第4話 love notes
第4話 [ Love Notes ]
どこかで、金木犀が香っている.....。
今日も、一日が終わりを告げ、
タイム・カウントがまた回る....。
長瀬は、この研究を始めてから、もう長いことアパートメントに戻っていなかった。
昼夜を問わず、アイデアが閃くと直ぐに実験したいという科学者の性が災いし、
住居に戻る暇がなくなったのだ。
元来、孤独が好きな彼は、別段それを気に病むことはなく、数年前にただ一人の
身内であった母親をなくしてからは、ほとんど研究所に住んでいるような状態である。
その、「我が家」の灯りが見えてきた、
今は、ここが彼の「My Home。」
「愛娘」との....。
「おとうさん、おかえりなさい!」
明るく、輝く、碧の瞳。
今日はひときわ輝きが。
「うむ、ただいま。」
長瀬、普段よりも少し元気だ。
「あのね、.....。」
milleは、今日の出来事を話す。
楽しげに。
sprash!
炭酸ソーダのように。
爽やかに、刺激的に、眩しい、夏の太陽みたい。
長瀬の心をも、刺激する....。
「それでね、その....ね....。」
「今度...お出かけしてもいいですか?」
「.....m......。」
無言。
長瀬は、複雑である。
自ら作り出した「機械」。
本来ならば、隷属するようにプログラムしても良いのだが、
彼の「擬似人格」構想への研究熱は、限りなく「我が娘」を作ってしまった。
ヒトに恋し、「親」からの別離。
仮想人格としてのシミュレイトは、完璧だ。
しかし、其れゆえに、自分の所有物ではなくなっている。
機械のはずなのに。
これまで、彼が求めていたものは、何だったのだろう..。
長瀬は、禁止を告げようと、milleを見る。
「mille....。」
喜びに満ちた、女の子としてのmilleは、明るい表情で長瀬を見る。
真っ直ぐに。
瞳、輝かせ。
生きる喜びに満ち、
微笑み。
あたかも、泡から生まれた女神のようで、長瀬は、
「....気をつけるんだよ...。」 と。
ぽつり、と、告げることしかできず.....。
「はいっ!」
にっこりと、表情を崩すmille。
天使のように安らかな笑顔。
長瀬は、母性、限りなき処女性に抱かれて
全てを許し、愛し、慈しむという心境を理解できた。
望むがままに、向かうがままに。
愛する故に、別れねば。
忘れた父性を、思い出す。
彼女のそばには「愛」が生まれる....。
・
・
・
・
「おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
ごく普通の親子のように、「おやすみ」と言い、二人、それぞれの夜。
milleは、寝室に。
実験室とは別棟にある、住居棟。
殆どの研究者が、この住居棟に寝泊りし、日々、研鑚に勤めている。
そこに、長瀬専用の区画があり、その一室にmilleは「住んで」いる。
これも、学習機能の関係で、可能な限りヒトに近づけよう、とする
長瀬の発想に拠る物だ。
実踏に勝るデータはない。と。
しかし、今夜のmilleは、と、いうと,,,,,。
昼間の興奮が、まだ醒めやらぬ?様子。(まったく、奇妙な話だが。)
具体的には、希望的観測の予想プロセスが永久ループとなり、無数の試算値が。、
CPUのロードが減らず、発熱が収まらない...という。
(みなさんも、経験、おありでしょう?)
幾つものシチュエイションを夢想し、浮かんでは消え、浮かんでは消え....。
humanoidは、電気羊の夢を見てはいないようであった。
ぜんまい仕掛の時計が、真鍮のベルを複数回鳴らす。
やがて、その音を聞きながら、静かに眠りに落ちるmilleであった...。
......おやすみ...なさい...ひろゆきさん.....。
・
・
・
・
・
長瀬は、研究室にこもり、思考に耽る。
それもいつものことだが、
今日はいつもとは少し....違っていた。
なにやら、深く考え込んでいる。
思考が錯綜。
.......milleは機械だ。私の作った。しかし..
