隕石をたったひとりで支える男のセリフはない

ちびまるフォイ

地球は善意で支えられている

「も、もうだめだーー!」


地球に迫る隕石はすでに回避できないほど接近していた。

そのとき、どこからともなく現れた男が隕石を受け止めた。


地球の危機はひとりの男によって救われたのだった。


しかし、あいかわらず隕石は地球の近くにあるままで

男が必死に受け止めている状態だった。


「地球の命運をたったひとりの男に任せるなんてひどい!」

「私達にもなにかできるはずだ!」

「地球を一時的に救ってくれた英雄に報いることができるはずだ!」


隕石衝突を逃れた人たちは自分たちの科学力のすべてを駆使し、

男の代わりとなる「隕石受け止めロボット」を作り上げた。


「これまで隕石を支えて衝突を防いでくれてありがとうございました。

 このロボがあればもう大丈夫ですよ」


ロボットは男の代わりに隕石を支えようと変わった瞬間にバキバキと壊れてしまった。

ふたたび隕石が迫ってきたので、男はあわてて隕石を再度支えた。


「そんな! 計算では受け止められるはずだったのに!」


あらゆる科学力を持ってしても、男の代わりとなるロボットは作れなかった。

次は隕石を爆破する計画が持ち上がった。


「あの男だけに負担を背負わせるのはおかしい!

 隕石を爆発させて少しづつ減らしていくんだ!」


作戦は開始され、大量の資金とミサイルが投下された。

けれど隕石は表面がちょっとはがれたくらいでびくともしない。


「ちょっと! うちの庭に隕石の破片が落ちてきたんだけど!」

「俺の車に隕石のかけらが落ちて傷だらけだ!」


「す、すみません! すみません! おい! 作戦中止だ!!」


隕石を少しでも削る計画は市民の猛烈な反対にあったのもあり中止となった。

隕石はあいかわらずひとりの男が支えているだけの状態になった。


「いったいどうすればいいんだ……」


有識者たちは連日会議をしたが、すでに打てる手は打ってしまったので有効な手段は思いつかなかった。

思いつかないけれど「ちゃんと支えている男のために努力している」と見せるために会議は連日続いた。


「では会議にお集まりのみなさん、本日の議題は何を会議するのかを決める会議をしましょう」


「異議なし!!」


検討に検討を重ねてなにかの結論を出すわけでもなく、

なんとなく現状維持をしていた結果に隕石をたったひとりで支えていることは日常になった。


いつしか男のことを感謝しなくなり「支えているのが当然」となっていった。


隕石衝突を防いでいる男の周りには観光客くらいしか来なくなった。

ある日のこと記念撮影をしている観光客は隕石の動きに気がついた。


「……おい、見ろ! 隕石がちょっと近づいてきてるぞ!」


「ちゃんと支えてくれよ!! それが仕事だろ!?」


隕石を支える男はすでに老化もあって前のように安定して隕石を受け止められなくなっていた。

体はふらつき、時おり隕石が支えている背中と両腕からこぼれそうになる。


それを見るたびに地球に暮らす人達は恐怖した。


「なにか有効な手立てはないのか!? 今までなにやってたんだ!」


「我々も頑張っているんです! しかし何も思いつかないんです!」


会議と称されたお昼寝タイムをしていた有識者は市民の声に慌てて答えたが、

その裏で着々と地球脱出ロケットをこしらえていた。


ロケットは市民の怒りが頂点に達する前にひと知れず発射したが、

隕石の強力な引力にひかれて宇宙へ脱出する前に爆散した。


市民はそのありさまを見て、もはやどこへ逃げることもできないと悟った。


「宇宙に逃げることもできない、地下シェルターでも助からない。もう終わりだ……」


「誰か! 男の代わりに隕石を支えてくてる人はいないのか!」


残された人間たちは隕石を受け止める救世主を血眼で探したが見つからなかった。

本当はいたかもしれないが、男が何十年も隕石を支え続けたのを見たら「ああはなりなくない」と思ったのかもしれない。


ついに男は限界に近づき、隕石はぐらぐらと地球に迫り始めていた。


地球の終わりが目前になり怖くなった市民は知恵を絞った。


「こうなったら男を固めてしまおう!!」


「そうだそれがいい! あいつがフラつかなければいいんだ!」


人間たちは隕石を支える男の体に特殊な硬化剤を塗り始めた。

冷えて固まると、男はもう人間ではなく隕石を支える石像となった。


「地球の危機は回避された! やったーー!!」


そうして隕石を支える立像は地球存亡をすくったシンボルとして飾り付けられた。

今ではこれまで以上に観光客が訪れる名所になった。


「……ということで、地球を支える男と残された人たちが協力して今も地球を守っているんですよ」


観光ガイドが誇らしげに説明すると、修学旅行で訪れた生徒のひとりがつぶやいた。



「僕だったら塗り固められてるときに、キレて隕石手放しちゃうよ。ずっと支えてたんだからすごいよね」



その後、立像はそれがわからないように立ち入り禁止となった。

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