3-10 確保
アレイトス教、その言葉を聞いてセントは立ち上がった。
「黙れ!!」
「アレイトス教?」
レストはその単語を聞いて覚えが無かったが、他方カーネリアは得心したように頷いた。
「それ以上言うな!!」
だがシェルフはその言葉を無視した。
「こないだ、アタシらんとこ来た赤いローブの男いたっしょ?あいつがアレイトス教の人間なのよ。」
「え。つまりアレですか、この人とその人が繋がっていたと!?」
「煩い!!黙れ!!」
「アレイトス教と繋がっていたなら、ここまで無理して宝玉を回収したがる気持ちも分かります。あれは邪教、公には信じる事も関わる事も禁じられていますから。下手に表沙汰になれば、商売が成り立ちません。」
「……黙れと言ったぞ、俺は!!」
そういってセントは棚の宝玉を手に取った。
「伏せて!!」
「ファイア!!」
レストとセントが同時に叫び、レスト、カーネリア、シェルフの三人は伏せた。
その頭上を火球が飛び、三人が入ってきた扉へとぶつかり、焦げる匂いを発生させた。
「多分あれは魔法の詠唱を省略するのです!!」
レストが叫んだ。
魔法とは世界に漂う魔力という物にエネルギーを与える事で、様々な物質・作用・現象を生み出す、このソールディで一般的に使われている技術である。
エネルギーを魔力に供給する方法として、一般的には『詠唱』という行為がある。
『詠唱』とは、声の力で魔力に干渉する方法である。具体的には、発動したい魔法に合わせた
レストは先程、セントが漏らした言葉を聞き逃さなかった。セントはエルモットの最後の言葉として、「これは魔法の宝玉と言って、例えばファイアの魔法を無詠唱で」と言っていた。彼は、それに続く言葉は「発動」だろう。つまり、どのような仕組みかは分からないが、魔法を詠唱なしで発動出来るという事だ、と彼は考えた。
だからこそ、セントが宝玉を持った時、セントがする事は一つしか考えられなかったのだ。
「チッ!!」
セントは三人に魔法が直撃しなかったこと、そして、自分の家が燃えだした事に苛立ち、舌打ちをした。そして、早々にケリをつけるべく、魔法の照準を伏せた三人に向けて再び魔法を発動しようとした。
咄嗟にレストは机の上のペンを取ってセントの腕に向けて投げた。
するとそのペンは突然長
「グッ!?」
痛みで思わずセントは宝玉から手を離した。
レストは続けざまに、机の上にあった夜作業用の
「へ……!?」
ガシャン、という金属の落下音とともに、セントの周囲が檻で囲まれ、牢獄が完成した。
「ふぅ。」
レストの
最初はペンを
セントは宝玉に向けてなお腕を伸ばそうとしたが、痛みと、何より牢獄により阻まれ、腕が届く事は無かった。
「があああああっ!!」
慟哭するセントの姿は、他の三人には見えない。彼を無視して、シェルフが机の中から手紙を取り出し、レストとカーネリアに見せた。
「ほら。これ。」
その手紙には、このように書いてあった。
『先日、とある筋より、お探しの物を入手致しました。アレイトス様への供物としてお納め致します。つきましては、ご検討の程、よろしくお願いいたします。』
しっかりとそこにはセントの指紋も残されていた。
「間違いありませんね。……ご検討、というのが何なのかは分かりませんが。」
「この宝玉を買うとかそういう話でしょうか?ついでに、これも残念ですが、送り先までは書いてありませんわね。」
カーネリアは、先程壁に飛び散った火を消しながらその手紙を見て言った。
「でもこのマークは手掛かりになりそうですね。」
レストは手紙の右下に書かれたマークを指差して言った。天使の輪っかが真ん中に描かれ、それを貫くように何かの板が縦に描かれている。そして天使の輪っかの周りに大きな女性の手だけが描かれた、若干不思議なマークであった。
「何ですのこの板。」
「さぁ、アタシもわかんない。」
「……僕も、分からないですね。」
レストは言葉を濁した。彼にはわかっていた。
それは前世で言うキーボードであった。
だが何故この世界でこれが描かれているのかについて、彼も全く分からなかった。
「ともかく、このマークは覚えておきましょう。何か使うことがあるかもしれません。」
レストの言葉に、二人は頷いた。
「ところで、これどうする?」
シェルフはそう言って鉄の板を指差した。
「放っておくわけにも行きますまい。騎士団に連れていきましょう。」
この世界では、警察の代わりに国立騎士団が治安維持を担っていた。犯罪者の取り扱いについても同様である。
「でも騎士団に連れて行ったら、この宝玉も没収されてしまいますわ。それは堪りません。私の宝玉ですわよ!?」
「勝手に自分のにすんなし。まぁでも仕方ねんじゃね?下手にアタシらが持ってるより、騎士団で預かってもらってた方が安全っしょ。」
レストは頷いた。
「自分で調べたいという思いもありますが、これを僕達が持っていても、もしかすればまたそのアレイトス教の人に襲われるかもしれません。いつでも見せて貰えるようにお願いした上で、騎士団に預かってもらった方がいいのでは。」
レストとシェルフの言葉に、カーネリアは渋々首を縦に振った。
「仕方ありますまい。ではこれを護送しなければなりませんわね。」
「それは任せて下さい。」
レストはそう言うとスキルを発動させた。光と共に彼らの眼前にあった牢獄が、いや、
セントは急に自分の腕に頑丈な手枷が付いたことに驚きを隠せなかった。
「な、なんだこれは!?おい、お前らの仕業か!!」
「大人しくして下さい。騎士団に連れていきます。」
「こんなことして、教会が黙っていると思うな!!俺はアイツらに金をだな……。」
「はいはい。それは騎士団の人にも言って下さいまし。」
「騎士団にも信者がいるかもしれないし、気をつけないとねー。」
「そこは油断しないようにしましょう。」
セントの言葉を無視して、三人は手錠に紐をかけ、彼の体を引っ張りながら騎士団へと連行した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます