第16話    [ It's a natural thing ]

第16話  [ It's a natural thing ]



なにげなく、なんとなく。

浩之たちの街にも、あたらしい年がやってくる。


今朝は、朝霧がたちこめている.....。


丘に沿ったなだらかな斜面にある、住宅地の路地。

ひっそりとして。

静かな朝に、新聞配達の自転車の音。


かちゃ、かちゃ....。



街角を通りすぎ、ブレーキをかける音だけがすこし響く。

でも、直ぐに、また静かになった。


朝霧が、木々を撫でてゆく音が聞こえるみたいに。



と.....。



ぺた、ぺた、ぺた。

とっとこ、とっとこ。



.....ん?




ぺた、ぺた、ぺた。

とっとこ、とっとこ。



....はて?



その、妙な音は、街路を登って。しだいに大きくなってきた。




ぺた、ぺた、ぺた、ぺたた。

とっとこ、とっとこ、とっとこ、と。





朝霧の街を。

誰かが、あるいているらしい。



のぼり坂は、ちょっときつい斜面で、ここが案外な山だ、ということを...

彼女(?)に意識させて。


ちょっと、空を仰いだ...。立ち止まって。




「はぁ....。^^;。」





その様子に、もうひとつの音の主は、同じように立ち止まり(?)。

彼女を見上げて......



「あん!」



その声に、彼女は...視線を「彼」の方に。

みどりの髪が、サラりとゆれて。






「あら、元気ねぇ...『マル』は(^^)。」



マルと呼ばれた仔犬は、茶色でもこもこのしっぽをふりふり。


彼女の足元、学校の体操着だろうか、ジャージ服の足にまとわる..。






「あんあん!」



「あ...こら、だめよぉ...つめたてちゃ。」









彼女は、しゃがみこんで、仔犬の首の辺りを撫でた。

仔犬も、嬉しそうに短いしっぽを振って、答える...。



そこに、もうひとつの足音が。



ぱた、ぱた、ぱた,

ぱた、ぱた、ぱた。



ひよ鳥が、高い声でさえずりながら、飛び去った。



朝霧が流れ、お下げ髪の少女が。


「あ、ミレちゃん?」




「おはようございます、あかりさん!」

「あん!」



「あれ(^^)、仔犬、いっしょ、お散歩?」


「はい(^^)。マルを追っかけてきたら、ここに....。」






「名前『まる』にしたの?」


「あん!」



「ふふふ(^^)。もう覚えてる。」




「...そうなんですぅ^^;。おうちで、おとうさんがわたしを『ミレっ!』てよぶときに。

 いっしょにいるので、『まる』が。

    じぶんのなまえだ、とおもっちゃったみたいなんですぅ^^;.....。」


milleは、ちょっと困ったナ、という表情で。でも瞳は笑っている。






「あ、そうねぇ...最初、校庭で、ほら、この犬。『ひろ』って呼ばれて..

返事してたものね^^;。」


あかりは、秋の日の事を思い出しながら..。




「そおですねぇ..。」

milleも、あの秋の日の出会いを、思い出していた...。



紅葉。

さくらの葉、いり陽いろ。

いただきもののケーキを、たべちゃった「まる」。

それから、保科さんに、たすけていただいて..。


それから、それから...。








「あ、でも、志保が『“ひろ”にしないのぉ〜^^;』って。いってたわね。」


あかり、妙に記憶が良く。

(そういうことは、よく覚えてるもので。

んでも、どーして勉強とかだと忘れるんだろ{作者雑感。^^;})




「あ、ほんとうですね、ふふ...(^^))



仔犬が、ふたりの間で、会話に耳を傾けて(?)いる。

にこにこと。

しっぽを振っている....。









しゅる、しゅる、しゅる.....。


おもちゃのクルマみたいな、モーターの音が駆ける。


On-DemandEVが、朝霧を抜けて

ふたりと一匹の傍らをゆきすぎ、日本的な生垣の門構えに停車した。


家の中から、和服の女の子。

華やかな色合いの、振袖。

でも、髪が長いまま.....。



「....?。」

milleは、その様子に。



「あかりさん...?あれ....」と、たずねた。



「ああ、美容院に行くのね。

  今日、成人式なのよ...。」


「...きれいないろ....(^^)...。」


milleは、その、春を感じさせるような色合いに見入っていた。

絹の光沢に映える、桃色は品良く。



「......。」(^^)

見とれているmilleだった。



.........(^^)。  !