.......その、機械に、私は.......
.......私は、間違いを犯しているのか?......
.......機械は、ヒトを超えたのか?..........
なにがなんだか、判らない。
こんなことは、初めてだ。
自分で作った、プログラムが、自分の、心を捉えている?
しかも、母親のように。
長瀬は、自分の研究成果が予想以上であることに驚き、
しかし、その自律システムが持つ危険性を感じ取っていた。
ヒトと機械の、境界。
それの曖昧化。
まあ、それは無理もないことで。
milleほどではないにしても、人間に似た格好の物体が、話し掛けると返事をしたり、
「考え」たりし、答えやアドヴァイスをくれるような状況は、
情報交流という観点からは、擬似人格といえる(やや乱暴だが)。
こうなると、ヒトか機械か。
なんていう対比は、被験体の感覚に左右されてしまう。
ヒトとは何か。
生命とは何か。
そして、「生きる」とは....。
科学的には、生命体という存在は「自律して存続し自己増殖し、
エネルギー代謝を行う」
と、言う必要条件があることはある。
この条件では、milleは生命体にきわめて近いのだが....。
20世紀的には、マン=マシンの問題がユニークな人たちを作った。
「カー・マニア。」
自動車を愛しすぎた男たち。
かの、Michelle-D=Nostradamsは、『Carro-Maniac』と予言して、
王妃を喜ばせたとか....。
(carroには、“密室の色事”という変意がある...。^^; )
機械がレスポンスし、コマンドとの連携でヒトは関係性を「愉しむ。」
「コンピュータ・マニア。」
コンピュータに耽溺し、実社会を拒絶するひとたち。
頭の悪い評論家は「世紀末現象」なんて見当違いの分類をしたり。
機械がレスポンスし、コマンドとの連携でヒトは関係性を「歓ぶ。」
すべて、この「ヒト=機械」の関係性の問題である。
対象はなんであっても良いのである。
愛という名の幻想は、自分の中にあるのだから....。
機械などというものは、脳の創造した「夢」の産物である。
そして....現在。
夢は、終に聖母を、誕生させてしまったに違いない.......。
しかし.....。
「!」
ふと、長瀬は気付く、
.....あの、少年は、まだ気付いていない。
だが、いつか、そのうちに........。
「..........。」苦慮する長瀬。
「....やはり、そうするか....。」
ここへの帰路、考えていた帰結にやはり到達し、
そのことで長瀬はやや満足げだ。
矛盾するようだが、科学者というものはいつもそうした解離的な部分がある。
それでなくては、客観性が保てないからだが、
「職業病」だろうか?
点けたままなっているコンピュータに向かい、
# cd /dev
# ls -R
..
..
..
..
#vi
i
..
..
おもむろに、ディヴァイス・ファイルを書き始める....。
その行為は、一見、普遍的な行動のように見えた。
CRTの薄明かりが、研究室には不釣りあいな物体を映し出す。
木枠の、写真立て。
長瀬が、どこからか引き出したのであろう。
変色した写真には、青年長瀬と、もうひとりの存在が....ぼんやりと。
・
・
「愛」。
「攻撃」。
「心」。
「想い」。
そして「恋」。
それぞれの行動プログラムを載せて、
それぞれに、今日もデイト・カウントは加算されて行く.....。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
そして、新しい夜明けがやってくる。
今朝は、東の空を紫に染めて、太陽が顔を出す。
冬らしく、冷えきった朝。
「いってきまぁーす!」
「ああ、きをつけてな。」
「はぁーい!」
普通の親子のように、挨拶を交わし、今日も普通の朝が来る。
吐息?も白く。冬服にオーヴァー・コートで、milleは学校へ。
研究所の中庭を、駆け抜けて.....。
「わ、、、わわわぁ〜.....!」
経験したことのない足元の感覚。
姿勢制御システムは、未経験な加速度情報を計上。
地面の摩擦係数が、極端に低い様子だ。
重心を移動させ、リカヴァリを図る。だが...間に合わない。
鈍い衝撃。
