藍する青のガラスの花

@nozuki_miu

藍する青のガラスの花

まずは私の過去から話そう。


あれは私が5歳の小学校に上がる前の時。


私に2人目の妹ができた、それと同時にママは育児に専念すると決めてしまい仕事を辞めてしまった。


無事に生まれるもののお母さんの会社は倒産、社長が全財産持って夜逃げしたらしい。


これから青藍を助けるにはどうすればいいだろうと悩んでいるとある1人の女性が現れた。それが叔母だ。


そこで叔母の提案で「私の家に理沙りさちゃんを預けてくれれば立派な稼ぎ頭にしてあげるよ。」と。


両親は即答出来ずに返事を渋り保留となったらしい。


ママは育児に、お母さんはパートをしながら就活をしていたものの子供が多く条件に見合う職場が無かったそうだ。


2人は決めた、「私の居る場所」を。


それは次の春が来る前に私がこの家を去るという条件で…。




時は雪の降る季節、私は理沙。


次の桜が咲く頃にはこの家から出なくてはいけない。


だから両親からはみんなで楽しく過ごそうね、と言われている。


本当のことはどこまでかは知らないけれど大体知っている。


私は嫌われてはいないけれど知らない人に連れて行かれるらしい。


悪い魔女は絵本の中だけの存在かと思っていたのに現実にいるなんて。


泣き顔を見せちゃいけないと思い知らされてから理解しないようにと心が警告している。


2人の母親と2人の妹達と楽しまなきゃね。


今夜は久し振りにゆっくりご飯が食べられるみたい。


ママは家族の時間を作ろうと家での食事を望んでいるみたい。


そのせいかお母さんとは一緒に食事をすることが少なくて少し寂しい思いをした。


妹達にそんな思いをさせない為にも私、頑張るからね。




そして魔女から攫われる前日、ママは泣いてしまった。


ひたすらごめんなさいと言うけれど私も妹2人いるお姉さんなんだから「大丈夫よ。」と言うと余計に泣いてしまって困った。


こういう時お母さんならなんて言うかな?と思い、「ママもしっかりやってるんだから、私が魔女と戦うから。」と私は少し怖いけれど頑張るよと気持ちを込め笑顔でママの頭をそっと撫でた。




当日、空が泣いているかのような雨の日。


お母さんも仕事から抜け出して旅に出るのを見送りに来てくれた。


必死に泣くのを我慢しているけれど何故大人は泣く事を我慢するのでしょう?


泣きたい時に泣いていいのは大人も子供も変わらないと思うのだけれどね。


叔母から言われた条件は三つ。


一つ、16の誕生日を迎えるまで干渉する事を禁ず。


二つ、毎月家族4人が食べていくには十分な資金を提供する事。


三つ、青藍と会う事を禁ず。


以上の条件を守れなかった場合は…と言われ私は周りの音が聞こえなくなった。


え?このまま10年間誰とも会えずにその先青藍とも会えないの?


そんなの聞いてない…だからママとお母さんは泣いているんだ。


私はここで記憶が途切れている。




気付いた時には小さなバッグ一つに埃臭い見たことない部屋でベッドに丸くうずくまっていた。


お腹が空いて部屋の外へ出ると、下り階段がありここが二階だということが分かる。


階段の下にはキッチンのような雰囲気が広がっており、私は降りてみることにする。


そこには私を連れ去った魔女がいた。


私は気配を隠すと魔女は気づいていたのか「理沙、出ておいで。お話をしよう。」と呼ばれた。


私は隠れていても無駄だと気付き魔女と対面になるように椅子に座る。


「コーヒーはまだ早いか…オレンジジュースなら飲めるかい?」と聞かれ私はコクリとだけ頷く。


出してもらったオレンジジュースは家では見たことないほど綺麗な色をしており一口だけ含むと子供でも違いが分かるほど味の深みがある。


「害は無いんだ、そんな警戒しないでおくれ理沙。」と魔女は言う。


続けて「私は瑠衣歌るいか、君のお母さんの方の姉にあたるよ。理沙と志保や青藍のような関係だよ。」と優しい声で話してくれる。


この人は私を連れ去った魔女ではなかったの?と思い「貴女は魔女では無いの?」とだけ聞くと、


「魔女?魔法使いのような存在かもしれないけれどお伽話のような悪い魔女ではないよ。」と笑って答える。


瑠衣歌は「私は理沙を立派な仕事に就けて妹たちに何かあった時助けてあげれる魔法使いになって欲しいんだ。それこそ良い行いをする魔女のようにね。」


続けて瑠衣歌は「まずはこの近くには学校は無いからこの家で勉強してもらう。そして私が職業適性を判断するよ。私の望みとしては医者になって欲しいと思っているよ。ここには色々揃っているからね。」


私は「お医者様になれるの?」と聞くと瑠衣歌は「理沙の頑張り次第だよ。」と答えが返ってくる。


私は「妹たちを助けられるなら頑張るよ!えっーと…瑠衣歌さん!」と言うと「親しい人は皆RUIと呼ぶから理沙もルイと呼ぶといい。」と言われたので親しみを込めて「分かったわ、ルイ!」と返事をした。




