第5話  [sugar baby love]

第5話        [sugar baby love]





そして、それから砂糖菓子のような時を過ごした二人は...。

ゲレンデを後に、今度は遊園地の方に。

このあたりの雰囲気は、昔と変わっていない。

観覧車があったり、ジェット・コースターがあったり..。

緑地帯になっている入り口のところで、pierrotの扮装をした者が風船を配っている。



着ぐるみの熊も、一緒に。



「はい、お嬢ちゃん。」

「ありがとう。」


小柄なmilleは、子供だと思われたのか、風船をもらえて....。




「わぁ....。(^^)。」





童心に戻って(?)瞳を輝かせている。

にこにこと。


そんな彼女を優しく見つめる、彼....。



ジェリー・ビーンズのような午後が、翔ぶように過ぎる。



「....(^^)。」

熊の着ぐるみの中味は、その情景をじっと見...。つぶやく。

「....藤田君って、milleちゃんが好きなのかしら.....?...。」



今日も、アルバイトに勤しむ理緒。

着ぐるみの扮装は、結構体力がいる。

暑いし、重いし、良く見えないし...

まあ、結構いいバイトだけど(実感...(^^)...。)



「...ちょっと、気になる...な。」



真っ直ぐに、想うふたつのこころ/心。



「...でも...。」


勤労少女にとっては、ちょっと寂しい、今日の出来事であった。


さて、そんなふたりは、緑地公園のような広場にでる。

浩之は、何か飲み物でも買ってこようか、と少しmilleのそばを離れた。

そんな、milleの目前を、パレードの波が通過する。


華やかな衣装。

歌い、踊る人波。


ニューオーリンズ・リズムの、セカンド・ライン・ドラム。

そんな、人波に紛れて、ふたりの距離は...離れて行く。



「...あれ、mille、どこだ?」

ジュースの缶を持って、浩之。

ポップコーンも抱えている。



「...あれ、ここ、どこですかぁ...。」



風船と、パレードに気をとられて、彼女はすっかり。

まわりは、知らない人ばかり。

突然、一人きりで放り出されたような、見捨てられたような...気分。



「...ひろゆきさぁん、どこですかぁ....。」


明るく、柔らかな陽射しの和やかな風景も、しだいに滲んで行く...。

ひと込みの中で、ひとり。

風船を持ったまま、手の甲で涙を拭う....。


わたし、ひとりぼっち....。(;_;)


「あ、こんなところに...。」


浩之が、駆けてくる。

ポップ・コーンが跳ねている.....。

「ひろゆきさぁん!(;_;)」

「...おぉい、^^;、こんなことで泣くなよ.....。」


ちょっと、困ってしまう....泣かれちゃうと...な。



風が優しく吹きぬける

ふたりのこころに ふきぬける

はるのやさしい おひさまは

ルルゥラルゥ

しずかに うたう あいのうた....