異質な感触。
「あぅ〜....」
地面に座り込んだような姿勢で、停止。
どうやら、大事には至らなかったようだ。
「....?」
地面を見る。
特殊樹脂舗装の、研究所の中庭。
昨夜の冷えこみで、結露した水分が凝結したようだ。
「mille!大丈夫か!」
長瀬が飛んでくる。
「あ、そこ、あぶない!」mille、叫ぶ!だが....。
「うぁあっ!」
予想通り。
無様に転倒した長瀬。
のびたまま、動かない。
駆け寄る、mille。
「た、大変。だ、だいじょうぶ?...ですか?」
眼鏡の飛んだ長瀬の顔が、汚れて。奇妙にユーモラス。
こんな長瀬は見たことが無い。
縁の下から出てきた野良猫のようだ。
「...ppp..」笑いを、こらえる....が、抑えきれずに。mille。
「ご、ごめんなさい....でも、....よかった..無事で..。」
呆然としていた、長瀬も。つられて笑い出す。
二人の笑い声、無機的な研究所に響く。
所員達は、何事か?と怪訝そうに。遠巻きで。
「博士が、笑ったぞ...。」「........。」
長瀬は、笑いながら思った。
....こんなに笑ったのは、何年ぶりだろう.....。
そして、目前で笑っている「愛娘」の存在を、心からいとおしく思うのだった。
ふたりの頭上に、空からの贈り物。
snow flake。ひらひらと。
ブルー・グレイの彼方から。
空が砕けて、舞い降りる.....。
「あ!」mille。気付き、立ちあがる。
落下する雪片を、てのひらですくうように。
「,,,これが、雪!なんですね!」
初めて見る。
美しい、結晶。
てのひらで、静かに溶けて、水玉に。
それを、瞳輝かせ、じっとみているmille。
長瀬は、その情景に目を細める.....。
そして、守護せなばならない、と、強く思うのであった。
「父」として。
・
・
・
・
・
・
・
・
雪の舞い降りる様子。
初めて見る者には、空から固体が落ちてくる。という状況に、
妙に感銘を受けたりもするのだけど。
(僕なども、そうでしたが。)
やがて、白一色の統一感が、なにか、凛とした感覚を生んだりもする。
humanoidが、そうした情操を持ち合わせているかどうか定かではない。
ただ、歩行が困難である、という事は確かなようで、
何度か転倒しかかり、どうにかLRTに乗車できた頃にはすっかり「遅刻」は
確実な時であった....。
LRTは、やや混んでいる。
それでも、ほぼ始発駅にちかい研究所付近からなので、着席することはできた。
VVVF-Inverterのハーモニック・メロディが変化し、LRTは力強く加速。
次駅に近づく。
回生ブレーキがかかり、滑らかなマイナス加速度で停止し、
マグネチック・カプラが解放され、音も無くスライド・ドアが開く。
忙しげに、通勤客が何人か。
整髪料の匂い、香水、煙草、新聞のインクの匂い....
それらが混沌と、「平日の朝」を形成している。
最後になって、70歳くらいの婦人がゆっくりとステップを登ろうと。
LRTとはいえど、地面との段差は数cmあり、
この数cmが大きい壁となる場合もある。
この婦人の場合のように。
筋力の低下、視力の衰え、視野の狭窄、膝関節等の老化...。
それらによって。
窓の外を見ていたmilleは、この状況に気付き、席を立つ。
同時にドアが閉じ、LRTは加速を行おうと。
誘導制御システムには、乗客の類別までは、出来ないのだ....。
人間の運転手がいれば、着席するまでは発車しないところではあるのだが、
しかし....。
スタート・ノッチが入り、加速モードになったLRTは、
VVVF-Inverterのノイズが高まる。
と、同時に強い加速G。
婦人は、手すりで体をささえきれない。
転倒しかかる....が。
その背中を...そっと支えた細い腕。
「ゃぁ...ありがとう..おじょうさん...。」安堵の表情。婦人。
「だいじょうぶですか?おけが、ありませんか?」足元を確認し
さっきまでの自席に誘導。
無事、着席させる。
「ほんとうに..たすかりました....ありがとう...。」
婦人は、何度もお辞儀をする。
「おけが、なくてよかったですね。」微笑むmille。柔和に。
誰かのために、何かができた!
