カクヨムコン 2021

足袋旅

1題目 【おうち時間】 例え世界が変わっても

 202X 世界はパンデミックの恐怖に包まれた。


 とある国の研究機関からウイルス兵器が漏れ出したのは去年の事。

 実験用のネズミが逃げ出して、そいつが手当たり次第に噛みつきまくって感染爆発したらしい。ゲームかっての。


 感染者は嘔吐、発熱、咳、頭痛、倦怠感等のインフルエンザのような症状を発症し、感染から翌日には心拍を極限まで低下させる。まるで死亡したような状態に陥る。

 そこから病原体は体内で繁殖し、脳へと転移し蝕む。

 次に起こるのは異常なまでの心拍上昇と活動再開。

 まるで死体が起き上がるかの如く、初めは鈍い動きから次第に活発に周囲を徘徊するようになる。

 もうその時には感染者に意識は無く、ウイルスはひたすらに宿主と自らを活かすためにエネルギーの補充を求め、食料となるものを見境なく喰らうようになる。

 生きている人さえがその食指の向かう先となり、その有り様はゾンビが如きものだった。そのまま噛みついたものを食い尽くすなら感染が広まらないだろうけど、そこは兵器なだけあって生物に噛みついたらそうはしない。仲間を増やしていくわけだ。

 

 当然のようにインフルエンザとは違うウイルスの為、既存のワクチンは効かない。

 

 瞬く間に広まったウイルス兵器への対策として、国々は各自の政策をるも止まらぬ感染に社会はそして人類は大きなダメージを負っていく。

 どの国のワクチン研究も遅々として進まず、感染者の増大と共に社会機能は停滞。

 ライフラインにも支障をきたし、人々の生活は変化を求められていくこととなる。




 今日も報道番組はウイルス兵器の話題でもちきりだ。

 つまらないからリモコンの入力切替ボタンを押し、ゲーム用の画面に変えた。

 昨日の深夜までやっていたゲームをポーズして放置していたため、すぐに解除して続きを楽しむ。

 こんなに呑気に過ごしていいのかって?

 いいんだよ。

 日本は他国に比べて感染が抑えられているし。

 日本人の習性ともいうべき集団意識、島国という立地、そして自衛隊や警察官の方々のおかげである。

 それと俺が暮らすのが地方だからっていうのも大きい。

 都市部に行けばそれこそ緊急事態宣言だロックダウンだとかで厳しい締め付けが行われているからな。

 地方は外出を自粛しましょう、おうち時間で感染予防をしようって呼びかけだけ。

 感染者に噛まれたりとか、感染者の体液もしくは体液が付着したものが身体に入らない限りは感染しないのは幸いなところだな。

 そんなわけで俺は今日もゲームをして、飽きたらアニメを見るし、漫画や小説だって読む。

 世界が劇的に変わっても、寝て、起きて、ご飯を食べて、遊んだり仕事をしたり、そしてまた寝るだけの生活を続けていられる。

 日本万歳ってなもんだ。



 数か月後


 いやー、ウイルス兵器舐めてたわ。

 1回広まると駄目だね、ありゃ。

 海外はいいよ。銃社会のところはさ。だって自衛手段があるんだから。

 遠距離からズドンで感染者倒せりゃそりゃ安全よ。

 でも日本ときたら銃を持ってるのなんてほんの一部じゃん。

 一般人が襲われたら近接攻撃か逃げるかの二択しかないわけ。

 でも感染者。あれテレビで見た映像だと超はえーの。

 意識なんてないから、身体のリミッターぶっ壊れてて立体軌道か!ってな動きするわけ。高速移動するタイプのゾンビって現実だとマジ怖いわ。

 だから実質近接攻撃一択になるんだけど、一般人に勝てるわけがない。

 ここまでは人型感染者の話。

 問題は虫ね。虫。

 あれは無理よ。ゲームみたいに大型化するなら分かりやすいけどそんなことないんだ。気付かないうちに噛まれて感染とかざらにある。

 てなわけで、日本ももうヤバくなった。


 んであれね。警察と軍隊はどうなったかって話。

 警察はまあ頑張ったと思うよ。

 でも民間に近いからさ、内部から感染者が出るわ拳銃じゃ感染者が速いから対処が難しいわで残念ながら頼りには出来なくなった。

 自衛隊は持ってる武器の性能が良いから今も戦ってる。

 防護服を着て戦ってる映像をニュースで見た。

 でも民間人を守るために固まると、もしも感染が広まったら危ないからって部隊を分けて適宜行動してるって感じらしい。俺が住んでるところには来てないから分からないけど。

 来てないってことは平和かっていえば決してイエスとは言えない。

 だって今やどこに行ったって感染者はいるんだから。

 比較的少ないから救援が来てないってだけ。

 ってなことをポテチ食って小説を読みながら俺は考えてたりするわけ。

 いやー、働かなくていいって素晴らしいわ。おうち時間最高。

 感染?怖いよ?でも家を要塞化して食料を備蓄してる俺には関係ないぜ!

 親に感謝だわー。

 ローンを組んで一軒家を買ったから定年まで頑張らないとって言ってた親父に感謝。 

 感染病が流行ってるからって食料備蓄してくれた母さんに感謝。

 感染しちゃって家と食料を独り占めさせてくれた両親に感謝です。

 まさか母さんが感染するとはなー。

 母さんが青白い顔で具合悪そうに、「私感染したかも」とか言ってきたときはビビった。

 父さんはどうしたらいいのかと慌てるだけ。そのうちに母さんは気を失うように倒れ寝込んだ。本当に死んでいるようだった。

 俺は納屋からスコップを持って来て、母さんの首に振り下ろして首を切断した。

 こうするのが一番だって知ってたから。でも父さんは一仕事終えた俺に掴みかかって来て怒鳴り散らした。


「なんで母さんを殺した」「お前には家族愛がないのか」「この引きこもりが」


 エトセトラエトセトラ。

 誰がひきこもりだ。俺は出不精なだけだ。仕事だってしてたんだぞ。

 うるさいし、ムカついたから持ってたスコップで殴った。

 あー、やっちゃったなぁとか考えながら、俺はこの後が面倒だと思って父さんに止めを刺した。

 両手を合わせて南無南無。


 何?俺がカスでクズで人でなしだって?

 そんなこと言ってたら今の世の中生きていけないよ。

 現実を見なって。

 自衛意識が低い奴らから感染してる。

 自分を守るためには必要なことだったの。

 さて今日は何をして過ごそうか。

 電力問題とか出てきそうだし、今のうちにゲームをやり込んでおくか、アニメでも見ようかなっと。



 数週間後


 やべー。

 飯がもうなくなりそう。

 母さんってばもっと買い込んでおけよなー。

 どうすっかなぁ。

 外出る?それしかないんよな。

 営業は流石にしてないだろうけど、近くのスーパーに行くか。まだ食料残っていろよ。出来ればお菓子があってくれ。

 あと本屋にも行こう。

 暇をつぶせるものは大事。

 うっし、とりあえず装備固めて、武器は…スコップしかないか。実績あるからまだいいけど、主武器がスコップって格好付かねえな。主人公ではないわ。勇者でも出てきて助けて欲しいもんだ。

 あとはでかいリュックがあればいいか。

 よーし!冒険の始まりだ。

 帰って来たら俺、風呂に入って漫画読むんだ。

 結婚じゃないし死亡フラグじゃありまんよーっと。

 板張りした自室と玄関のドアを開けて外に出た。

 久しぶりの外はいやに眩しく感じた。

 

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