三章 戦闘、開始

eighteen

 赤髪の奴隷


 恥部の鋭い痛みで飛び起きる。そういう夢を見るようになった。連日続くこの悪夢は、実際にはそこまでの酷い扱いを受けていないという安心感が、反発で見せ付ける幻影のようだと思った。


 私の処遇が決まり、そんな夢見の悪さを抱えながら、一週間ほど寮舎のようなところで寝泊まりをさせられた。最低限の衣食住は提供されたが、それはそうしなければならないから、という程度の義務感によって与えられていたに違いない。


 寮舎を出て縄に引かれ付いて行った先で私に値を付けたのは、最後に競った金額の四倍を掲げ、優に競り勝った大地主だった。


 彼は女の趣味がいいと、人々は口々言い合っていた。女の趣味が良く、趣味に嵌る女であれば、幾ら出してでも競り落とすと。


 もし彼に買われなくとも、奴隷に落ちた女は、どのみち買われるまでは競りにかけられ続ける。


 神の名を呼ぶ。神よ、人は金を力と思い、あなたが世界にするように、金槌として奮っている。


 この世にまで、天国と地獄を作っている。一体どれほどの大きな天国と、一体どれほど小さな地獄があるというのだろう。


 噛み締めた奥歯が甲高い音を立てるのを、御者は聞き逃さなかった。けれど、気色の悪い甲虫を踏み付けにしたような顔をするだけで、私に救いの手を差し伸べようとはしなかった。ならば端から気遣いなど捨て置けばよいのに。


 視界に薄く赤い膜が掛けられる。視界に薄く赤い膜が。人の親指に似た蛾の幼虫が、皮膚の下に入り込んで血肉を薄く細かく食いちぎる。地に落ちた輝きを金貨かと思えば骸だった。救いは? 救いはない。人は生まれた時には何らかの罪を持っているのに、その上罪を犯すから、鞭で打たれ泥水に顔を埋めることになるのだ。


 殺す。次に顔を見たら、絶対に殺す。

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