3-8 訪問
カーネリアの案内で一同がやってきたのは、宝玉を持ち帰ったセント・マネドールの居城、マネドール商会の本部であった。
「で、ここで何をするというのですか。」
レストに言われて道案内をしたカーネリアが、その依頼してきた張本人に尋ねた。
「あの死んだ二人がここの商会の人間であることは紋章から確定しています。二人の同行について知らないかを尋ねてみましょう。」
「まともに答えてくれるとは思えないけどねー。」
「あの人は基本的に短気ですわ。何故あんなに儲けているのか分からないくらいには。ですので、下手に尋ねれば逆にキレられますわよ?」
「まぁ、そこは、何とか。」
レストは生前の顧客対応を思い出しながら、ああ、またこんな事になるとはと心の中で嘆きつつも、マネドール商会の入り口へと足を踏み入れた。
「ふん。アイツらめ。まさか紋章を持っていくとは。」
直接対面したセントに紋章について話すと、彼は吐き捨てるように言った。
「死者への敬意とかないわけね。」
シェルフが小声でぼやいた。
「まぁいい。で?わざわざそれを告げに来て何をしたい。」
「幾つかお聞きしたい事がありまして。まず、何故嘘を?」
「……話す必要は無い。」
そう言いながらセントは机の上の手紙を仕舞い込もうとした。シェルフの目がそれを映した。
「ハハァーン。」
シェルフはその中身を
「……なるほど。大体話は見えました。」
「何?」
「セントさん。貴方は最初から宝玉が目当てでしたね。」
「…………。」
「どういうことですの?」
沈黙するセントの代わりに、カーネリアが問いかけた。
「宝玉をあのエルモットが持っていると知っていたと言うことですか?」
「ええ。セントさん。今仕舞い込んだ手紙を見せて頂けますか?」
「……見る必要は無い。お前らに見せる必要は無い。俺は忙しいんだ。出て行ってくれ。」
「別に僕達に見せる必要はありませんが、そうしたら騎士団の方に連絡します。」
セントの顔がみるみる赤くなった。
「それは俺を脅しているのか?」
「まさか。僕は真実を明らかにしたいだけですから。騎士団の方にはちゃんと見せてくださいね?」
あわよくば宝玉が欲しいという欲を隠しながら、レストが嫌味っぽく言うと、セントはバンッと机を叩き、そして大きく溜息を吐いてから口を開いた。
「まぁいい。……ほらよ。」
そう言って彼は、机に仕舞いこんだ手紙を取り出し、レストに向けて投げてよこした。
「……。」
開いた机を見てシェルフが険しい顔をした。
「どうしました?」
レストの問いに、
「いや、なんでもない。」
彼女はそう答えた。セントはそのやり取りを意に介さず、説明を始めた。
「この間、エルモットの奴から届いた手紙だ。『借金を返す当てが出来た。綺麗な宝玉だ。高く売れると思う。ついては家に来て欲しい。』簡単に言えばそういう内容だ。」
読む前にセントは手紙の内容を説明した。それは内容はシェルフがレストに囁いた通りであり、手紙の文面とも相違が無かった。
「それで二人を派遣して、借金のカタを回収させようとした。それだけの話だ。」
「それは災難でしたわね。でも何故二人との関係を隠したのです?」
「下手に犯人に疑われたりしたくねぇからな。……正直しくじったよ。逆効果だったな。」
「世の中正直に生きるのが一番ですわよ?」
「テメェに言われたかねぇよ。」
威厳ありげに言うカーネリアにセントは言った。
「じゃあこれでいいな?」
「何がですか?」
レストが口を挟むと、また苛立たしげにセントは言った。
「惚けんな。もう用事は済んだろって言ってんだよ。俺はこの
その言葉を聞いてレストは頭を抱えた。
「……今の聞きました?」
「聞きましたわ。」
「聞いたね。」
レストが問うと、カーネリアとシェルフは頷いた。
「……なんだよ。勝ち誇った顔しやがって。」
セントは意味が分からないという様子でレストに尋ねた。
「その宝玉。なんでそれが魔法の宝玉だと知っているのですか?」
セントの額に汗がダラダラと流れ出した。
「あー、その。」
「手紙の内容拝見しましたが、宝玉の効果、そして名前については触れられていませんでした。そして、僕とカーネリアさんと会話している時、貴方は玄関から入ってくるところでした。聞こえていないはずです。」
「いや、持ち帰って調べたら分かったんだよ。」
「それはどうでしょう?それにしては調べるための道具や本は無いようですが。ご自身の目で判断されたのですか?」
「そ、そうだよ。」
「では貴方の指紋が、貴方が触るより前にあった事についてはどう説明されますか?」
「え、へ?」
「記録としては残っていないのが残念ですが、私ははっきり確認しました。貴方の指紋がその宝玉に残っていました。指紋というのは指についている模様。各人ごとに異なり、基本的には不一致です。それが一致するという事は、貴方が触った事に他なりません。」
レストは掌を差し出して返答を求めつつも、どこまで踏み込むかを考えた。
証拠は無い。もう焼けてしまったし、無くなった。だが、幸い眼前の人間は態度の割りに押しに弱そうである。ここまで来ればもう流れに従って押し切ってしまうしかない。彼は腹を括った。
「貴方はどのタイミングで宝玉を触る事が出来たのでしょう。知る事が出来たのでしょう。ここに来て調べて初めて知った宝玉を?」
「そ、れは、その。」
「考えられる事があります。出火当時、貴方は現場に居たのです。」
セントの汗が更に滲み出た。
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