そのことが、嬉しかった彼女であった....
やがて、LRTは学校のそばの停留所に近づく。
「じゃ、私、ここですから。おりるときも気をつけてください。」
鞄を持ち、下車しようとする。
「..あ、これ、わたしが焼いたのよ.。」婦人。
小さな紙包みに、スコーンがふたつ。
「あ、いいえ、そんなぁ....。」
発車予告のチャイム。
包みを、手に持たされて、mille。
「もってって、えんりょしないで。」
「それじゃ、いただきます!ありがとうございます。」
軽やかに、ステップを降り、ペイヴメントに駆け下りる..。
「あ、あゎゎゎ....〜...。」雪が降っていたのを忘れていた。
転びそうになるも、どうにか。
LRTは、スムーズに加速を始める。
2次曲面の、サイド・グラスの向こうで、さっきの婦人が手を振っていた....。
手を振り返す。「さよぉならぁ...。」
にこやかに、婦人は微笑みを。
LRTは、雪化粧して、なんだか西洋菓子のよう。
mille、紙包みのスコーンを、ほんの少し。
指でちぎって。
ミルクと、バターの自然な甘さ。
風味が、やわらかにひろがる。
どこまでも続く草原.....。
穏やかな陽射し....。
牛が、のんびりとお昼寝。
そんな風景。思い浮かべて。
ちょっと、しあわせな気分。
さっきの婦人の、優しさがつたわってくる。
「...ありがとう...。」
心でつぶやく、milleであった。
「なにやってんだ...。」
彼女の背後より、声。
「あ、ひろゆきさん、おはようございます!」
「ああ、おはよう。おまえも遅刻か?mille。」
「そうなんですぅ。今朝、転んじゃって...。出掛けに..え、遅刻?」
「そーだよ、もう一限はじまってるぜ、とっくに。」
「ったたいへん!..行かなくちゃ、ひろゆきさん!」
「俺は、いーんだよ。一限はサボりだな。」
「じゃあ、わたし、失礼しますッ!。」焦って,,,,、
「ああ、気を付け....あッ!」
milleの姿勢制御システムは、位置エネルギポテンシャルが、
運動エネルギに変換される
情報を検知していた。
F=mgh m ↓g=9.8m/s2
|
|
h=1.4 h=1.4m
h=1.3 |
h=1.2...... |
加速度が増加し、急速に位置エネルギが低下する。
地球の重力加速度が、支配的に。
およそ(t)秒後には、地面に到達するであろう、と推察された。
F=ma v1 m F=m(gh)
↓ ↓
v2=v1+at ↓
v2
.....?....。
姿勢制御システムは、マイナスの加速度を検知し、
運動エネルギが置換されること
を確認した...。
「あ、あれ?」
「ほら、危ないなあ。
milleは、浩之に支えられ、どうにか転倒を免れた。
「.....。」なんとなく、安心...な、
....おとうさん、と、同じ匂い....。
「ほら、ちゃんと立てよ。」
「あ、す、すみませんっ!」
ぱっと離れる。
.....ひろゆきさん、の、腕の中で、私.....。
つい、数秒前の状況を思い出し、過熱気味になる。
....はずかし...。
「あ、あのぅ、失礼しますっ!」頬を赤らめて。
「あ、おい、また転ぶぞ!...なんだ、あいつ....(?)。」
滑りながら走り去る彼女の後ろ姿を見ながら。
訳のわからない?浩之であった。
早足で駆けながら、彼女は思う。
....どうしちゃったんだろ、わたし.....。
....なんか、不自然。
....そばにいるだけで、こわれそう....。
「恋」という言葉の意味を、
またひとつ実感している、milleであった。
誰しも経験するであろう、"Love step"を、またひとつ....。
冷たいはずの冬の大気が、爽やかに頬を撫でてゆく。
粉雪で、シルキィ・ホワイト。
wonderful-moment。
・
・
・
・
・
例によって、その日も一日、上の空......。
