第10話   [You've got a friend....]

第10話        [You've got a friend....]







「あ、mille、あかりがさ、いっしょにテスト勉強しようって。」


「ほんとですかぁ、ありがとうございます、あかりさん!(^^)。」

milleは、明るく。


「ほら、これでも一応先輩だから、去年の事、覚えてるし。ばっちりでしょ?」

あかり、milleを、妹のように気遣う.....。


・・・さて、humanoidは、テスト勉強をするのかな?(笑)



雨上がりの空に、つばめが三羽。

滑らかな、グライディング。


季節は巡り.....夏は、もう、すぐ......。






「じゃあさ〜、ヤックよってく?。」

志保は、たのしげ。


「あ、いいね。」

雅史。


「ああ、そうするか。」


「........。」

mille、下向いて。


「.....あ、あのぉ...私、.....。」


浩之、milleを見、にっこりと、「そのくら...


「あ、そ〜よ、その前にさぁ、ゲーセンいってさぁ、またバトル....

志保、すっかり何かをわすれてる^^;


「おまえって......ほんと鳥頭だよな.....^^;。」

あきれたように、浩之は。


「なによぉ、その言い草。^^: 」


「だってな...ぁ。」

浩之、あかりに視線を。


「志保、テスト対策だってば。」 ^^;;;


「あぁ、そうだったわね〜。はは。^^。」

頭、カキカキ。


「ははは。」

「ふふふ。」


みんなの笑い声、雨あがりの空に。

笑顔、水たまりに映り、揺れている.....。



ファースト・フード。

ガラス・エリアの大きい二階席の窓際に陣取って。

独特の賑やかさと、フライド・ポテトの匂い。

若々しさが似つかわしいような、クリーム色の壁。

客の大半は、浩之たちのような学校帰りの高校生たちだ。

楽しそうに語りあい(というより、笑い、ふざけあい。)

それぞれに、"解放"を満喫している......。(テストじゃないのか?)

まあ、そんなもんだろう。........^^;;




テーブルの並び順、自然に、あかり・浩之。向かいあって、志保、雅史。

横に、mille。


まあ、学年が違うので、こうなっちゃうのかな?


「あーもう、どうして英語ってこう面倒なんだろ。俺、、日本人でよかったよ。」

浩之、ほんとに面倒臭そうに、英文法の教科書を見ながら。


「外人は、日本語の方が大変だっていうみたいだけど.....。」

雅史、静かな感じの声で。



「ほんとかよ、へー。普段使ってるけどな、こうして。」


「そうそう、レミィもいってたわよ〜。日本の英語(?)ムツカシイデス、って。

志保も。同調して。


「レミィも誘っときゃ、よかったな。」

浩之は、ぽつりと。


milleは、その彼の言葉のニュアンスに微妙な意味が含まれていない

ことを、感じとり、安堵した。




「んでもって、ここがさあ....「あ、浩之ちゃん、そこはね..」

「お前さぁ、いい加減にその呼び方、やめろよな。」

「あ...ごめ〜ん。昔っから、こう呼んでたから。^^;。」


そんなふたりのやりとり。


milleは、ちょっとうらやましい。長い時間の蓄積。


.....わたし、生まれたばかりだし...

だれかと、あんなふうに、data-fileを共有したい....


もちろん、そんな事を皆が知る由もない。



「あ、milleちゃん、どぉ、わからないとこ。」あかりは、優しく、姉のように。

「あ、あの、そうです、この....。」^^;



「あかりさぁ、milleとそうやってると、姉妹みたいだよな。」

「そう?」「そぉですか?」(^^)。




....あかりさん、優しいお姉さんみたい....

mille、自分の生い立ちが生い立ちだけに、その気遣いがとても.....ありがたく思えて。



....でも、浩之さんのこと....?あかりさん?本当は?


たずねてみたい。でも....


それは、アンヴィヴァレントな感情。

「恋」が意味する差異の感覚、「友情」という融和の感覚。



入り交じって、彼女は、複雑な演算を繰り返していた...。

そんなふたりの情景を、微笑みながら。

浩之は苦手な(どれもそう得意ではないが)数学を.....。

彼に、milleの心境が理解できるのは、いつのことになるだろう?

.....いや、そんな日が?いつ?

なにしろ、彼女は.....。



そうこうしているうちに、グラス・エリアにも、夜のとばりが訪れようとしている。

にぎやかだったこの店も、ふと気付くと少し静けさが。



「そろそろ、帰りましょうか?」「そうだな。」


「そうだね。あまり遅くなると、お父さん心配しないかな。」

雅史、ちょっとお兄さんっぽく。


「大丈夫さ、俺達がついてるから。」

浩之、いつになく?胸はって。


「バッカねぇ〜、だから心配なんじゃない、おとうさん。」

志保、からかうように。



「あ、そうか。(^^)。」


ははは(^^)

ふふふ。(^^)