そうして私は6年間で小学から高校までの12年間分の筆記試験をクリアした。


正直苦しい事は沢山あった。無理矢理頭の中に情報を詰め込みそれを引っ張り出すのだから。


そんな時、ルイは褒めてくれつつ分からないところはすぐに教えてくれた。


ただ仕事の現場にはまだ足を運ぶことは許されていない。




私が12歳になるとルイはこう提案した。


「医学に本気で進みたいなら留学してみる気は無いか?」と。


私にはこの土地で出来る事は今の私では限られているし医学の最先端へ触れに行きたいと思い留学を決意した。


ルイの出身校へ行き、試験を受けて入れることが決まった日には宴をした。


家族のことは決して忘れたわけでは無いけれど今はルイとの生活を大切にして16歳の誕生日、私が大学を卒業するまでその気持ちは胸の内に秘めておくことにしたのだから。




旅立つ前日の夜、私はルイから一枚の写真を受け取った。


青藍が生まれた時の家族写真だ。


私はルイに「何故今まで渡してくれなかったの?」と聞くと


ルイは「理沙が家族の事を強く愛してる事を知ってたから。この写真を渡すべきか悩んでいたけれど留学に行くんじゃ必要だと思って。」


あえて私は何故必要なのかは聞かなかった。


理由は明確だ、大学へ行けばルイも居ない孤独になるのだから。


これも16歳までの我慢。


でもね、青藍。貴女にも会いたいよ…




当日、ルイは思いの外サッパリと送り出す。


ルイなりの優しさなのか母校への信頼なのか。


飛行機に乗るのは初めてだ。


何故かルイとの思い出ばかり浮かんでくる。


寂しいとかでは無くきっとあの雨の日を連想させるからかもしれない。




大学はルイが手続きをしてくれていたから問題なくキャンパスライフを過ごせている。


筆記の勉強はもちろん医学全般自由に学べるから退屈しない日々だ。


医療刺青も学ぶことができる。ファッションタトゥーを入れてる学生も多くその一部なのかと思われる。


薬学は幅が広いものの専門を絞れば専門書と講習でなんとかなる範囲だ。


何せ自由だ、私はこんな自由を今まで体験したことがない。


他の学生からは勉強のしすぎだと言われるが私はルイのようになりたい。


そんな日々を過ごしていると教授に呼び出された。


何事かと思うとルイが倒れてると連絡があったようだ。


教授に一週間程休みを貰うと、帰国してルイの元へと向かった。




ルイは最寄りの総合病院に運ばれていた。


意識もしっかりとあり現在はバイタルも正常で、病名を聞くと貧血で受診中に倒れてしまっただけだと言う。


この入院もただの検査入院だと言うが私には分かる。何か違う原因がある事に。


それをルイに聞いても答えてはくれないし処置中じゃなくて本当に良かったと話すばかりで。


「ルイは私のこと何も分かってない!」


と初めてルイに喧嘩腰になってしまった。


私は泣きながら病室を出て近くのホテルで一晩過ごす事にした。


眠れない…


初めて怒りという感情を抱きモヤモヤしている。


ルイに謝りたい、明日謝ろう、そして今頑張ってることを報告しよう。




翌朝、一睡もしてない私には堪える日差し。


ルイの必要であろう入院セットを持ち向かうものの昨日の病室には居ない…


近くの看護師さんに聞くと個室へと移動が決まったとのことで、焦らさないでくれ…と思いつつ移動先の病室へ向かう。


ルイに聞くと実は個室を希望していてやっと空いたんだ、と言う。


私はもう呆れて昨日の怒りも吹き飛び笑うしかなかった。


「ねぇルイ、私はルイみたいになんでも出来るお医者様を目指してるのよ。」


するとルイは「私はなんでもでは無いし理沙は理沙の好きな事を学べばいい。」といつもの調子で話す。


続けて「理沙、貴女は心配し過ぎよ。私はそんなに弱く無いから安心して学んできて。」と真剣な顔で話すルイ。


私は「わかった。早めの飛行機で行くから。」とだけ一言残し去る。


飛行機に乗り移動中は寝不足故か眠っていた。




大学に戻ると教授達は心配していたが、大丈夫な事を伝えると私はすぐに講習に復帰した。


ここで休んでいる時間はない、そう感じたからだ。


外科の刺青を消すオペも試した。私はルイに元から起用だから才能があるかもしれないと言われていたからだ。


教授にも褒められ「君は外科に向いている!特に皮膚の扱いが素晴らしい!」と評価を受けた。




飛び級だということが影響しているのか私はこの辺りから知恵熱を出すようになった。


何事も考え過ぎてしまうのだ。


そんな時は必ず木や草を見て休むようにしている。


何事も無理は禁物だと言うことを学んだ。


卒論も無事タトゥーについて書き終え帰国する準備が出来た。




16歳の誕生日を迎えて帰国すると、私はルイに会いに行った。


ルイは深夜なのに両親と一緒にルイと待っているらしい。


私は無人タクシーに乗るとパッドを使い行き先を選択して帰宅した。


海沿いの道を走り心なしか雰囲気が違うようないつもの建物へと向かう。


ここが私の帰る場所だと思いながら、心躍らせながら入ると「ハッピーバースデー理沙!!!」と3人に祝われ涙が溢れる。


実に10年ぶりだ。泣くなという方が無理がある。


お母さん!ママ!と2人に抱きつく私。


2人は涙を溢しつつごめんなさいと泣き続けている。


私は「今日は志保はいないの?」と聞くとママが「青藍はまだ1人にしておけないから…」と表情を暗くする。


私は「構わないわ!それより私お腹が空いたの!食べましょう!」と雰囲気を和ませ食事を始める。




とある昼食前に2人でご飯の用意をしている時に、志保に会うにはどうしたらいいかなと考えていると、「理沙、この前の誕生日で志保に会えなかったこと悲しくなかったかい?」と言うルイ。


