!」という、

朝イチで雑巾を手にすることへの嫌悪感まで拭い去ってくれた。



今のワタクシは、マイクと共に闘う気高い戦士。


過激なまでにポップな色のニョロニョロ部分に、憎き水分を絡めとっていく。


この窓は、貴様ら結露には渡さぬ!

結露の侵略を許せば最期、カビという蛮族が流れ込み 窓の桟から壁面に至るまではびこるに違いないのだ!





マイクは私の優秀な右腕だが(私が右利きなので)、

その扱いには少々コツが要る。


焦らずに、そっと押しつけ、ジワジワと小刻みに動かしながら、ゆっっくりと吸水させるのだ。


そう。マイクは所謂”キレ者”ではないが、

堅実にじっくりと、実直にコツコツと仕事をするタイプである。



「不肖、このマイクにお任せ下さい。水滴一つ残さず、見事拭き取ってお見せします」




マイクは毎朝、結露との戦いを繰り広げる。


ぐったりと重くなったその身体を、私は何度も洗面台へ運ぶ。

洗面台にて手当てを受けたマイクは不屈の精神で復活し、

軽くなった身体でまた最前線へと向かうのだ。




永遠とも思える長い戦いに疲れ 溜め息をつく私に、マイクはボロボロになった身体で微笑みかける。


「もう少し。もう少しの辛抱です。春になるまで・・・」



マイクは不意に口を噤んだ。



春になったら。


そう、春になったら、マイクはその役目を終え、ベランダの片隅に封印される運命なのだ。




吹っ切るように顔を上げ、マイクは胸を張って宣言する。


「冬の間、この身に変えても この家の窓は私がお護り致します!」





おお、マイク。マイクよ。


お前は本心をその忠誠心の陰にひた隠し、

身体を張ってこの家を護ると言うのか。


時が来れば仄暗い小部屋に封印されることを知りながら、

文句ひとつ言わずに次の冬までじっと耐える覚悟で。



ならば。


残された日々、手を携え存分に闘おうではないか‥‥!!!

結露がなくなるその日まで!!







マイクロファイバーモップが気に入ったという話。

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