あは(~~)。


えへ^^; 。



「.......。」

皆と別れた浩之は、街路のある通りを歩き、駅前に買い出しに。


「...なんだか、急にひとりになると.....な。」

その落差で、とてもさびしさを感じる。

今日も両親は、出かけたままだ。


なんか、飯でも食ってくか、な。

やっぱ、ハンバーガーだけじゃ、足んねいぜ。^^;


ポプラ並木の大通り。LRTが静かに行き交っている。

そこから、彼は商店街の方へ。

裏通りの方には、定食屋とか丼物とか、安くていい店がある。

このあたりは、昔と何も変わらない。


と...。

スーパーマーケットの前で、彼は歩みを止めた。


「.....そういや、理緒ちゃんどおしてるかな?。」


自動扉は、ガラスの質量を感じさせずに静かに開く。





「理緒ちゃん?」


浩之の視線の彼方、前髪ひょこひょこと気忙しく働くユニホーム姿。

ちょっと見には、アルバイト店員とは思えない。

そんな彼女の姿に、浩之は、一年生の頃の理緒の姿を重ねて。

......ずいぶん、おとなになったよな....理緒ちゃん....。

と、時間の流れの早いことを実感していた。

その、彼の視線に気付く、理緒。



「あら、藤田君。なに、お買い物?」理緒はごく、普通な感じで。


「理緒ちゃんさぁ、テスト前だってのにバイトなんかしてて、大丈夫か?」

浩之は、ぶっきらぼうにそう尋ねる。


理緒、ちょっと視線を泳がせて、

「うぅん、あたし、頭悪いから...。」



.....浩之、黙る。まずいこと聞いちまったかな?


その間を感じ、理緒は気遣う。


「ううん、いいのよ。どうせ。勉強しても駄目なの、あたし。^^;」



「カンニングしちまえよ。^^;」


「だめよ、そんな、カンニングなんて。」驚き、理緒は浩之を真っ直ぐ見、

「出来なくたって、補習受ければ良いんだから。」


「...そうか....。」でもなぁ....。

「じゃ、バイトがんばれよ!。また、いつかみたいに勉強しようぜ

一緒に。」


「うん!(^^)ありがとう。じゃ....気をつけて帰ってね!。」


「さよなら。」


ちょっと、浩之は考える。

....勉強したくても、できない奴もいるんだな.....。


.....お、そうだ、めし、めし ^^;....。


浩之は、牛丼屋のオレンジの看板を見つけ、踵を返した......





さて.......

小高い丘の上の、研究所。

今日は、もうすっかり夜の装いで、明かりが所々。

パーキングの照明が、涼やか。


人影ひとつ。

小柄な制服の女の子....。

「ちょっと、遅くなっちゃった。」milleは小走りに研究棟へ。


エポキシ塗装の廊下をぱたぱた歩き、長瀬の研究室に。


「ただいまぁーっ。」「ああ、おかえり。」

「今日は、遅かったんだね。」

長瀬は、“愛娘”の帰宅を待っていたかのように。


「あ、テストの勉強してたから...。」「そうか。あんまり遅くなるんじゃないぞ。」


「......^^;。」mille、さっきの志保の言葉を思い出し、うつむき微笑み。



「どうした、?」長瀬、わけわからず。

「あ、なんでもないんです。ごめんなさい。」mille、向き直り、いつものようにまっすぐな瞳で。


「そうか、遅くなるときは連絡しなさい。」

「はぁーい。(^^)。」milleは、実験室から、自室へと戻る...。

長瀬の言葉に、なんとなく、暖かみを感じ。

おもわず、スキップ.....したい気分だった。




「はて.....?。」

長瀬、自分の言葉を反芻し、自己疑問。

......どこにいるかは、大体わかるのだが....?

どうも、あれと話していると、本当の娘のような気がして...な。


ふと、視線を、机の端の写真立て、に......。


薄暗い研究室、ピン・スポット・ライトの光線が彼の横顔に、陰影を。

頬に刻まれた皺が、深く修飾され、年輪をより感じさせて。

......俺も、年とったな......。

科学者らしくもなく、すこしノスタルジックな、今夜の彼だった。




長瀬は思う。...勉強って(?)。

milleはcomputer制御だった筈だが..

自律システムは、ヒトのシミュレイトでも行っているのか?

もう、自立動作にも不安がなくなったな.....。

彼は、手元のコンピュータから、milleのシステム領域にremote-loginしようとした。


# rlogin -l root mille

Password :


login incorrect

login:


「うむ......?..。」


login : root

Password :


login incorrect :

login :



「どうしたことだ。パスワードを間違えたのか?」


......確認したが、誤りはなかった。


login : root

Password


login incorrect 3 times! :


# :


「う....む.....。」


.....まさか...自律システムは、本当に「自立」したのか?...!

.....だとすると....



# rlogin -l system mille

Password :


login incorrect


login :


「うーむ.....。」

.......通信は大丈夫なようだから、故障とは考えられない。


まさか、でもそんな.....。

疑似人格システムは、自他の領域を隔離しはじめた....?





さて、部屋に戻ったmille。

制服から普段着に着替え、今日は、一応(?)テストの

お勉強などを....。

やるつもり(?)



.........あれ?


