4-6 訪問
現場に二人が戻ると、レストは満足気に笑みを浮かべていた。
「どしたん気味悪ぃ。」
シェルフが挨拶をすると、レストの顔は曇った。
「……おかえりなさい。」
「ただいま戻りましたわ。早速ですが、誰も居ない時にニヤニヤしてるのは決して良い趣味とは言えませんわね。で、ギルドで情報を得て参りました。」
カーネリアは一言苦言を刺した後、ギルドで得た情報をレストに説明した。
「じゃあ次はその人に会いに行きますか。」
「その前に。」
シェルフは歩き出そうとしたレストの服の首元を引っ張り止めた。
「ぐえ。」
「何か分かったことあるんしょ?説明しなさいよ。」
「その通りですわ。
レストは仕方なさそうに言った。
「実は先程この部屋を捜索していたら、色んな物が見つかって。その中に……と、その前に、覚えてます?カーネリアさん、僕と貴方が初めて出会った時のパーティ。」
「なんです急に。……戦士のヤリアと、魔法使いのチェインでしょう?随分とどうしようも無いといいますか、下半身で物事考える人間にしてもあそこまでの逸材は見たことが無かったので覚えておりますわ。」
「ええ。その二人。その二人から何か貰ったりはしました?」
「いいえ。金だけですわ。魔力回復用のポーションくらい下さいと言いましたが無視されました。ケチですこと。……それが何か?」
「その二人の指紋がついた物が見つかりました。」
そう言ってレストは手袋の中に握り込んだ物を見せた。その魔力回復用ポーションや、毒消し草などの雑貨類であった。
「……この部屋で、ですの?」
「はい。」
「意味わかんないんだけど。それが何かまずいの?」
「いえ、ただ、面白いな、と。」
レストはニヤリと笑みを浮かべた。二人が入ってきた時と同じように。
「だーかーらー、わかんねーって。」
「ちゃんと説明してくださいます?」
「それはまた後程。」
レストは勿体ぶった。
二人はレストに襲いかかった。
「言いなさい!!」
「勿体ぶってんじゃないわよ!!」
「言わないと貴方の童貞ここで頂きますわよ!!」
「いやそれはちょっとマズいっしょ……。」
「その前に、首、首離して下さい!!」
レストは息苦しそうに藻掻きながら叫んだ。
スオード邸から歩いて小一時間といった場所に聳えるデューレス・イーハックの家はスオードのそれとあまり変わらない外見であった。
歩いてくる途中、レストは地面をしげしげと見つめ、その度に「うーん」「ははぁ」などと声を上げていた。その姿を見てカーネリアとシェルフは言葉にするまでもなく意見の一致を見ていた。「目を合わせない様にしよう」と。
そうして辿り着いた家の前で、カーネリアは漸く目を合わせて口を開いた。
「さて、後はここで確認が取れればよろしいのでしょうか。」
「多分。」
不安になりそうな返答にカーネリアは顔を顰めた。
「もう少し自信を持って言って下さいますか。大体、今からはどちらかと言うと
「仕方ないじゃあないですか。僕はまだ経験浅いんですから。」
レストが生前読んでいた探偵小説ではほとんどの探偵が自信に満ち溢れていた気がする。彼の探偵に対するイメージは、太々しく知識に満ち溢れ出し惜しみをしつつも最後には凄まじい発想と優れた洞察力で犯人を追い詰める、という若干の偏りを見せる物があった。
そこまでの自信はまだ彼にはなかった。
「ともかく、よろしくお願いしますね。」
レストはカーネリアに言った。
「まぁ、仕方ありますまい。」
「んじゃ行くよ。」
そう言ってシェルフはドアを叩いた。
「はい。なんでしょうか。」
ドアを開けて出てきたのはショボクレた男であった。警戒心が強いのか、ドアに隠れて体を見せず、こそりと頭だけを出している。
「どもー、アタシ達騎士団の方から来たんだけどさ。」
レストはその言葉を聞いて、嘘を吐く時の方法はどの世界でも共通なのだなあと半ば感心すらしていた。
「きし……!?な、何か御用ですか!?」
「あの、スオード・ノーレンスさんが殺されたという話はご存知ですか?」
「……誰、ですか。」
「つい四日前に貴方がパーティを組んだ方です。」
「……。」
男は考え込んで、やがて目を見開いて言った。
「ああ、あの時の。」
本当に覚えていなかったのか、それとも惚けているのかは分からないが、レストはこの男が少なくともデューレス・イーハックであろうという事は確信出来た。
「では貴方がデューレスさんですね。」
「あ、は、はい。」
「その時の事を覚えていますか。」
「いや、あんまり。大した依頼でも無かったから、早々に終わらせて解散してしまったので。……え、殺された?あの人が!?なんで。」
「それを今調べておりまして。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
そう言いながらレストはこっそりと、手元の鞄を覗き込む。まるでその鞄が自分の物で、そこからその『伺いたい話』のタネを取り出そうとしているかのように見せかけた。
「別にいいですけど、どんな内容ですか。」
「えーと、その。おっとあった。」
そう言ってレストは、鞄からアレイトス教の紋章を取り出した。
瞬間、顔が強張ったのをカーネリアは見逃さなかった。
「な、んです、それ。」
「これ、貴方のですね?」
レストは確信を持って尋ねた。
鑑定眼鏡のレンズには、指紋の幾つかに、『デューレス・イーハック』という名前が表示されていた。
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