「それはもちろん寂しい思いはしたわ、けどあまり甘えるのも…」と話していると外から「すみませーん!」と声がする。


私が「はーい!少しお待ちください!」と言い向かうと「貴女が理沙お姉さんですか…?」と聞く少女が居る。


「そうですよ、貴女のお名前は?」と、聞くと


「私は志保!理沙お姉さん会いたかった!!!」と抱きついてくる志保に困惑してしまい「ルイ!」と呼ぶと笑っているじゃない。


ルイは「遊びに行ってあげなさい。」と言うので私は


「志保、海へ行ってお話をしましょう?」と誘う。


私は近くの海岸まで散歩しながら話していると「理沙お姉さんはお医者様になったの?」と聞かれるので「そうだよ。海外に留学して沢山お勉強してきたわ。志保は?」と聞くと、


「私はお勉強あまり得意ではないのー、嫌いでもないからなんとかってところかな!」と志保は言う。


「好きなことはないの?」と聞くと「青藍と一緒にケーキを作ったり紅茶を飲みながらお話することよ!」と返ってくるので、私は志保と青藍が楽しそうな姿を想像して、嬉しさのあまり泣きそうになったので「ごめんなさい、帰って一緒に食事を摂らない?」と聞くと「うん!」と純粋な笑顔で応えてくれる。




帰国して数週間、ルイとは何気ない日常を過ごしながらキャンパスライフの話をした。良かったこと、苦しかったこと、全部話せたと思う。


そんな話を聞いて「やっぱり理沙は筋が良いわ。私の仕事、継いでみない?」と提案をするルイ。


私は「ルイの仕事は詳しくは知らないわ…」と答えると「ついてきなさい。」と言い席を立つ。


黙ってついていくと「ここが私の職場よ。」とルイは今まで入る事を禁じていた部屋に向かい扉の中を見せてくれる。


診察室を通りそこには消毒された器具を収納する棚、手術台、勿論手洗いのするシンクなんかも揃っている。


一つ違和感があったのは色の液体の入った瓶でこれは見覚えがあり、「ルイ、貴女は彫り師なの?」と聞くと「やっぱり大学では学んできたのね、そうよ。」と答える。


私は「医療的な刺青とファッションタトゥーしか見なかったけどルイも同じなの?」と聞くとルイは素直に「それが私の出来る範囲ね。」と答える。


すると「良かったら次の患者からはアシスタントしてくれない?」と優しい声で聞かれる。


私は笑顔で「うん!」と答えた。




それから1年の間に数人の患者をみた。


風邪で来る患者や足が千切れる一歩手前の患者まで。


刺青を望む患者は来なかったので適切な処置をしルイの指示の元、確認をして「お大事に。」と言って見送る。




私がここに戻ってきて1年半くらいになるある日いつもの通りに仕事を手伝っていると、1人の女性が駆け込んできた。私と同じ年齢くらいだろうか?


「ルイさんはいますか!?」と私に訪ねてくる。


「ご用件は…」と聞くと「リリィのタトゥーの事で!」と言う。


私は察してしまった。消したい人がいる事に。


「分かりました、奥に進んで診察室でお待ちください。」と言うとルイを呼びに行った。


ルイは何度も顔を合わせたことがあるようで落ち着いた様子で事情を聞いていく。


どうやら彼女はお相手の方に裏切られたと言っておりタトゥーを消してまで縁を切りたいと話している。


ルイは呆れた様子で「本当に覚悟があるんだね?」と聞くと彼女はどうしても消したいという願望でいっぱいのようだ。


ルイは奥へ連れて行きお香を焚き紙タバコを吸わせる。そして注射を打つ。


すると彼女は糸の切れた釣り人形のようにぐったりとした。恐らく麻酔だろう。


ルイは待合室のカウンターへ向かい一つの黒表紙の台帳を開き電話をすると「あー…はい、はい。迎えに来れますか?」と連絡している。


電話が終わると、「刺青を入れるということはその人の魂を預かるという事だよ、とても危ないことだ。決して安請け合いしちゃいけないよ。」と真剣な声で言う。


続けてルイは「刺青を入れるということは魂を体に刻み込むことと同じ事だ、だからこれから色々見て、勉強してほしい。」と言うので私は「分かったよ、ルイ。」と言った。


しばらくするとお相手の方が到着したのか「あのっ!私のお相手がご迷惑をおかけしました!」と頭を下げてくるので私は「いえ、大丈夫ですよ。まだ目を覚ましてませんがお近くにいた方がよろしいですか?」と聞くと「はい、近くにいたいので…」と言うので奥へ案内するとルイが近くで診ていた彼女は静かに眠っていた。