あたしはhumanoidなのに、なんで勉強駄目なのかしら....^^;。


milleは、夜景、見下ろす街明かりを見ながら、ちょっと物思い。

星の瞬きにも似た人工照明の数々を見ながら。



さ、がんばろ。^^;


もう一度机に向かい、なにやら学習をはじめた...。


「....えっとぉ.....?。」





さて....当日。



翌日。


3年のフロア。屋上に向かう階段の踊り場

朝のこの時間、誰も来る者はない...しかし?

人影ふたつ。話声。





「....だからさ、ちょっと力貸してやれば..。」

ポケットに手を突っ込んだ少年。

浩之である。



「だめよ、そんな。カンニングなんて。

それよりさ、点数が取れるように

お手伝いしてあげようよ。」

あかりは、ごく普通の感覚で。そう告げる。


「だからさ、時間ないんだって。ちょっと答え教えてやればいいんだよ、

答案が見えるようにしてやりゃ....。」


「...そ...うね....。」

あかり、考え込む。そこに、予鈴が。


「ほんじゃ、ま!」


「あ、浩之ちゃん!」



さて、ホームルームは終わり、いよいよテスト。


直前まで教科書を見るもの、宙を仰ぎ暗唱するもの...

なにやら紙きれを仕込む者(?).....(^^)

さまざまに、テスト前の緊張が。



教師、テスト用紙を抱え、引き戸を開けて。


「さあ、教科書をしまって、仕掛けもしまえよ、^^;。」

体格のよい、中年の教師はラフに。


手慣れた手付きで答案をさばき、先頭の生徒に渡す。


「いきわたったか〜、じゃ、始めろ。」



紙が翻る音。

鉛筆と机が、答案を挟んでふれあう硬質な音だけが響く......。


一応(?)緊張の雰囲気.....。





さて、milleは.....と。


テスト用紙をひっくり返して、milleは窓の外の桜の木を。

もうすっかり若葉が茂り、青々とした葉桜だ。


「....蕾の、頃....。」


ちょっとした瞬間。

ほのぼのと、思い出に耽る、今日のmille。

「....あ.....。」

.....わたしにも、思い出が....。


すこしづつ。


こころのなかで、ちょっと微笑み。






そうして、(?)あっという間の、テストは終了し。(たいてい、短縮時間だ。)

いつもの屋上....

今日は、ひざしが強いので、みんな校舎の影のベンチに。

「あちぃな、まったく。クーラーくらいつけろよな。」

浩之は、だらしなくシャツの胸を手であおぎながら....。


「それで、どうだったんだ、理緒ちゃん。」


「それが、ぜんぜん見ようとしなかったのよ...。」

あかりは、なんとなく安堵の表情で。


「そうか...まあ、よかったのかもな。」

浩之は、なんとなくほっとしたような、でも、ちょっと残念なような

妙な気分に。


「さ、今日はこれで終わりだ。帰ろう。」


「そうね..。」


日向に出ると、太陽は強い力で、熱をたきつけているようにも思えた。



帰り道。

milleは、いつものように買い物をして帰ろうと、スーパーマーケットへ。


冷房が効いた店内に入ると、その温度差は肌寒い程で、milleは、feedback制御が

追いつかなくなりそうだった......。


食料品売り場。

乾物売り場。

生鮮品売り場。

それぞれに、活気のある、夕刻のマーケット。

「.....。」

いろいろ、見て歩きながら。

お菓子売り場を通りかかる.....。

クッキー、おせんべい、チョコレート.....?。


「あ....。」


その、甘い芳香は、彼女の記憶を呼び起こした。


mille、あたりをちょっと見回して...きょろきょろと。


すこし、小走りに駆け出した.。



スーパーの裏手。

つぶした段ボール、紙屑、プラスチックのトレイ。

スチール・パイプのカートン、台車....。

雑然としている、バック・ヤード。



裏口で掃除の理緒。


額に汗。

姉さんかぶりをし、ほうきを小刻みに右、左....。


ちょっと、ためいき.....。

「暑いなぁ.....。」


裏通りに面したここは、冷房の放熱機があって、よけいに暑い。


ちょっと、手を休め、太陽を見上げた.....。



「理緒さんっ!」


ふりかえる....と。短い切りはなしの髪、肩の落ちた制服。


「ああ(^^)milleちゃん!よく、わかったわね、ここ。」


「はい、ちょっと、お買い物の時に.....お掃除ですか?」


「うん、そう、アルバイト。」


multiは、うず高く積まれた紙屑、段ボール片を見まわして......。


「あ、あたし、手伝います!」


「いいのよぉ、私の仕事だから。」


milleは、段ボール箱を、積重ね始めた。


「ありがとう^^; やさしいのね.....。」

理緒は、にっこりと、milleを見、微笑む...。


(^^)。

milleも、しゃがんだまま、理緒を見上げて、微笑む.....。




「...前にも、ミレちゃんに手伝ってもらったっけ。」

「...そんなことも、ありましたっけ?」

「ふふ^^;」

「ふふ(^^)。」


ふたり、早春のあの頃のことを思い出し、微笑みを交わした...。



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