第二話
再び明転――
おやおや。これは実に高校生らしいイベントに突入しそうじゃないか。
なんだなんだ。お化けと都市伝説にしか興味がないと思っていた先輩も、一皮むけばそこら辺の女子高生となんら変わりがないということですね。
それならそうと早く言ってくださいよ。
え? 別に期待してた訳じゃないですけど、やっぱ男としては通らなくてはならない試練だし? まぁ部長がその気なら断るのもどうかと思う程度には仲が良いと思いますよ?
はいはいわかっていましたよ。こうなるのは時間の問題だということはね。白状しますし自供します。
二人しかいない部活だからこうなることは目に見えてましたよ。はぁ……先輩の言いたいことはもうわかってますよ。オレも後輩です。先輩の顔は立てますし、なんなら命令は絶対ですからね。後輩は大人しく先輩の言うことに従いますよ。まったく……部長の気持ちも理解はできますけど……いやいや困っちゃうなー。あはは――
それから放課後までの僅ずかな時間が、ほんの束の間の妄想タイムでした……。
「――で、旧校舎のトイレに現れたっていう花子さんの存在をわざわざ確かめに行きたいと。そういう訳ですか」
「そうなのよ。何の目的で侵入したのかは教えてくれなかったけれど、男子と一緒に放課後の旧校舎に忍び込んだ女子生徒がいてね、その子がトイレで花子さんを見たっていうのよ。そんな話を聞かされたら現代怪異研究部が調査しに行かないわけにいかないじゃない。って……なんだか
「いえ、別に」
わかってましたよ。部長がオレに一片の好意も抱いていたのはわかってましたよ。それでも夢を見ることくらい良いじゃないですか……。
「はぁ……。しかし、今時花子さんなんてどこの学校にでも当たり前のように噂されてる怪談話ですよね? なのに肝心の花子さんを見た子供が全然いないってことは、ただの噂なんじゃないんですか?」
「まぁ九十九パーセントは『嘘』でしょうけど、怪談話なんてものは残りの一パーセントにだいたいホンモノが混じってるものよ。誰か一人がその存在を目にしたら……それは既に立派な怪談話になる要素があるの。土御門くんが否定する花子さんだって、七十二年前には既に登場してるんだから」
「そんなに前からですか」
驚いた。まさかそんな昔から存在していた怪談話だとは思いもしなかった。
歴史の年号なんて一つも覚えてなさそうな癖に、オカルトのことになると正確に年代まで覚えられるのはなぜだろう。
「でも……近頃はトイレも清潔になって、和式から洋式へと姿を変えつつある昨今のトイレ事情は、花子さんのみならず、トイレを住みかにしている魑魅魍魎達を駆逐しつつある由々しき事態とも言えるわね」
どこの専門家の意見ですか。そしてどの立場で話してるんですか。
でもまぁ、確かに幽霊を見たというヤツの大半は嘘っぱちかもしれないが、オレのように霊感があるヤツもなかにはいるからな。
見たことがないからと言って、頭ごなしに存在を否定するわけにもいかないか。
「前から不思議に思ってたんですけど、花子さんってどうして三番目の個室に現れるんですかね」
「良い質問ね。花子さんの出現場所は三階や奥から三番目の個室が多いと言われてるけど、実は二階だったり、一番奥の個室だったり、三とは関係ない場所にも現れてるの。おそらく『花子さん』に呼び掛けること自体が、カノジョを喚び出す引き
先日のテストの結果が、オール赤点だったというのに、その時の赤っ恥が嘘のように役に立たない知識を披露する。
「安心してください。何が出てきても部長は俺が守るんで」
恥ずかしいが、一度は言ってみたかったセリフを言ってやった。さすがに鈍感な部長も顔を赤らめてるのでは――
「え?最初からそのつもりだけど?」
……最初からオレを盾替わりにするつもりですか、そうですか。
花子さんが現れたという旧校舎は、現在使用されている本校舎の裏に、今もたて壊されずに現存している。
老朽化が進んではいるが、解体するにもお金がかかるために学校側が放置してあるらしい。
先輩が言うには、普段は劣化が激しいために一般生徒が立ち入らないよう厳重に鍵が掛けられているのだが、どこかのバカが無理矢理解錠した窓から侵入できるらしい。
「本当はこんな素晴らしい校舎は買い取りたいくらいなんだけどね。さすがにお父様も許してくれなかったわ」
許してくれたら買い取るんかい。と心のなかでツッコミながら、それを可能にしてしまう神楽坂家というお家柄に心底恐怖を抱く。深くは考えないようにしよう。
先輩に教わったとおり、一ヶ所だけ鍵が壊されていた。
そこから二人して旧校舎の中に侵入を試みると、本校舎とは明らかに空気が変わった。
いくらか肌寒く、ジメッとした空気が漂っている。
「まだ日も明るいというのに、このジメジメした暗さと、まるでナニかに監視されているようなおどろおどろしさ……これは今日の部活動の結果に期待が持てそうね!」
そう言って一人盛り上がる先輩は、オレのことなどお構いなしに、廊下を突き進む。胸の高鳴りを押さえられない様子だった。興奮して顔が赤くなっている。
ちなみに、オレは違う意味で胸の高鳴りを押さえられないでいた――
部長と……誰もいない旧校舎で二人きりというシチュ……これは……期待せざるを得ないっ!!
これは、これは、このタイミングでもういくしかないのでは!?
胸がドキドキしていた。
先を歩く部長の細い肩に、恐る恐る手を伸ばしかけたその時――
「さて、目的のトイレに辿り着いたわよ。……どうしたの? そんな露骨に『コイツ本当にタイミングが悪いな』なんて顔して? あ、もしかしてもう少し旧校舎を散策したかったかな? わかるわよその気持ち! でも今日の目的は『トイレの花子さん』を見つけることだからね。散策は後にしましょう」
「……はい」
何一つわかっちゃいない先輩なのでした。
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