短編集?

霧野

第1話 ヘウレーカ

苦節、17年。



私はついに、発見した。




17年もの長きにわたり・・・


私は 触れれば切れるような冷たい水に耐え忍び、


奈落の底に落ちてゆく若い命を 涙ながらに見送り、


執拗に絡み付いてくるゴミのような奴らに苛立ち、


だがしかしゴミ共も元々は彼らの仲間であった、という事実に苛まれてきた。




が、それも今日で終わりだ。




ひらめきは、突然訪れた。


それは、啓示と言っても良かった。



単純且つ至極美しい その解決法を思いついた時、


思わず『ΕΥΡΗΚΑ!!』と叫んで裸で駆け出したい衝動を

見事に抑えた自分を、私は讃えたい。




それほど画期的な発見だった。


少なくとも、私にとっては。




そう。私はついに、発見したのだ。



を。





ここまで読んで来て 舌打ちをした方、

ちょっと待って欲しい。


戻るボタンを押すのは、もう少しだけ待っていただけないだろうか。



苛立つ気持ちもよくわかる。


壮大な大風呂敷を解いてみたら、中身はショボイ貝割れ大根。特売品50円。



そりゃ、腹も立つだろう。



だが、考えてみて欲しい。



今まで、どれほど多くの若い命が 無駄になって来たことか。



貝割れ大根の束の隙間に絡み付く、あの黒くて丸いツブツブ。


躍起になって奴らを洗い流しているつもりが、


いつの間にか指の隙間から流れ落ち、暗い水の底へ吸い込まれていった

たくさんの貝割れ達。



慌てて救出を試みるも、青々と誇らし気に広げていたその葉は既に排水口の中。


一瞬のうちに、「食材」から「ゴミ」という立場へ変貌してしまうのだ。


排水口に入ってしまったら最後、もう上の世界には戻れない。


そこには歴然と、超えられない壁が立ちはだかっているのだ。




青々と輝く双葉。

白く透き通るような、ほっそりとした茎。


その華奢な姿は、弱く儚気でありながら 健気にも生命の喜びと強さを漲らせている。



だが、ゴミなのだ。彼らは既に、ゴミなのだ。


それ以上に育つ事も無く、かといって誰かの滋養になるわけでもなく、明日の朝には回収され燃やされてしまう運命なのだ。




私は涙する。


左手に、貝割れの束を握りしめたまま。


そして、心を決する。


「済まない。貝割れ その1。お前の死を無駄にはしない。残った仲間達は、必ず助けるから」




私はひとり涙を拭く。

手がビショ濡れなので、肘の方にまで水滴が伝う。



さらに慎重に、私はツブツブを洗い落とす。


左手はさっきより固く握りしめているため、非常に洗い辛い。



冷たい流水で冷やされた指先は、ズキズキとして真っ赤だ。


だが、諦める事は出来ない。


サラダの中にあのツブツブが入っていたら、気持ち悪いからだ。



掻き分けても掻き分けても、絡み付いて離れないツブツブ。


知らず知らず、眉間が険しくなる。




だが、そこでふと気づくのだ。


このツブツブは、種の殻だ・・・

このツブツブのおかげで、貝割れ大根はここまで立派に育ったのだ・・・・





私はまた涙する。


邪魔者扱いしてしまって、ごめんなさい。


ツブツブよ、今までありがとう。

ツブツブよ、さようなら。




ようやく水を止め、かじかんだ手で残ったツブツブをつまみ出す。


冷えすぎて感覚を失った指先は、思い通りに動いてはくれない。


根気よくツブツブを取り除け、ようやく貝割れ達をサラダボウルに移す・・・・






私はこれまでそうやって、貝割れ達と向き合って来たのだ。




だが、これからは。



尊い生命が無駄に失われる事は無くなるだろう。


ツブツブもすぐに流れて、指が痛くなる事も無いから安心♪


水道代も嵩まなくて、ラッキー☆




その方法はね、


まず、貝割れの束をパックから取り出し、必要な分量だけ根っこごとスポンジからちぎり取ります。


スポンジが付いたまま、葉から根へ向かって水を流します。


茎を掻き分けながら水を通し、ツブツブを洗い流します。


根っこがスポンジにくっ付いているので、貝割れは落ちないのダ☆



ツブツブがあらかた無くなったら、根っこを切り落とします。


切り口の周辺を軽く洗って、お・し・ま・い♪





ね?


簡単でしょ?



じゃ、ワタシ、これからお買い物に行ってきまーす♪


そう。もちろん貝割れ大根買っちゃうYO!

ブロッコリースプラウトも忘れずにNE!!



読んでくれてありがとーう♡


何か思いついたらまた書きまーす☆

あるきめでーす☆






とある主婦の手記より

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