まあしかし、美しい?友情と思いやりに支えられて、
今日も無事、放課後を迎えられたmilleであった。
帰路に就くべく、階段を下る。
未だ、粉雪がちらほらと。
踊り場の、明かり取りの窓が曇っている。
曇り硝子に、小さな指で一筆書き.....。
「あ、おい、mille。」
突然、浩之の声。
「は、はいっ!」慌てて硝子を拭い、振り向く。
「なにやってんだ?」硝子に近づく、浩之。
「っな、なんでもありませんっ!」後ろ手で、間にはいるmille。
浩之、相変わらず間の抜けた表情で。
「ふ〜ん、まあいいか。一緒に帰ろうぜ。」
「はい!」にっこり。
階段を降りる、浩之。
後に続き、下ろうとして....ふりかえるmille。
曇った硝子に、滴る水滴。
雪の景色が、ぼんやりと....
「mille。」
「あ、はい。」
ゴム底のちいさな上履きの音が、ぺたぺたと響いた。
・
・
・
雪道を歩くのにも、幾分慣れてきた。
さくさくと、小気味よい音。
milleは、少しうつむいたまま。
浩之の側に。
ふたり、歩いている。
「今日は、あかりさんは..。」
「ああ、あいつは、クラブだってさ。」
「そう、ですか。」
「なんだ、どうかしたか、元気ないな。」
「い...え...。」言えるはずもない。理由を...。
「なあ、日曜だけどさ。」
「!」
緊張。
.....だめなの?
.....それとも。
.....????。
また、予測値を、算出し始め、負荷が高まる。
「朝10時、でいいよな。駅前。」
言葉は、電流のように駆け巡る。
「はい!」見上げて、にっこりと。頬、うすももいろに。
浩之も、その愛らしさに、笑みを返す。
粉雪は、細雪となり、
ヴェールのように、ふたりをつつむ.....。
ずっと、このまま、歩きつづけたい....。
milleは、火照った頬に、寒風を心地よく感じながら、そう夢想した。
雪と一緒に、「想い」が降り積もる....。
さらり、さらさら、さらさらり.....。
・
・
・
・
・
・
・
「ただいま、おとうさん。」
「やあ、おかえり。」
いつものような、“親子”の会話、弾む。
ここが研究所とは思えない雰囲気。
「それでね、ひろゆきさんがね...。」
恋する彼女は、楽しげに、「彼」を語る。
彼女の瞳に映る、「父」は、どこか寂しげだ..。
「そうか、気をつけるんだぞ。mille。」
「はぁい!」
今にも歌い出しそうに、彼女は軽い足取りで、ドアを開く。
「お父さん、無理しないでね。」
「ああ。」
静かに、ドアが閉じる。
「.......。」
・
・
・
さて......。
良く晴れた日曜。
澄んだ空気は未だ冷たいが、どことなく春の香りを感じさせる。
「いってきまーす!!」
「..ああ、気をつけてな。」
今日はいちだんと元気だ。
その、背中を複雑な思いで見送る、長瀬。
父としての不安、もう一つの「心配」......。
・
・
・
・
駅前の雑踏。
「彼」を待つキモチ。
ショー・ウィンドゥに映る、自分。
ちょっと、にっこり。微笑んでみる。
休日の、街の雰囲気。
今日は、とっても、すてきな気分。
コーデュロイの、coverall。
フードのついた、ダウン・パーカ。
ちょっといなたい、このセンス。
他でもない「父」の見立てである...。
やがて、スニーカーを引き摺りながら、「彼」はやってきた.....。
・
・
・
・
・
そんな、普遍的な情景ですら、彼女には特別な意味を含んで。
目に映る、すべてが、やさしいMessage....。
「おはようございます!」(^^)
「ああ..おはよ。」(^^)
少年も、ちょっとだけ、照れぎみ....。
まっすぐに見つめる、彼女の瞳がまぶしくて。
「....あ、どこにいこう?いきたい所、あるか?」
「あ、あまり、おでかけしたこと、なくて....。」
「そうか、それじゃ、amuzement-parkなんて、どうだ?
