第3話 お月見団子
彼がコンビニで買ったというお月見団子は、俺がさっき弁当を買う時にコンビニのレジ前で見かけたものと同じだった。実は俺もその時に一瞬買おうかと迷ったものだったので、少しもうかったとお得に感じた。
「あ、お金払った方がいいですか」
「いや、いいです。どうせヤマザキの安物ですから」
「そうですか、ごちそうさまです」
「月見バーガーじゃなくてすみません」
だからそれは口に出してない。絶対に出してない。思っただけだ。
「それ、絶対に俺、言ってないですけど」
「おかしいな、聞こえましたけど」
「いや、言ってません。思っただけ」
「思ったでしょ? すいません、俺、聞こえちゃうんですよ、少しだけど。じゃあ聞かなかったことにします」
聞こえちゃう? って何?
「何が聞こえちゃうんですか?」
「他人の思ってることが。あと一歩で口に出そうなことくらいは、耳に入ってしまうんです、許してください」
許すも何も、意味がわからない。考えてみたらこいつの顔も良く見えないし、名前も知らない。ただの通りすがりだということがわかっているだけで、俺には何も情報がない。なのに、俺の考えていることはダダ漏れなのか。
「あの、俺に何かご用ですか? ご用っていうか、前に会ったことありますか?」
気味が悪くなってきたので、とりあえず座る位置を少し離した。ほんの5センチほど離れただけだ。これ以上離れると俺がベンチから落ちる。
「特に用事もないし、初対面です。偶然同じ公園にいただけですよ」
「でも…」
「かなり怪しいですよね、俺。ごめんなさい。でも怪しい者じゃないです、この近所に住んでるただのサラリーマンです」
「いや、怪しいです。詐欺か何かですか」
「もし詐欺だとしても、わざわざ自分が詐欺師だって名乗って近付くことはしないと思いますが」
「だったら怪しい者じゃないって言ってる時点でかなり怪しくないですか? ていうかどうしてそんなにフレンドリーなんですか。俺と知り合いじゃないですよね?」
「知り合いではないですけど…」
けど、なんだ。何かあるのか。俺はかなり気味が悪い。
「お月見団子、もういいんですか?」
「いいですもう。腹一杯だし」
「じゃあ、帰りましょうか。月見しながら」
そう言って、謎の男は立ち上がる。一つ残った団子を口の中に放り込んだ。街灯の光に照らされて、やっと顔が見えてきた。やっぱり同じくらいの年格好に見える。
「はい…じゃあ、さようなら」
「え? 帰らないんですか?」
「帰りますけど。俺んちに」
「だから、どうせ同じところじゃないですか」
「は?」
同じところって何だ。
「だって、103号室の山本さんでしょ?」
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