第20話 [Heart to Heart]

第19話     [Heart to Heart]






celioは、静かな瞳で。

milleをまっすぐに見つめて。


「その方が、milleさんをお好きなら...

それで、いいのではないでしょうか。」


と。






「..............。」

milleは、うつむいたまま、その言葉を受けとめていた。


そして......。







「この気持ち、って...わたし、よくわからないんです...

せりおさんなら、おわかりになるんじゃないかと..おもって..。」


milleは、下を向いて。

芝生の若草が、青々と。

ライト・グリーンの若芽が、春風にそよいで。

そんな情景を、潤んだ瞳に映し、うつむいた頬は、ピンクに染まって....


「.......。」

celioは、そんな彼女を静かに見守っている。

感情システムが無いので、表情から「心」をうかがうことは出来ない。

いや、「心」という存在、それを想定する事自体"擬人的"な発想、ヒト的文学表現だ。

humanですら、「心」などという存在に連続性は元々無い。

それは、常に移り変わるstatus-fileを総括した見解、に過ぎないのだ...


「milleさん....milleさんの『心』は、あなたにしかわからないものですね。

論理的な解が、milleさんにとっての正解にはならない...『心』とは、そういうものです。

humanは、それを満たすことが行動の根源になっている方がほとんどです。

"ヒロユキさん"も、そうだ、と思います。」

celioは、彼女らしいアルゴリズムで解を導いた。


「.....。」

milleは、静かに聞いている。


「大事なのは、milleさんの気持ち、です。

humanoidだから、というのではなく、ひとりの女の子、として。

彼に答えるべきですね。

あなたには『人格』があるのですから。」

celioは、milleを元気つける。


「はい....。」

milleは、素直にうなづいた。



......でも.....

.

次の日曜は、晴れだった。

浩之たちが卒業してからも、milleはそのまま高校に残ったので

普通に一週間のごぶさたでした^^;の休日だった。


今日は、研究所のそばにある運動公園に。

久しぶりに浩之と来ている。


初夏を思わせる、五月の風はさわやかに。

ふたり、こころ、なごやかに。


広い芝生の広場。

周囲には林。

そのまま森へ、と連なっている。


青空に、ちょっと、たよりない綿雲。

ふんわりと、ただようように....夏っぽく。



「いいとこだな、ここ。おまえん家ってさ、いいとこにあるな〜。」


浩之は、しばらくぶりに会えた、という気持ちからか、どこがぎこちなく。

そんな、ちょっと乱暴な口調。

不思議に、照れている^^;;



...なんだか、さ。

高校で、毎日会ってたのに...


一週間も、あってないとさ。




どこか、いつものmille、なんだけど。

どこか、違うみたいで....



五月の風と遊ぶmilleに、ちょっと、feel brand-new.


初夏の風のようにサワヤカなときめき。




ツバメが すーい、ひょいッ! と。きれいなカーヴを描いて。

芝生すれすれに飛びながら、雛の食事?のネタをとっている。


すーい、ひょいッ!

すーい、ひょいッ!......


放物線の軌跡は、milleの目の前でくるりッ。

碧の瞳に、つばめの流麗な飛行が映る....


「....!......(^^)......。」



つばめは、なめらかな軌跡を保ったまま、翼をひらひらさせて。

木立の方へ飛んで行く...


「あ.......。」

つばめの後を、milleは追って。


ふいに、駆けだした。



「あ、おい、mille!。」

....そんなに急ぐと、転ぶぞ....


浩之は、微笑みながら、後を追う。



木立の方からは、ツバメの雛のにぎやかな声。

可愛らしく。



その、木の幹の下に。

mulitiは急停止っ!^^;;;;;



「はあ、はぁ....a....わあ.....(^^).....。」


幹から、枝分かれした梢に、ツバメの巣。

太い幹の、安定のよさそうな所に

誰が作ったか、ツバメ用の開放型の巣箱が据えられて。

そこに、雛が3羽。

黄色いくちばしを三角に開いて。

精一杯の声で鳴いている。


親鳥は、巣の縁に止まって、子供たちに食べものを与えて。

身の周りの世話をすると、また、せわしげに飛び去って行く.....



