第二話

 さてさて、読者の方々はついてきているだろうか。

 ……この時点で既にそっとページを閉じられている気がしなくもないけど、どうかそのまま読み続けて欲しい。

 いきなりさじを、いやさ本を投げられたりでもしたら、ここから先どうやって先輩の面倒を一人で見ていけばいいのかわかったもんじゃない。

 読者がいなければ先輩の面倒を見る自信がないことを、ここにハッキリと自信をもって宣言する。

 だから、どうか暖かい目で先輩とオレの日常を見守っていただけると幸いだ。


 

 ――ふぅ。ひとまず深呼吸して落ち着こう。

 スゥーハァースゥーハァー。

 ……よし。いくらか気分が落ち着いたところで、改めて冒頭から好き勝手言うこの先輩の説明をしよう。

 彼女は、現代怪異研究部部長の神楽坂麗子。

 高校二年生である。

 なんだか実家が物凄い金持ちらしくて、世界の億万長者のランキングにも毎年名を連ねてるとか連ねていないとか。

 その手の下世話な噂には事を欠かない高嶺の華のような存在だ(喋らなければ)。

 わが現代怪異研究部は、部長の学生とは思えない潤沢な資金力パパのお小遣いをフルに活かして無駄遣いして、先輩の大好きな現代に潜む怪異をあぶり出すという、常人にはなんとも理解し難い奇妙奇天烈な部活動なのだ。


 ――な? 自分で言ってて虚しくなってくるけど、こんな生活を送っていて普通の青春を楽しめるはずないってわかっただろ?

 ちなみに、我が校は名門とはかけ離れた公立校なのだが、どうしてわざわざお嬢様学校に通わないでこの学校を選んだのか尋ねたことがある。

 その質問に先輩はこう答えた――


「磁場が歪んでいたから」



 ……オレは戦慄を覚えた。

 忘れもしないあの日の想い出――



「麗子先輩って、黙っていれば可愛いんですけどね。口を開いた瞬間アウトなのがもったいないです」

「失礼なこと言うわね。そんなしつけのなってない後輩には、この特価で買った封印のお札をお口に張って差し上げましょうか」

「すみません。やめてください」



 先輩の説明が終わって、ようやくオレの番だな。

 え? 男なんて興味ない?

 ハハハ! そうは言わずに聞いてほしい。

 実はオレこそがこの物語の主人公なのだから――と主人公になれない男子の戯言ざれごとはこのくらいにして、チャッチャと説明を片付けよう。できる男は仕事が早いのだ。


 オホン。

 えーオレは現代怪異研究部の男子部員である土御門士朗だ。

 部長に比べて何の紹介するところもない一般生徒である。

 特徴は、強いてあげるならちょっと霊感が強いくらいの高校一年生だ。はい終了。



「土御門君。気の毒だからそっとしておいてあげたんだけど……どうして誰もいない宙に向かって喋り続けているのかしら。イマジナリーフレンドでも見えてるの? それとも『くねくね』でも見ちゃったりしたのかしら? それならもう助けてあげられないわね。ナムナム」

「オテテとオテテを合わせて合掌しないでくださいよ。少しは可愛い後輩を助けようとする気概くらい見せてください。ちょっとコレから始まる悲しき喜劇コメディを読者に説明してただけですから」

「その話を聞かされても、『ああ、そうなんだ。それなら良かった!』とはならないでしょ。そんなのちっとも大丈夫じゃないじゃない。まぁ土御門くんの不審な行動なんて、それこそ日常茶飯事だから慣れっこだけどね」

「さらっとオレの印象を悪くするのは止めてもらえませんか。印象操作はよくないと思います」

「今日はね、コックリさんをヤろうかと思います」

「自由かよ」

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