その様子を、微笑みながら。

あかりは、何かを思いついたようだ。



On-DemandEVは、静かに走り去る。

インダクション・モーターのノイズは遠ざかり、街並みに静寂が還る....。







「...ねえ、milleちゃん..?ちょっと、時間ある?。」



「はい...今日、お休みですから....。」



「私のうち、すぐそこなのよ。ちょっと、寄ってって。

  いいものみせたげる。」

あかりは、ちょっと、お姉さんっぽく微笑んだ。



「はい...(^^)?....。」




「おかあさん、ただいまぁー。」



浩之の家より、少しこじんまりとした感じの和風建築。

引き戸を開き、あかりはすこし幼な声で、帰宅を告げた。




「おかえり。遅かったのね...?」



あかりによく似た、母親は。

声もそっくり。

台所の暖簾を開き。..と、milleの存在に気づく。




「あ、お母さん、おともだち。いつも話してる、2年生のミレちゃん。」




「はじめまして。(__)。」長瀬、milleです。


milleは、ややぎこちなく礼をして。



「あらあら、いらっしゃい。あかりと、仲良くしてくださって...。」

母親は、優しく微笑み、軽く会釈。



「さ、あいさつはそれくらい!、あがって、ミレちゃん!」

と、あかりは嬉しそう。あがりかまちで、milleを促す。






「.....はい、おじゃまします...(^^)。」




「あん!」




「.....あら(^^)..ごめんね、わすれちゃってたわ.....。」


あかりは、仔犬を抱き上げる。

もこもこの短いしっぽをふりふり、仔犬はおとなしく抱かれている...



「おかあさん、あのね...(^^)..。」

あかりは、母親になにか囁いた。



「...いいわよ。奥の方にあったはずだわ...さあ、じゃ、ワンちゃんはわたしが。(^^)。」


母親は、仔犬をあかりから預かって、台所の方へ、暖簾をくぐり。




「...さ、ミレちゃん、いきましょ。」


「はい.....(^^)...?。」






和室。

和箪笥が幾つか。

その、奥の方で、あかりはごそごそと、さがしもの。



「...えっと...^^;...このあたりだったかな...


                .....あった!。」





白い布地。

薄い桃色、若草色が品良く。愛らしく花の意匠の...晴れ着。





「......!(^^)。」



「(^^)。....。きれい...です.。」






「ねえ、着てみない?。」


あかりは、優しく微笑んだ。

母に、よく似た表情で。




「..え、...^^;..あ、いえ.....ごめいわくでないですか..。」



晴れ着から視線を移して、milleはあかりにそう答えた。




「いいのよ!そのつもりで呼んだの。

  きっと可愛く似合うわよ.....(^^)。」


あかり、お姉さんのように笑みをたたえて。milleの瞳を見た。





「はい。ありがとうございます....(^^)...。」


milleも、やわらかく微笑みを返す.....。










「...ちょっと、きつくない..?。」


「は...い..^^;...だい、じょうぶ..です..^^;。」


振り袖の帯を締めながら、二人は、姉妹のように....。






「できたわ!。」


ぽんッ、と、帯をたたいて。

あかりは、背中からmilleの肩に優しく手を。


「さぁ、あっち向いて!。(^^)」



大きな姿見の方へ、向き直るmille.....鏡に映る...

見たことのない、自分。


「(*^^*)...あ....。」

どう言っていいか、言葉が見つからない..けど..うれしい(^^)。





春野のようにやわらかな色彩。

碧の髪と、瞳を引き立てて。

桃色に、頬染めて...少女は..ほほえむ。





「とっても、すてき。かわいいわよ、みれちゃん。(^^)。」




「ありがとう..ご..ざいます!わたし、うまくいえませんけど、

 とても、とてもうれしいです。

    こんな...こんなに...。」


思いがあふれて、ことばが紡げない。

...笑顔の瞳は潤み..細い指先は目頭を拭う...。






「あら....。」(*^^;)


あかり、ハンカチーフでmilleの頬を優しく。

“妹”を気遣うように。





「あ、すみません...(^;)せっかく...。」





.....こんな、わたし..に、

.....やさしく、して、くださって。

.....ほんとうに、ほんとうに。

.....ありがとう、ございます..。


milleは、こころの中でそう、つぶやいた。

どんな言葉も、いまの気持ちを表せない。

そんな、深い想いの中で。





冬のお陽さま、柔らかく。


ひざしはほのか、暖かく。


いつか、気づけばあおぞらが。


やさしい温みで、つつんでくれて...。








春、遠からじ.........。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る