.....それか、ら。


ふたりの時刻が、すぎてゆく。

ふんわり、と。

シャボン玉のように。

綿菓子のように。





ゆっくり回る、観覧車。

振動が、機械のことばのようで、

油の匂いは、力強くもあり、

なつかしくもあり。


「わぁ・・・たかい....^^;。」




遠く、針葉樹の林、尖った白い峰嶺。

都市の人工空間から離れた郊外の遠景...。

夕陽が、ふくらみながら、西へと傾く。

彼女のまるい頬を、いり陽いろに染めながら。





milleは、風船をもったままゴンドラの窓にもたれて。

しばらくそうして、そらとうみとをながめていた....きょうは、とっても、たのしいいちにち。

すてきなメロディ、ながれだす。

どこからともなく、たそがれが。

なないろの、かがやきつれて、やってくる.....。




まるで、無垢のこどものような彼女。


浩之は、“想い”,,,で,いっぱいだった。


駅前の雑踏。

もう、すっかり、宵の口。

いちばん星が、瞬きを。



LRTの停留所....。



「きょうは、とってもすてきないちにちでした!ありがとうございました。」


milleは、愛らしく、ちょこんとお辞儀。


「ああ(^^)。また、どっかいこうな。」

「はい!ぜひ、ごいっしょさせてください!」




「ただいまーっ!」

「おお、おかえり、遅かったね。」


風船を持ったまま、笑顔一杯!。


そんな彼女に、長瀬もそれまでの不安を忘れ、笑顔....。


今日も、いつものように、デイト・カウントは回る....。



でも、ちょっとだけ、特別な一日だった....。


彼女にとっては。







部屋に戻った彼女は、灯りをつけて、ちょっとひといき。


スタンド・チェアに腰掛けて、ぼんやり、と。


天井の丸い照明。


淡い色彩の、壁。




壁にかけられた制服。





彼女にとっては、ついこの間からの“学生”生活。

でも...。


「さあ、あしたは....?」


彼女は、壁面のスケジューラを見る。

明日の日付に、赤い印。


「....?」


スケジューラのラジオ・ボタンを示すと、「卒業式、授業なし」と。




「....三年生は、もう卒業なのね..。」


いつもと、変わらないようなのに。





芹香さんには、もう学校では会えないんだわ......。



なんとなく、不思議な感じ。




milleは、芹香の茫洋とした表情、とらえどころのないような黒い瞳を

思い浮かべている。



「みんなに会えなくなるって、..さびしいだろうナ。」



....でも、研究所では、あえるんダケド。^_^;


彼女なりの、万感の思い(?)と、共に、夜は更ける。




そして、またあたらしい朝が。





mille@system:date

mille@system:Mar 8 20xx...






さて、きょうも元気に投稿(じゃなくて)登校!。



「いってきまぁーす!」

「ああ、気をつけてな。」




もう、そろそろ陽の光も、春の色を帯びてくる。

風の香りも、花のイメージを。



なんとはなしに、うきうきするような、不思議な季節の移ろいを彼女は感じていた。





そんな、あれこれを考えながら、ちょこちょこと歩くと、校門が見えてくる。




「第24回 卒業式会場」




学校の雰囲気も、いつもとちょっと違って。華やかでもあり、晴れの舞台といった

おごそかなムードもすこしは、感じられる。


春という、季節のもたらすエネルギィ。

浮き立つような、弾むような、生命の息吹。新しい、目覚め。

そんな、明るいムードそのものと、春一番の冷たさが。


[別れ]のイメージを、象徴して。

明日への道標、であるかのような、一歩、を刻む....。





いつもの玄関先に、長いテーブルを並べて、

「受付」と書かれた白い模造紙、紙のカーネーション。

卒業生を送る、在校生が花をつけてあげる、

という微笑ましい情景が、そこかしこに。


そのうちの一人に、みつあみ、お下げ.....


「あ、あかりさん、おはようございます。」

「milleちゃん、おはよう。」


「早くから、忙しそうですね。」

「そうよぉ、今日はね、在校生が“送る日”なのよぉ。


....いつか、わたしが“送る”立場になるのかナ....。




milleは、浩之の胸に、カーネーションの花をつけてあげる情景を思い、

なんだか、せつないような、さびしいような気分になってしまった。



と、そんなところに....。


いつものように、のんびり、と芹香が。


milleは、ボール紙箱の中の花を、ひとつ、つまんで。




「あ、わたしにやらせてください!」

「そう、じゃあ、おねがいね。」



安全ピンが付いている、花を持って、芹香の胸に。


ゆっくりと、焦らず....。



「あいた!」



指に、ピンを刺してしまった。



芹香、milleの手を取り、指を優しく撫でる.....。微笑み。


みつめあう、瞳/瞳。



(^^) / (^^;; ....。




微かな、花香を含み、気圏が通過する。

髪を撫で、制服の裾を揺する....。

ゆらぎを帯びた、自然のメッセージ。





もう一度...。


今度は、うまくいった。


「そ、卒業、おめでとうございます!」



「ありがとう......。」 こくり。 穏やかな微笑み。



いつになく、晴れがましい、感じ...。


....春は、もうすぐ。


そこ、まで...。








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