ルイは何があったかを聞いている。「彼女が…いえ…はい、すみませんでした。いえ、ご迷惑をお掛けするつもりはなくて…」と気まずい雰囲気になると眠っていた彼女が目を覚まし、「あれ…なんでいるの?」と聞くと「心配して追っかけてきたのよ!当たり前じゃない!」と言い2人が泣き始める。


ルイと苦笑いを浮かべるものの「待合室で待ってなさい、コーヒーでも淹れるわ。」2人に言うとルイと私はキッチンへと向かった。


どうやら恋愛によるトラブルで同棲している家から飛び出してきたとの事。


本音は思い合ってる同士なのでこちら側が敢えて何かする必要はないのだけれど。


ルイは「お熱い話はここらにして、ほら帰った帰った」と追い帰す。


「お騒がせしましたー」と言い去る2人。


そして、「タトゥーを入れると共依存してしまってね、ああいう類と筋の通ってる奴らには気をつけた方がいい。」と言う。




それから数ヶ月の間で数名、刺青を希望する人にも出会った。


ルイの技術に惚れ込み、誤魔化しながら断るのが大変なくらいどうしてもルイに刻んで欲しいと必死に頼み込んで来る人も居た。


私の技術ではまだ彫る程の腕ではないと痛感した。




実にここ2年、この病院で過ごした。


するとルイから一枚の手紙を受け取る。


「戦地による医師急募、医学に精通してる者集められたし。」とポップなイラストの割に内容の合わないような文章が載っている。


ルイは「行くかい?」と聞くと私は黙ってしまう。


何故かというとここに居ても医学の進歩にはならないからだ。


2年無駄に過ごしたとまでは言わないにしろ大学で経験した事の方が多い。


「ルイはどうしたらいいと思う?」と私は聞くとルイは「んー」と唸っている。


「分かったわ、半年だけ勉強してくる。それで学べるものは学んでくるから。」と言うとルイは笑顔で「良く言ったね!」と褒めてくれる。


死の危険も付き纏うので、ルイと両親と志保と4人で見送ってもらい向かう。




最初は基地からのリリィ反対過激派による医療支援だったが、徐々にドッグタグの刺青や現地にて戦況も揺らぎ武装を余儀なくされた。


幸い私の手により人を撃つことはなかったものの、私が助けた人が戦地に赴いてどちらかが命を落としていると思うと胸が痛くなる。


そんな毎日を過ごしているとあっという間に半年は過ぎた。帰還命令だ。




帰国してからはルイの元でルイの技術を継げるように私が施術を施した。


ルイには満点をもらえるレベルまで達していたらしい。


そんな日々を過ごしていると朝食を用意してる時に、バタンッ!と大きな音がした。


急いで音の元へ向かうとルイが倒れており「理沙…ごめんね…」と言うルイが居た。


外傷は無し、服をめくって見てみると背中に大きな内出血が確認できた。


私は「何故こんなになるまで放っておいたの!?」と聞くとルイは「気付いた時には遅かったんだよ…理沙…私が死んだら骨は病院の横に埋めておくれ、ここが私の家なんだ。」と言う。


私は泣きじゃくりながら「何バカなこと言ってるの!?まだ死ぬとは決まったわけじゃないでしょう!?」と取り乱してしまう私。


救急を呼ばなきゃ、と思い電話を探してコールするが繋がらない。こんな時に!!!と私はルイを背負って処置室へと運ぶ。


もしやと思いルイの病歴を確認するものの、貧血しかなくいたって健康的だ。気になったのはルイの筆跡により転倒、鎖骨周辺打撲。と書かれた一枚のメモ。すると私が大学時代にルイが倒れて帰国したのを思い出した。


貧血で検査入院していた以前に、転倒して受け身を取らず胸部を強く打ち付けその結果血栓が出来ており、運ばれた際に原因が発見され、処置されていれば問題ないレベルの内出血で済んでいたのでは?と考えられるが、気付かれずに検査入院を終え、長期間にわたり心臓が壊死していったと推測を立てる。


だとしたらこの処置室のレベルではどうにもできない。


…終わりだ。これまで私は救うことはできても目の前で命を失うということが無かったのだ。技術的にも医療レベルは今の時代高くなってきており救われない命はほとんどなくなった。そんな中、未だに適切な処置をされずに亡くしている命があるなんて。