なんでも、あるぞ。」
「はい!」
「よし、決まり。それじゃ、地下鉄にのらないとな。」
「...ちかてつ?」
「ああ、そう。乗ったことないのか?」
「はい.....。」
「じゃ、はじめてづくしだな、きょうは。」
「....は..い。」
ふたりは、エスカレーターに乗りながら。
大深度地下へ。
カプセルのようなプラットフォームには、あっという間に到着。
数分後、あひるのくちばしのような流線ノーズをあらわし、subwayが。
プラットフォーム・ドアが開き、続いて車両のドアが開く。
エア・サスペンションが、ゆらゆらとbodyをゆらす....。
・
・
・
・
Subwayは、音もなく走り続けている。
いや、超電導磁気浮動軌条なので、音がするはずもないのだが。
郊外の、アミューズメント・パークへ。
Linear-Motorが、着実に歩み?を進めている。
やがて、磁気回生制動がかかり、Subwayは、“着陸”し、
ゴムタイアの唸りが、暗いトンネルに響く。
なめらかに、停止。
強い2次曲面の、スライド・ドアが解放され、同時にプラットフォーム・ドアが開く。
最近の地下鉄は、様々な理由から、こうした閉構造が取られている。
地上へ。
地下に慣れていると、太陽の光はとても眩しく感じる。
ヒトの感覚受容システムが、いかに柔軟性があるか、という証明でもある。
「五感」といわれるこの機能。
環境に馴染みやすい理由は、他ならぬ外敵の検出のためである。
雰囲環境に反応していては、外敵の存在が際立ちにくい。
そこで、スレッショルド・レヴェルが自動追尾する、という訳だ。
普通、humanoidの機能では、photo-senserの入力dynamic-range絶対値比較によって
それを弁別するシステムだが、これもヒトの機能からのfeed-backである。
「ヒト」は環境がプログラムし、
「機械」はヒトがプログラムする。
・
・
・
ここの駅は、地上駅舎がそのままアミューズメント・パークの入り口になっている。
ゲートを越えると、そこは異空間。
「遊ぶ」という目的の、様々なアトラクションが並んでいる。
「わあ.......。」
巨大なおもちゃ箱のような、このplaceを初めて見る彼女は、
sparkling-wineに酔っているかのような表情だ。
もちろん、ヒトに喩えれば、の話だが。
プラズマ・ヴィジョンの案内板。
たくさんのアトラクション。
......Space Fantasy....
......Virtuarl-Reallity At.
......
......
......Snow Amuzement Space ....
......
「えっ、スキー?」
「最近さ、やってみたくてさ、あれ。
ほら、エア・カーヴィングとかさ、カッコイイだろ、空飛んで。」
「...わたし、運動苦手なんですぅ...。」
「だいじょうぶ、教えてやるさ、ほら。」
鉄骨がむき出しの、人工ゲレンデが見えてきた。
外から見ると、恐竜のようにも見える。
運動制御が少し苦手な彼女としては、文字どおり「怪物」
.....のような印象であったかもしれない。
エア・カーテンをくぐり、エントランスの中へ。
残響の長さが、空間の広さを望ませる。
人工ゲレンデの中は、思いのほか広かった。
カクテル光線が散光し、romantic,moody.