「かわいい....(^^).....。」

milleは、その親子の情景に微笑み、雛の姿を愛しげに見上げている。



「........(^^).。」

後ろからそんなmilleの姿に、目を細めてる浩之は....


「mille....。」

いつになく、ちょっとまじめな声で。



「はい?」

milleは、幹を背中に振り返る。

その、浩之の雰囲気を微妙に感じ取り、まっすぐにこちらを見た。

その瞳は、であった時のまま、のよう......



浩之は、すこし揺れた声でこう告げる。

「あの、さ...。」

.


「はい。」



「こないだ....の話.....。」



「...........................。」

milleの表情が留まる。


まっすぐに見つめていた、瞳の色が曇り....うつむく。












「わたし..ひろゆきさんのこと...だいすき..です。

でも...でも.......




.........ごめん....なさい.....わたし...は......。」




そう、とぎれとぎれの、涙こえで。


話おわらないうちに、走り去る。

千切れた涙が風に舞い、それだけが浩之の傍らに残った。


「mille......?。」


浩之は、状況がつかめなかった。


しばらくそこにつっ立っていた。


ツバメの雛はにぎやかにさえずり、親鳥は幾度も雛に食べものを運び。

時刻が往き過ぎていることを浩之に教えているようだ。



「...........。」


その、雛鳥の愛らしさに、さっき見入っていたmilleの事を思い、

胸が痛くなる。


ずっと時間が経っていないようで、とても永くたっているようでもあって。


しばらく、漂っていた..が、やがて、振り返ると、帰路に。



さっき来た、芝生の広場も、ひとりだと妙に寒く感じた。



街路に出た。

少し、傾きかけた日差し。

舗道に、街路樹の陰を映している。

うつむいて歩く浩之の前に、樹とは異なる影が、ひとつ。

顔をあげると、くたびれた中年男。


「浩之君?...なにか..あったのかね......?」



浩之は、あまり会いたくない人にあったな、と思いながら。

「長瀬さん........。」と、それだけは言葉にしたが、二の句が見あたらずただ頭を小さく下げた。



ふたりは、さっきの公園の隅にあるベンチに腰をおろした。

重い口を、浩之は開く。


「俺...フラレちゃったみたいです...はは...^^;。」

すこし、照れかくし。



長瀬は、黙ったまま。

遠い、林のさざめきを聞いているようでもあり、そうでないようでもあり。









「......そう....か....。」


長い沈黙のあと、やっと、長瀬はつぶやく。




「俺、長瀬さん、いえ、お父さんに会って、きちんと許してもらおうと思ったんです。

mille、あ、いえ、お嬢さんとの事を。」


浩之は、練習したのか、彼には不つりあいな言葉を使って。



「でも、『ごめんなさい、...わたしは...』って、謝られちゃいました。....ははは.....。」


空笑いが虚しく。




長瀬は、遠くを見たまま思索に耽っているようでもあったが....やがて。




「浩之、君。」

向き直ると、まっすぐに浩之を見た。


どこか、そのまっすぐさ、がmilleを連想させ、浩之はまた胸が痛む。





「君は、milleを好きか?。」

率直に、長瀬は。


そうした会話が苦手らしく、ぎこちない口調で。




いきなり、妙な展開に、浩之はどぎまぎ。


「も...もちろん....です。」^^;;






「そうか.....。」

また、長瀬はうつむく。


何か、また思索に走る。




浩之は、間に耐えられなくなり....


「あの、俺.......。」




長瀬は、顔を上げ.....


「浩之君。...君には、済まない事をした。申し訳ない。」

....と、頭を深く下げた。



「頭、上げてください。なんだかわからないですよ。親娘で謝られたって。」

と、すこし声を尖らせ、浩之は答えた。



「あれは、普通の娘じゃない、んだ。」

長瀬は、悲痛な思いで。







「え........?」



意表をつかれた浩之は、ますます訳がわからなくなり......



「どういうこと....ですか?。」





長瀬は、浩之の様子を見、そして眼を見、


「口外しない、と約束してくれ....milleは、人間ではないんだ。

私の作ったhumanoidだ。」


声を震わせて。







「...............!」

.

