第2話

※ドラゴンの世界では、日本語に似た言葉が使われておりますが、主人公とか犯人とかそういう言葉の"人"はドラゴンを意味する言葉に置き換えられています。またにんべんを伴う感じもそれらしい字に置き換わっております。



 ああ、まさか、憧れの"人間"が目の前に現われるだなんて思わなかった。

 鱗のないすべすべとした肌。柔らかい胸やお尻。翼のない背中。

 小さい身体に、弱々しい腕や足。鋭さのない爪。

 平たい顔に牙のない歯。くりくりした眼。角のない頭。

 全てが可愛く、慈しみを感じる。何処までも守ってあげたくなる!


 私がヒトナーを拗らせたのは幼稚園児の頃だ。その時期にやっていたファンタジーアニメに人間のキャラクターにド嵌りしたのだ。

 ただただ、可愛くか弱く全く非力であったが、仲間達をまとめる魅力ある人物であった。

 これが戦争で滅びた(と言われている)人類に対する皮肉だと知るのは、随分後の話だ。

 しかし、その歳の自分には、本当に可愛くて抱きしめたいと言う気持ちしか起こらなかった。


 勿論、今でもそうだが、ヒトナーと言うのは一般的に公言しにくい趣味である。

 それでも、イラストや漫画を集める日々や、ヒトナーを集めたイベントに参加するなど充実はしている。

 ヒトナーの中には、人型をデフォルメしたキャラクターの着ぐるみを着るドラゴンもいる。

 確かに可愛いが、それを可愛いと感じるのもヒトナーぐらいなのだろう……


 この前、酷い目に遭った。ヒトナー垂涎のアニメと言われたのが、短いマズルでヒトミミが付いたドラゴンだったのだ。随分とガッカリした。

 だが、ヒトナーの中にはそれぐらいがちょうどいいと言うドラゴンもいるし、なんなら設定上人間の血が流れていると言う微妙な設定のお話しが好物と言うドラゴンもいる。

 ヒトナーの中も複雑なのだ。


 私はと言うと、ヒトナーとしては割と過激派なんだろう。

 まさに、この子のような正真正銘の人間の形をしたキャラクターしか認めなかった。

 そこまでするヒトナーは少ないので、作品の供給量は少ない。

 そういうところが、私の人間学へと向かわせたのだ。

 十年前の"水晶板の再発見"は我々の研究を一気に忙しいものとした。

 私としては、とんでもない素材の供給に狂喜乱舞した。

 情報を整理、分類することを論文にしたぐらいだ。

 それからもう、ずっと図画や文章を読んで、人間と言うものの理解を深めている。


 彼等は、今の我々と同じような事を考え、恋をし相手を愛し、子を産み育んできた。そういう同一性は心に染みる。

 我々とて愚か者ではないだろうか? 彼等から学ぶべき事は本当に多い。

 かつては、単に可愛いと言う気持ちだけだったが、今は人類の全てを愛せそうだ。

 そして、目の前にその人間がいる。

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