ルイは愛する場所で命の灯火が消えた。




私は両親に連絡して家族葬によりルイを見送った。


ルイはお酒が好きだった。なんだかんだお酒を飲んでいた。今もお酒が飲みたいだろうと思い、その一心でお酒を用意して私は虚のような悲しみに暮れた。


気がつくとルイは骨になっており骨壺に収まると私が病院の横に埋めた。




それから私は堕落した毎日を過ごした。


患者は迎え入れ刺青も施した。


こだわりというものを持たず常に喪服のような黒い服でラベンダーのお香を焚き自分の精神を落ち着けただ淡々と適切に繰り返す。


金銭的にも独りということもあり資金的に余裕があるので、青藍達には家を、私には落ち着ける寝室を用意した。




そんな生活を数年続けていた。


定期的な頻度で青藍以外の家族とは交流を持っていたし、金銭面での苦労なんかも感じなかったものの心の中の虚無感が強くあった。


私は自分の中にいるルイを演じていた。


仮面を被ってその時を過ごすのは楽だったのかもしれない。




ある日いつも通りテレビでも見ながらお酒を飲もうと思って、改装された診察室と処置室を繋げたところのソファへと向かいテレビをつける。


そこには一般的な番組が流れてる中に速報として字幕のみで「3人が死亡、1人が行方不明の事件発生」と書かれている。


今の時代犯罪件数は年々減っているものの稀に被害者が患者として駆け込んでくるケースもいる。


割と近くの地域なので、その可能性を考えてお酒は控えてタブレットでニュースに該当する情報を探す。


情報は直ぐに見つかった…のだが、私は一瞬頭が真っ白になってしまった。


そう、私達の家族がターゲットだったのだ。


急いで家族へと通話を発信する。何かの間違いでありますように。


…出ない。家族3人へと発信したのに出ないのだ。


テレビが突然とニュースに切り替わる。


「番組の途中ですが速報で流れた事件の被害者を読み上げます、(ノイズの音)ほさん、青藍さん、以上の4名が被害に遭われました。詳細はこの後のニュースでお伝えします。」と流れた。


だめだ、冷静にならなくては。と思いコートを羽織り、スマホ一台と車だけあれば十分だろうと考え外へ出て夜の海へ向かう。


私は気分が落ち着かない時はよく海へ来ていた。こんな時間の海には誰もいないからだ。


すると何故か走り去る四駆が目にとまる。かなりスピードを出して走り去るのだから違和感を感じた。


流石に確率的には低いものの先ほどのニュースが脳裏をよぎる。


万が一の可能性もあるが、落ち着いて私。そんな偶然あるわけないと思いつつ、最悪の状況にルイの死の喪失感が思い出され不安に駆られる。いや、そんなはずはないと思い深呼吸をする。音楽を流し海へと向かう。私は落ち着くためにここに来たのだ。


砂浜の近くに車を駐車し、海岸へと向かう。


…月に照らされた海に浮かんでいる人影がある。声をかけるものの反応はなく、まさかさっきの車から投げ込まれたのでは?と考えつつも海に飛び込み救助する事を最優先にして、陸へと救い出すと女性の体に傷が複数あるのが確認できる。暗くて顔は見えないが私のやる事はただ一つ、治療だ。


車に乗せるために肩を貸してなんとか移動してもらう。


後部座席に横になってもらいバイタルを取る。


正常範囲内なものの水浸しのままでは弱ってしまうだろうし、何より傷があるかどうかを確認したい。


私は自然と車を走らせていた。まずは処置と着替えだ。


すると後部座席から動音がするのでミラーを向けるともぞもぞと彼女が動いている。


どうやら意識が鮮明になってきたようで、声をかけることにする。


「私は医者だ、今から治療するから。」と少し冷たかったかな?と思いつつ私自身も多少動揺していることを実感する。


ルイのように手遅れにならないように全身の傷を見せてもらおうと思い自宅へ向かう。


「着いたよ。」とだけ言い自分で動けるかどうかを確認する。


彼女は「ここが病院ですか?」と聞くので私も最初の頃はそう思った、ルイが言っていたように「家でもあり私の職場なんだよ。」と問いに答える。


なかなか立てそうにないようなので、「まずはその傷から治さなきゃね。」と言い肩を貸し、処置室へと連れて行く。


ベッドに横になってもらい彼女の顔を始めて明るい場所で見た時はまさかそんな偶然があるわけない、とこの目を疑ってしまった。そう、家族から1年に1度見せてもらっていた青藍の顔そっくりなのだから。


その考えはとりあえず置いておくとして、彼女の処置を優先とする。まずは傷の場所と度合いの確認だ。


幸い命に関わる大きな傷は無く、ここでしばらくの間休んでもらえれば回復には向かうだろう。


いつも通り、いつも通りやればいいだけだ、と自分に語りかけ処置を済ます。


擦り傷や打ち身のみで身体的な傷は短ければ一ヶ月、長くても二ヶ月程様子を見れば癒えるだろう。


問題は心のケアだ。もし、青藍だとしたら私は彼女に医師としてなのか、家族としてなのか、姉としてなのか、どう振る舞っていけばいいのか…分からなくなる。




頭を冷やすために冷凍庫からスピリタスの瓶を取り出して少量口に含み冷静さを取り戻す。


彼女にも本当はいけない事を知りつつももし青藍なのであれば落ち着きたいだろうと思いお酒を勧める。


「お疲れ様、何飲む?スピリタスでいいかい?いや冗談だよ。」と言ったもののこれは自分に対しての言葉でもある。


多少冷静さを取り戻してきたところで私自身もずぶ濡れであることに気づきシャワー室で少し考えることに。


落ち着け私。「ねぇルイ、今青藍に会ってあげないと孤独になってしまう、だからもう三つ目の約束はいいよね?…」


だけど何を話せばいいのだろうか。私の古い記憶を今の彼女に伝えるわけにはいかないだろうし、まずは彼女のメンタルケアをしつつ自己紹介から始めよう。


そう決意した私は海に行く前から用意してあった楽な洋服に着替えると彼女はシャワーを借りたいと言ってきた。


そりゃ私も同じ場面なら当然だろう。


海水でべたついた肌や髪を洗い流したくなるのは生理的な反応だし傷も消毒した程度では汚れまで落としているわけではないのだから。


「入浴はもちろんダメだけれどサッと浴びるくらいならいいよ。但し消毒し直しだけどね、まぁそれは構わないから入っておいで。」と伝えて彼女の着替えを用意しに行く。体格はほとんど変わりはないので私の部屋着を貸すことに。