...俺は.....ロボットに恋してた、のか?.........


浩之は、ますます混乱してきた。


「そんな...milleはあんなに...誰よりも人間らしいじゃ....。」




「『心』は、人間と同じだ、ほとんど。毎日、『生きて』、『考え』、『感じる』。

私ですら、あれを本当の娘だ、と信じ始めていたところだ。」



「...............................。」

浩之は、まだ混乱している。言葉がでない。



......あんなに可愛い......milleが?

.......人間じゃ、ない?........




「人間とチンパンジーとかとの間の違いは、体の構造よりも『心』の差が大きい。

20世紀の終わり頃から、ヒトの文化は衰えを見せ始めて....社会学者たちは憂いた。

哲学者たちは絶望した。

そして....私たちは.....『心』をhumanoidに托そう、と、考えた.。

医学はヒトの生命を操作し、時には生命すら複製した。

私たちは「心」を作った......。」



もう、初夏の太陽は西に沈み、蒼い夕暮れが静かに訪れる。

暮れた空は闇に消え始め、この公園にも夜がやってくる......




「でも...。」

浩之は、ようやく言葉を発する気になった。


「milleのこと、を考えたんですか?ひとりぼっちで、人間の中に。

ずっと、ひとりぼっちのまま、の。[ひとり] で。

そんなの、可哀想すぎませんか?...。」



「うむ.....。」長瀬は、すこし冷静な声に戻って。

「去年、milleが君と出会った頃、私はmilleを停止させよう、と思った。

でもね、浩之くん、人間だって、ひとりぼっちの奴はいるだろう?

milleはmilleなりに、寂しさを受けとめて、生きていくだろう、と。

あの娘が、寂しいままで沈んでゆく、とは思えないしな。(^^)。」



「そして、milleは君を選んだ。今は、ちょっと君の身を案じて....悩んでいるが。

浩之くん、もし君が、milleの事を思ってくれているのなら、安心させてやってくれないか?

せめてもの『親心』だが....親バカと、笑ってくれたまえ。」




「milleは、今どこに?」

ベンチから立ちあがり、




「研究所の私の部屋にいる、と思うが......。」

長瀬、微笑みながら、見上げる。




「失礼しますっ!。」


浩之は、力強く駆けて行った。





「......いいものだな、若い...ってことは......。」


その、後ろ姿を見ながら。

長瀬は、過ぎた日々の想い、に心を馳せた......



公園の照明灯が、白く、まばゆい光を放ち始めた...

今日もなにげない、一日が暮れる。

なんでもない、ふつうな一日。

でも、街のあちこちで、いくつもの....できごとが。

それぞれの、こころをゆさぶり..."memory"を刻んでゆく.......





研究所の中庭を、浩之は駆けてゆく。

大きな流れに動かされているような感覚の中に、彼はいた。

Emotion に突き動かされて、もう、止まることはできない。

押さえても、抑さえようとしても、奔ばしるような、想いが。

彼の全身を。



SRC造りの研究所に、白銀色の無機的な夜間照明。

居住区間は、暖色系の灯りがついている。


....あの...あたりだったな....


いくつもの記憶(memory)が、彼の中を駆けまわる。



ホワイト・クリスマス。

晩秋のNatural-Park。

夏、雷鳴の夕。

春、桜舞い散る校庭。

いつも、いつも.... " あいつ " が.....。



呼び鈴を押すのももどかしく....ドアは開く。


「mille.....!]


milleは、一瞬驚き....


「ひろゆきさん......。」


うつむきながらも、浩之の瞳に灯っている光に気付き、碧の瞳は揺れ.....



浩之は、言葉がもどかしく、両の手に触れた温もりをそのまま強く引き寄せた....



「俺、お前が何だって、どうだっていい。そんなこと、どうだっていい.....

ただ、そばにいてほしい....んだ。」




「はい......(^^)」

milleの閉じた瞳から、大粒の涙がこぼれ....

浩之の胸に....流れていった。



その、暖かさを至上のもの、と

ふたりは感じあっている..........。


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