天邪鬼
「ねぇ。これからどこに行く?」
「うーん。今日は春葉原にでも行ってみる?」
はみ出しもので、逸れ者。それが僕たちに相応しい言葉だった。特に僕の弟に限った話では、誰がどう見ても逸れ者だった。
「うろだんたしうど」
「なかごいま、よだもどこ」
「うよげあてけすた」
僕らを見てそんなことをいう人々を見て、僕はただ呼吸を荒げるだけだった。
「さぁ、もういこっか。」
「うん。」
僕を嘲笑し笑うくらいならまだいい。僕の弟を、僕の哀れで、逸れてしまった弟を、そんな目つきで見るなんてことは、例え相手が鬼であっても、僕は許さないだろう。
「すごいね!ここ!」
弟は手足をばたつかせながら、駆け回り、長い髪をなびかせた。楽しげに走る回る弟を見ていると、さっきまでのモヤモヤとした気持ちが吹き飛ぶような気持ちになる。
「おにぃちゃん!何してるの?」
「何でもないさ。」
弟は何も知らないのだ。僕が弟をどれだけ大切に思っているのか、僕たちの周りが僕たちをどれだけ存外に思っているのか、僕たちという種類がそれだけ異質なものなのか。
「おにぃちゃん…。角、とれちゃった…。」
「付け直してやるよ。」
「ありがとう!!」
弟が両手で大切そうに持っている耳くらいのサイズの硬い骨の塊。2つある。僕はその2つを弟の頭につけてやった。
「あのさ、おにぃちゃん。」
「いつまでこうしているの?」
弟が言葉を切りながら、こちらを振り返っていう。いつまで、こうする。一体何の話をしているのだろうか。もう家に帰りたいということだろうか。
「家なんてもうないじゃない。」
それじゃあ、長い髪のことだろうか。それとも角を付け直すことだろうか。
「僕の髪は短いよ?それに角なんてこんなの偽物じゃない。」
だとすれば、通りすがりの人に息を荒げることだろうか。
「むしろ通りすがりの人の息を静かにした、いや止めたじゃない。」
なんだ。あの事か。僕たちで逸れ者でいつづけるってことか。
「逸れてるのは”おに”ぃちゃんだけじゃない。」
「それに鬼ぃちゃんは、本当のお兄ちゃんじゃないし。」
弟は僕に天邪鬼と吐き捨てると、そのままどこかへ行ってしまった。
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