第3話
「ところで、俺の会社は?」
色々な事が起こりすぎて、頭が回っていなかったが、変身のあったその日は大事な商談があったはずだ。
「大丈夫大丈夫、私が全部上手くやったから。あと、親御さんにも許可を取ったから大丈夫」
栞は上機嫌だった。
「何が大丈夫なのか教えろよ!」
俺が強く尋ねると、栞は改まって答えた。
「会社は退社になりました。ご家族には私が養うと伝えましたので、何も気にせずにいて大丈夫です」
流石に横暴だと思ったので、「いや、勝手に何してるんだよ!」と怒鳴ったが、流石に人間とドラゴンでは威勢が違う。栞はうっとりしたような顔で俺を見つめると、暴れる俺を無視して抱きしめた。
「外には怖いドラゴンが多いけど、私が絶対に守るから」
勝手に感傷に浸っている。
「怖いドラゴンって何なの!?」
彼女の胸の中で暴れながら叫ぶと、「そりゃぁ、ヒトナーとか、実験台に使いたい奴とか、研究の成果にしたい奴とか……」と答える。
ひょっとしてこのドラゴン、自分で全部が当てはまっているのではないか?
戦慄したが、しかし、現状、頼れそうなのは栞と涼の二匹ぐらいであった。
確かに怖い目には遭っている。
ある日、栞が席を外した時、学生らしいドラゴンに「准教授が呼んでいる」と言われて誘拐されかけたことがある。
その時は、栞の研究室の学生が見掛けて、警備員を呼び出しての大騒ぎになったぐらいだ。
犯人の指示者はゴロツキであったが、その先にどのようなドラゴンがいたのかは不明なままであった。
それ以来、栞は私とべったりで、空を飛ぶことがめっきりなくなったようだ。
ドラゴンと言えば空を飛ぶ生き物であるが、疲れる事や服が皺くちゃになる事、荷物が運べない事などを嫌って、近頃は自動車も列車も飛行機も使われるようになった。
それに、ドラゴンが都市を造り生活するようになると、空もめっきり狭くなってしまう。
結果として、五キロメートル以上の飛行はフライトプランを提出するように求められるようになった。
こういう現状に嘆くドラゴンは少なくないが、ドラゴンが増えすぎてしまった今、後退することは出来ないのだ。
そういう訳で、今日は栞の授業を学生に混ざって見学することになった。
今まで関わりのなかった学生達が、好奇の目を向けてくる。
人間学部なのだから、人間の姿に興味があるのは当然か。
人間学はややマイナーな研究である。
当世に於いて、我が国で積極的に研究しているのは当大学のみで、大きく研究は進んでいない。
世界的にも研究が進まないのは、我々ドラゴンの歴史によるところが大きい。
人類がどういう事情で滅びたのか、詳しい事情は未だに判明していないが、彼等の文明的痕跡が悉く破壊されてしまっているところを見るに、戦争によるものだと言うのが、従来からの一般的な説である。
我々がこの地上に現われたのは、その頃である。
伝説では、神が地上に使わした事になっているが、近年の遺伝子研究によると、人工的に我々の遺伝子は"作られた"事が判明している。
実際、それ以前に我々につながり得る生物の痕跡は存在していない。
なので、恐らく、人間が我々を作り出したのは間違いないようだ。
この当時、どのような啓示があったのかは分からないが、それ以降、八千年ほど、我々ドラゴンは、地上から人類の痕跡を消す努力を続けてきたのは周知の事実である。
ドラゴンが地上に降り立った当時から、我々は宗教を持ち、農耕牧畜を始めていた。これは遺跡を調べればすぐに分かる事だ。一番早い時期は我が国であったことも判明している。
さて、この智恵はどこからもたらされたのだろうか?
突然、天才的なドラゴンが現われた可能性は否めないが、そのドラゴンが各地のドラゴンに伝え広めるのに、五百年と掛かっていない。ドラゴンの平均寿命が当時でも三百歳程度であった事を考えると、これは驚くべきスピードである。
これは私の支持する学説の一つであるが、始祖のドラゴンの知識は、人類に負うところが大きかったのではないだろうか?
人類の影響は非常に大きかったのではなかろうか?
非常に魅力的な説明になります。
さて、皆さんが人類に対して持っている興味は、恐らく、龍田家に伝わる水晶板に寄るところが多いと思われます。
このコイン大の板は、水晶中に微細なクラックを与える事によって情報を保存してあります。
そこには多くの書物と絵画、映像が収録されていました。
今から十年前に解読が完了して一般公開されましたね。
さて、これを見てこの学部を選んだ方は手を挙げて。
学生の殆どが手を挙げた。
円盤の中の芸術作品は、人類は戦争で滅びた愚かな種族と言う定説を覆し、豊かで情緒ある人たちだったと言う事を物語ります。
人類を研究することは、我々がドラゴンである事を外側から観察する視野を与えてくれると信じております。
因みに円盤のデータの半分ほどは、不可読領域となっており、現在も解読が進められております。
もしかしたら、皆さんがその謎を明かす日が来るかも知れませんね。
彼女の授業を見てみると、ただの人間好きの変態と言う訳でもないのかなと思えてくるのだ。
だけれど、彼女も家に帰ると、「可愛い!」とぎゅっと抱きしめてくるので、複雑な気持ちになるばかりだ。
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