拷問の器具のようなスキーブーツをつけると、歩くことすら困難だ。
空から降ってくる「雪」よりもやや固い感じの「雪」の上に立つ。
「さあ、いくぞぉ。」
浩之は、最新式のスキーを試したくて、うずうずしている。
一方の、milleは、というと、、、、。
「あ、あわわわわ、わっ、と。」
勝手に動き出してしまうスキーの扱いに苦心している。
「ほら、mille、こう、スキーを斜めに開くんだ。」
「...こう、ですか...?」
“ハ”の字型に開き、斜面に正対する。
いわゆる、プルーク・スタンスという古典。しかし基本的な姿勢である。
だが....。
斜め向きに、動き始めてしまう。ずるずると。
双脚への荷重が平均でないためである。
勢いのついたスキーは、加速度を増しつづける。
F=μmghsinθ
のような基本的物理法則に従って。
摩擦係数の極端に低いこの状況では、Forceは飛躍的な数値になる。
もっとも、それを目的としているのであるから当然だが。
「お、おちるぅ〜う.....。」
「mille、危ない!」
浩之は、スタンディング・ポーズを取ると、勢いよく右足を蹴った。
左足に全体重をかけ、直滑降姿勢。
次いで、右足に体重移動し、左足を斜めに蹴る。
シザーズ・スタンス・アクセレーション。
結構、運動は得意な浩之である。
瞬く間に速度は増し、直ぐに追いつく、キャニオンサイドより、抱きかかえる....が。
二人のスキー同士が絡む。
バランスが保てす、インサイド・エッジを立てるが、速度がありすぎ、停止できない。
.......転倒。
キャニオンサイドに放り出され、頭から仰向けに。浩之。
milleは...。
・
・
・
・
・
......あ...れ...?
....わたし...どうしたんだろ?
転倒時の衝撃で、一時的にfail-safeが効いていたようだ。
記憶が一時、欠落している。
......そうだわ、スキーに来ていて.....。
雰囲環境を認識始める。
異次元のソフトな感触。
?
Photo-sensorは作動し、
Charge-coupled-deviceが、情報を送り始める.....と、
目前に、ヒトの顔。
「!!」
浩之の上におおいかぶさっている自分!。
に、気付く。
「た。大変!ひろゆきさん!ひろゆきさん!」
外れたスキー板をストラップで引き摺りながらも、milleは浩之を気遣う。
「お.....お、無事か、怪我ないか?mille。」
「わたしは..大丈夫..です、すみません、ほ..んとうに....。」
そういいながらも、涙が伝い、浩之の頬に落ちる。
「...m....。」
「あ、ごめんなさい。」「あ、おい....どこか痛くしたのか?」
「そう...じゃ..ないんです...申し訳なくて、私...。」
涙をいっぱいにためた、碧の瞳が、カクテル光線に彩られ、きらきらと。
それは、この世のどんな宝石よりも、美しい輝きを放っていたように思えた。
「mille....。」
「...はい..?」
milleは、浩之のみみもとに....近づく。
「好き、だぜ。」
「!」
浩之を見つめる、瞳。
真っ直ぐに。
大粒の涙、ぽろぽろと。
浩之の頬に。
「あ....ごめんなさい....。」
木綿のハンカチーフで、それを拭おうとする。手に、...浩之の手が。
「あ......。」
flushin'!
閃光のように。
field-memoryに記憶される空間。
記憶の、時間.......。
"Love Notes" って、こんな音.....。なの?
・
・
・
・
・
「おい、もう泣くなって、大丈夫か?本当に?」
「....そうじゃないんです...ただ..私....。」
....うれしくて.....。
,,,の、ひとことが...い.え.ない.......
ゲレンデを滑走するスキーヤーたちが、カーヴィング・ターンで雪煙をあげてゆく。
snow-flake 、カクテル・ライトで虹色に。
きらきら輝く、Diamond-dust。
いちばん、綺麗な、いちばん、尊い。
世界中の、なによりも。
そんな気持ちで.....恋をおぼえる彼女であった。
"Love Notes" 、こころのなかに。
いつまでも。ふたり.....。
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