ワンピースにドロワーズの相性は個人的に楽なのだ。


タオルと一緒にカゴへ置いて、私はソファーへ向かいテレビとスマホで事件の現状を確認する。


青藍はまだ発見されておらず両親と志保が亡くなったのは事実のようだ。


加害者は大きなグループではなく少人数の金品目当ての強盗だということまで調べがついていた。


大体の調べが終わった時に、シャワー室から出てくる音と声が聞こえたのでテレビの電源を切る。


青藍の消毒をお風呂での洗浄が済んでいたので、先程までの念入りな消毒までではないものの私は化膿しないように処置をする。


「本当に飲んでいいんですか?」冷蔵庫の前から聞こえたのでコクリと頷く。


彼女は一杯作って私の方へ戻ってくる。


小さなグラスに氷も無しにオレンジ色の液体を持ってきて美味しそうに飲む。


すると彼女は明らかに顔が真っ赤になっていき、これはウォッカあたりを混ぜたのだな、と推測する。


顔の筋肉が緩んでいるので一気に眠気が来ないか心配だ。


彼女はやはり青藍なのでは?傷の多さ、部屋着での海の状況、現実を受け止められておらずお酒を美味しそうに飲んでいるみたいな、なんとも言えない感情に駆られ私は彼女の顔から目が離せなくなる。


そんな顔を見てるとつい彼女の名前を聞いてみたくなって、自然と自己紹介を始めてしまう。


「自己紹介が遅れたね、年齢は29歳。開業医と裏で刺青師をやっている。名前はミサさんと呼んでいいよ。」と自己紹介をする。不思議と私は通称の方の名前で紹介してしまった。


すると彼女は「私は青藍です、歳は24歳。今は無職で…」と言い私は脳内に電流が流れた。


やはり彼女は青藍なのだ。今ニュースで報道されている私の妹なのだ。


すると青藍は事情を話そうと表情が暗くなるので私は「その先まで聞くつもりは無いさ、誰にだって事情はある。」とつい言ってしまう。


どこまで青藍が知っているかを確認するべきなのだろうが私にはその勇気も無かった。


だが、本当に勇気が無かっただけだったのか?と冷静になって思う。


ここで聞かなくてもまだ青藍との時間は少しだけでもあるのだから、青藍の為にも今聞くのはあまりにも酷だろう、そう思い私は後日落ち着いてからゆっくりと聞くことにした。




しばらくして青藍がとても眠そうにしているので突然自室のベッドに案内するわけにもいかないので普段患者を診ているベッドに寝てもらうことにする。


多少狭いだろうけど今は甘やかすわけにはいかないのだ。まだ姉だと打ち明けていないのだから。


お疲れ様の意味を込めて「おやすみ、青藍。」と伝え


私は明日の青藍への朝食を用意しようとしたが、ルイが居なくなってからは自分用の食材しか用意しておらず、食パン、牛乳、卵とサプリメントで過ごしてきた。


そんな時私は思い出した、ルイが夜食として朝から浸してあったフレンチトーストの味を。


確か牛乳と卵と蜂蜜で甘めに作りそれを食パンを浸して半日で裏返すというお手軽メニューだ。


手早く用意して、私は警察に電話して青藍が家族なのを伝えた上で医者なので心配しないでほしいと伝えて、報道陣には控えてもらうことに。


家族を一気に失ったショックが大きい事を配慮してもらい火葬は警察側で対処してもらえるようにお願いをした。


そんなこんなしていると日が昇り始め、朝日を拝むことになるとは思ってもいなかった。


フレンチトーストを裏返してせめて仮眠を、と思い処置室のソファーで眠っていると、青藍が号泣している。夢なのか現うつつなのか私は眠たい瞼をこすり、青藍のベッドを確認するとカーテンが閉まっている。私は青藍の傷が血塗れになるほどに開いてしまったのではないか、と心配になり駆け寄った。


カーテンを開けると出血は収まっており、乾いた血液のみで化膿はしていないので、消毒、化膿止め、ガーゼ、包帯を交換するだけで済んだ。


私に出来ることは治療をして、一緒にいてあげるくらいで近くの椅子をベッドの近くへ運び彼女を落ち着かせようと胸を貸す。


「私も見っともない泣きっ面で何度も泣いた事がある。私が支えるから安心していい。」


そういえばルイを亡くした時の私ってどんなだったっけと思い出すものの、いまいち思い出せない。


私は家族とは会っていたけれど、楽しい思い出というよりも現状報告みたいなものばかりで喪失感というのはほとんど無かった。だけれど青藍は初めての経験な上家族全員を亡くした絶望感が強いのだ。


