3-4 鑑定

「なんで……これが、こんな所に?」


 レストはそれを持ち上げながら言った。


 最も激しく焼けていた柱の下に落ちていたのであるからして、これが火元である可能性は高いと考える。だが何故。


 レストが考えてパッと思いついたのは、泥棒と被害者の関係性である。この家がエルモットの家であるなら、この宝玉もエルモットの持ち物だった可能性はある。つまりエルモットが持っていたこの宝玉を、残りの二人が奪いに来た、それで何らかの原因で火事に至った。


 だがこれでは、騒動の中心に宝玉があったことの説明がついても、その火事の原因が説明できない。


 あまり深入りするつもりは無かったレストであったが、宝玉が関わっているとなると話は別である。


「カーネリアさん。」


 レストはイライラを募らせながら、何か金になるものが残っていないかとエルモットの家を探っているカーネリアを呼んだ。


「なんです。わたくしは今いそが……。」


 言葉を紡ぐ前にその口があんぐりと開いたまま閉じなくなった。


 少しの間を置いて、カーネリアは言葉を発した。


「な、ななな、なんでこれが!?というか幾つあるんです!?」


「さぁ……。あの本が正しいとすると、本当に十個あるのかもしれません。」


「ううん……困りますわね、それでは私達が探している宝玉がどれか見分けがつかないではありませんか。」


 それはレストも危惧している事であった。自分達が確保しているのは一つ、そしてここにもう一つ。数としては自分達が求めているそれと一致する事にはなったが、これが果たしてウィーラー家、ゼーニッヒ家それぞれの持ち物だったものかどうかが特定出来ない。


「……現在の技術とは離れていますが、もう致し方ないですね。」


 そう呟くとレストは焼け跡を見渡した。


「どうされました?」


 その姿と言葉に疑問を抱きカーネリアが尋ねたが、レストはそれどころではないという様子で見渡す事を続け、やがて「これでいいか」と言いながら焼け焦げた木片を手に取った。


「さて、と。……眼鏡でいいか。『火事で焼けた木かじでやけたき鑑定眼鏡かんていめがね物質変換マテリアル・トランスフォーム』。」


 レストがそう言うと、手元の木片が眼鏡へと置き換わった。


「なんですのそれ。」


「残っているかは別として、指紋や物質の組成を調べられる……ようにしたはずの眼鏡です。」


「しもん?そせい?」


 この世界にはまだ指紋というものに対する知識がなく、組成についても、一部の研究者ーー特に物質生成魔法の研究者や錬金術士ーーにしか認知が広まっていない事をレストは知っていたので、カーネリアにだけ聞こえるように耳打ちした。他の野次馬に聞かれて、変に技術を発展させる事は避けたかった。


 真っ先に「金になる」と言い出しそうな張本人に、本当に話して良いかについては、葛藤が無かったというと嘘になるが。


「指見せてください。」


「ん。」


 カーネリアはレストから見ても綺麗でしなやか、だが所々に傷を負っているその手を見せた。金や荷物を取り扱う際についた傷のようだった。彼女の苦労がそれだけで推し量れるというものである。


「指の先に変な模様がありませんか。」


「ありますわね。」


「それは基本的に各人固有なんです。」


「へぇ。」


「で、物に触ったりするとその跡が残りますよね。これはその跡を調べるために作った眼鏡です。」


「ははぁ。で、そせいというのは?」


「物質の構成の事です。同じ材質かどうかなどをチェックします。」


「なるほど。しかしよくそう言った知識をお持ちですわね。」


「昔、ちょっと。」


 流石に転生云々を説明する気にはなれなかった。どう説明すればいいのかも分からなかったので、レストはこの件についてはサラリと流す事にした。重要ではない。


「ともかく、これでチェックしましょう。」


 そう言って彼は眼鏡をつけ、宝玉を見た。眼鏡には指の跡が表示された。そして便利な事に、その指の跡が誰のものであるかも。とはいえ、レストが知らないであろう、最後に触った二人の指紋については、『不明』とだけ表示されていた。装着者が知っている人間の指紋があれば表示される、というレベルに留まってるようである。


 少し引っかかるのは、『不明』という文字が三つ並んでいる事である。この場にはもう一人居たのだろうか。それとも、エルモットの前に触った人間であろうか。そこに関してはよく分からない。


 ただ、少なくとも言えるのは、そこにウィーラー家のものは無いという事である。


「カーネリアさん、昔、家宝の宝玉に触った記憶はありますか?」


「ん?まぁ、一度くらいは触った事があったと記憶しておりますけれども。」


 だがカーネリアの名前もない。という事は、カーネリアが触った事もない。それはつまり、この宝玉は二人の探していた物ではない、という事だろう。


 それを伝えると、カーネリアは肩を落とした。


「はぁ。まぁ、指紋だけで判断出来るのかどうか、私には分かりかねますが……。とりあえず違いそうだという事は理解しました。残念ですわ。」


「僕もですよ。さて、次は。」


 レストは眼鏡の横のダイアルを調整した。レストの想像通りに創造されていたとすれば、これで例えば未鑑定品の鑑定も出来るし、前述の、物体の組成を調べる事も出来るはずである。あるいは、よく分からないアイテムの情報を入手する事も、出来るかもしれない。レストは特に最後の能力が発揮される事を期待した。


 それは実現した。眼鏡のレンズには、これが何であるかを示す文字が表示された。


 『魔法の宝玉』


 スキルが生み出した眼鏡にはそう表示されていた。

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