3-9 詰問

「貴方は現場に居た。二人は貴方の護衛だったのです。そして貴方は宝玉を、あるいは別の物をエルモットさんから受け取ろうとした。ここで何かが起きて火災が発生し、貴方だけが逃げ延びた。こう考えると辻褄が合うと思いませんか。」


「う、だが、それを示す証拠は……。」


「ありません。僕の目を信じて頂くしかありません。ですが、貴方は一つ誤解しているかもしれません。」


「誤解?」


 セントが上擦った声を上げた。


「僕は決して、貴方が殺したとは思っていません。」


「ああああ当たり前だ!!俺は殺してない!!あれは――」


 セントは立ち上がり叫び、そして、観念したように座った。


「……事故だ。」


「でしょうね。」


 予想していた言葉が聞けた事に、レストは安堵していた。だが一方で、カーネリアはこの流れを理解しきれていなかった。


「どういう事なのか説明して下さいます!?全然分からないのですが!!」


 彼女は声を荒げ、


「あたしも着いていけてねーよ?」


 シェルフもまた狼狽したように言った。


「ああ、そうですね。ご説明致します。仮説なのでセントさんには補足をお願いしたいのですが。」


「……わかった。」


「まず、エルモットさんは何らかの方法で――これは本当にわかりませんが――この宝玉を手に入れました。」


 指紋の記録には、エルモットより前に『不明』が何人も居た。様々な人の間を渡り歩いてきたのだろうという事しかレストには分からなかった。


「そしてエルモットさんはこう考えました。きっとこれは借金のカタになると。それでセントさんに手紙を書きます。」


 セントは頷いた。


「セントさんは手紙を受け取り、用心棒と一緒に家に向かいました。エルモットさんが扉を開けて招き入れます。だから扉にはセントさんや護衛のお二方の指紋が無かったのです。」


「まぁ、俺に扉を開けさせるのは、流石にエルモットのバカでも無礼だと分かっていたようでな。」


「それで。宝玉を渡そうとしたその時、何かが起こってエルモットさんと護衛のお二人が火に焼かれます。」


「……エルモットが「これは魔法の宝玉と言って、例えばファイアの魔法を無詠唱で――」と言った瞬間、炎が護衛の二人を包み込んだ。そして、護衛の二人はエルモットに飛びかかった。「火を消せ、熱い」と。」


 セントは頭を抱えた。


「そのままエルモット、そして奴の家の床や壁に引火して、家が燃え出した。俺はどうにも出来ずに逃げ出した。」


 そして彼は溜息を吐いた。


「本当の話だ。」


「信じますよ。何せ、貴方のズボンの裏側、少し焼けてますから。」


 言われてセントは足元を見た。確かにズボンが焦げていた。


「逃げ出す途中で消えたのでしょう。ですがエルモットさん達はそうはならず全焼。セントさんはせめて宝玉だけでも回収したいと思って現場に戻り、カーネリアさんと口論の末に宝玉を手にして、今に到る、と。」


「信じてくれ。俺は本当に殺してない。」


「本当にぃー?」


 カーネリアが怪訝な顔で言った。


「神に誓えますか。」


 シェルフが真面目な声で言った。


「勿論だ。」


 レストが割って入った。


「そもそも、セントさんが殺す理由が無いんですよ。もしエルモットさんに殺意があるならもっと早く殺してます。金額が金額だけに。」


 セントはレストの言葉に深く頷いた。


「この宝玉は手紙の通り、間違いなくエルモットさんが持っていたものです。セントさんがこの宝玉を欲しいなら、エルモットさんから借金のカタとしてこれを回収するだけでいい。この宝玉に全くの価値が無いのであれば、カッとなって殺したかもしれませんが、そうやって丁重に扱っているところから言って、そういうわけでも無いようですしね。」


 レストは棚の上に丁寧に置かれた宝玉の方を見て言った。改めて磨かれたらしく、すすこけたところも無く、綺麗になっている。エルモットと違って丁寧に磨いたらしく、しっかりと指紋も消えていた。


「エルモットさんを、まして護衛の方も含めて殺す必要性は、皆無とは言いませんが、合理的とはとても言えません。」


「むしろ護衛がいなくなって困ってんだよ。」


「まぁ他に証拠もないですし、セントさんが犯人というよりかは、あそこで何かの事故が起きたと考えるのが一番妥当かな、と。」


「なんで隠す必要が?」


「本当のことを話したら宝玉が回収されるかもしれないじゃないですか。何せ、事故の原因として考えられるのはこの宝玉だけですから。」


「……でも金が惜しくて。つい回収してしまった。今考えるとバカなことをした。」


「ああ全くね。三人の魂に恥じる行為ってやつよね。」


 シェリフが冷静に言った。


「勿論、嘘を重ねることも。」


 レストはその言葉の意味が分からなかった。


「……どういうことです?」


「アンタがさ、自分で語るなら良しと思ってたんだけど、語る気まるで無いみたいだし、言っちゃうわ。」


 シェルフはセントを指差して言った。


「もう一通の手紙、机の中にあるっしょ。宝玉の売り先、もう決まってんよね?」


 セントはその言葉を聞いて凍りついた。


「い、や。そんなことはない。」


「嘘ですわね。顔が強張ってますわよ。」


「うるせえ!!」


「売り先もちゃーんと読破たし。……なんで書いちゃうかね、アレイトス教、ってさ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る