泣くなという方が無理があるし、それで気持ちの整理がつくのなら私はいくらでも受け入れようと思った。


時間としては…1時間程だろうか。青藍も涙が出ない程泣いて落ち着いてきた様子。


「ありがとうございます。もう落ち着いたみたいです。」と言う青藍。私よりも強いのでは?と思いつつ、


「昨日から何も食べていないんじゃない?お腹が空いたんじゃないかな、よかったら私のフレンチトーストを食べない?昨晩から仕込んだんだ。」


と朝食を勧める。


青藍に笑顔が取り戻されコクリと頷く。




帰る家のない青藍が私と一緒に過ごして数日経った。


本来急患を抱えるだけならこんなに長期間滞在させる事はないのだけれど、この世界に残された唯一の家族なのだから当然なのだが、青藍はどう思っているのだろうか?


朝食を食べている時に聞いてみようと、青藍にはまず私のことを徐々に話していかなければと思った。


「ねぇ青藍、貴女4人家族よね?」と遠回しに聞いてみる。


「まぁニュースにもなってますし…」青藍はやはり私のことは知らないようだ。


「私の本当の名前知りたい?」と少し踏み込みすぎたかもしれないと思いつつも私の衝動が抑えられなくなる。


私はマグカップを持ち窓際の写真立てのところへ向かい留学する際にルイから受け取った家族写真を青藍に見せる。


「実は私は、青藍の姉なの。いつも志保が長女だと思ってただろうけどあの子次女だったのよ。私が長女。」と言われてもすぐには受け入れることは出来ないだろうと思いつつも言葉が止まらない。


青藍は「どういうこと?家族は一緒にいるものじゃなかったの?」と聞いてくるものの、


「致し方なかったのよ。みんなを恨まないであげてね。」と今は亡き家族達へメッセージを送る。


「で…本当の名前って何?ミサじゃないの?」と痛いところを突かれてしまった。


「ミサじゃないの…本当の名前知りたいなら私の技術で青藍に刻むわ。ダメ…かしら。」自分でも信じられない言葉を発してしまい後悔していると、


「うん、いいよ。」と青藍は純粋な目で私を見る。


「本当!?私が彫り師だって事教えたのに!?」


私はあっさりと受け入れてもらい驚いてしまう。


「準備してくるね!」と青藍に言い残し私は衝動に任せて処置室でタトゥーの準備を始める。




スピリチュアルをイメージしたお香を焚き、黒百合の花びらから作られる業界では麻酔として用いられてる紙タバコを用意する。


墨は黒のみでシンプルに刻む。


準備が終わり青藍をベッドへと寝かせて黒の正装を身に纏い腕から洗浄していつでも始められるようになった。


大切な妹の身体に私が彫ると思うと緊張して仕方ない。


…ひと針を刺す。痛みは完全に消えているようだ。


麻酔が効いてるうちに百合の花を青藍に刻んでいく。


私はルイが亡くなってから彫り師としての経験を語っていく。


共依存の強かったカップルも多かった事や、魂を刻んでいった人。


そんな事を繰り返しているうちに私は白衣ではなく黒い服に身を包み自然と過ごしていると黒ミサのようなスタイルで彫るからかミサと呼ばれていたことを、本当の名前は理沙という事を語りながら刻む。


私は集中して彫っていた為か力尽きると私はとにかく謝る事にする。


「とにかくヤツらみたいな酷いことしてごめんなさい。」


衝動に任せてしまったことを冷静になって罪悪感に襲われ頭を下げる。


「私には理沙さんしかいないから大丈夫だよ」と青藍の優しい声に一瞬で救われる。


まずはタトゥーの意味を説明しなくてはと思い私は青藍に語りかける。


「このタトゥーは貴女のイメージ、白百合を刻んだの。花言葉は純粋、無垢、純潔、威厳。青藍、貴女はまだガラスのように儚い存在だから私からの強くなれる魔法だよ。」と複雑な感情で説明をする。




私は気付いてしまった。青藍も同様で私には青藍しか信用できる人がこの世界には居ない事に。


恋なのか、愛なのか、そんな混ざり合った感情からか「リリィってわかる?」と聞いてしまった。


慌てて前言撤回しようとして「今まで彫ってきた中で一番多いのリリィなんだ。」とはぐらかす。


「多分百合婚が広まったからじゃないかな。」誤魔化しつつも一度熱を持った感情は消えない。


「行く当てもないでしょう?いっそ私達で百合婚しない?」…私は何を言っているのだろうか。


姉妹での百合婚は無いわけではないものの極少数で周りからの視線もある。


そんな中で何故私はこんな告白をしてしまったのか。


するとルイのタトゥーに関しての言葉がいくつか脳裏によぎる。


タトゥーを入れると共依存が生まれる…と。


まさにこの事か、と感じてしまい私は青藍の表情を確認しようと彼女を見るとコクリと頷いてるではないか。


私は青藍を生涯共に歩むパートナーにすると決意した。


初めて名前のタトゥーを入れるのが自分達だなんて思っても見なかった。


「じゃあ私にも貴女の…SEIRAを入れるね。鏡持っててくれる?」と自分のお腹に向けてもらう。これから魂に青藍の色を添える。2人で肌を寄せ合い全身を天使の羽で包まれたような幸せ。


青藍は流石にタトゥーの世界は詳しくないだろうけれど、必死に私を気遣って震える手で鏡を持っててくれる。


そんな姿も愛らしい。


「はぁ…はぁ…これキツイね。流石に私でも自分のお腹に入れるなんて思ってなかった。」


私は自分の体にはタトゥーを入れた事が無いのだ。


同じ業界の人なら入れるのは当たり前なのだろうけど表向きの仕事が医者だという事もあり、生半可な気持ちで入れるべきではないとルイからの教えを守ってきた。


でも今は違う…覚悟したのだから。


青藍への愛情を確信し、最後のひと針まで魂を込め、名前を彫り終わり完成した。


「理沙さん、大丈夫?何か持ってくる?」と優しく聞いてくるので


「冷たいお酒持ってきて、なんでもいいから。」と、つい雑に答えてしまう。


オレンジ色のお酒か…懐かしい風景がよぎる。


あの日、家族の元から旅立ってルイに説明してもらうまでこの家も怖かったっけ。と思い出に浸る。


「あー、ありがとう。これからは理沙って呼んでね。」と青藍に甘えてしまう。


「当然だよ!理沙おねぇちゃん!」


と可愛い笑顔でおねぇちゃん呼びかぁ…素敵な笑顔を守りたい、と私は心に決めた。




誰かを私の寝室へと入れるのは初めてだ。


自分でも快適に過ごせる空間にしようと、黒のシャンデリア、古風なお香、薔薇のドライフラワーなども揃えていたからか、青藍は興味津々で周りを見ている。


そんな青藍の様子に、嫉妬した私は彼女をベッドに押し倒してしまう。


「さっき彫ってる時の声、可愛くて仕方なかったんだ。」と誘うように囁く。


「貴女も磨けば光る宝石なんだからちゃんと身だしなみ整えなさい。」と身だしなみに姉心故か、目がいってしてしまうのは悪い癖ね。




首元、額、もちろん唇にキスを交わす。


私も初めてなのでどれだけ上手なのかは知らないけれどお互い初めてなのだから幸せな時間を過ごせればいい、そんな一心で青藍と愛し合う。




私はある説から軽いSM要素の情報を頼りに提案する。


「志保に会いたい?」


普通はこんなこと言わないだろうけど刷り込みの要素の1つである。


青藍が頷くと私はか細い首へと両手を伸ばし殺さない程度に手に力を入れる。


しばらく見ていると目が細くなり危険だと思ったところでパッと離すと 「どう?見えた?見えた?」


とつい興味本位で聞いてしまう。


「はい…見え…ましたよ…理沙おねぇちゃん…」と言っている青藍、私のせいで性癖歪ませないでね?


「そっかー良かったねー…」と表面では冷静だけれど亡き志保には嫉妬してしまう。




青藍は純粋無垢な様子でそういった知識はほとんど無さそうな様子。


私も経験無いんだけどなぁ…と思いつつ痛くしないように細心の注意で触れる。


私は今までの患者からその手の話題は嫌というほど聞かされてきた。


知識欲の塊からか自然と記憶していたのでそれらを試してみる。


耳に唇を重ねたり、恋人繋ぎと呼ばれる手の絡め方をしてみたり。


青藍の可愛い声がたまに漏れたりするあたりきゅんとする。


熱情はどんどん盛り上がり青藍は「抱きしめて…」とぼそりと呟く。


その一言で私は青藍の寂しさを埋めれていると感じて、背中から抱きしめ精一杯の愛を伝える。


これでは退屈させちゃうかな?と思い胸にイタズラしようと思うものの抱きしめていることで青藍は満足しているみたいなのでこのまま大人しくしていることに…




しばらくすると青藍は眠っており、私も少し目をつぶっていることに。


時計の音がうるさい…この幸せな時間が永遠と続けばいいのに。と願っていると、突然青藍が起き上がったかと思うと何故か土下座し始める。


危ない!と思った矢先倒れこむのだから、ベッドの上では暴れないで欲しいものだね、と笑いつつ濃厚なキスを交わす。


「今日は胸までね。傷、内腿にもあったでしょう?」


そう説得しているにも関わらず、青藍は強く私の身体を求める。


「どうしたのよ。」と言っても、


青藍は「ダメ!今日は記念日なんだから最後までだよー!」と言い諦める気ゼロ。


まぁ私もそんな気分にさせられたら断ることも出来ないので、求められるままに応えてしまうことになりましたとさ。




一緒にシャワーをじゃれあいながら浴びていると、青藍が「突然結婚式を挙げたい!」と言い出すので私は驚いた。


「呼ぶ人はいるの?」と聞くと「いないけど憧れだったの!ねぇ…だめかな?」と甘えられてしまうので私は断る訳にはいかなくなってしまう。


まぁリリィのタトゥーを刻んだ人達に声をかければ喜んでもらえるかな…と思いつつ青藍の要望通りに結婚式の予定をスピーディに組んでいく。




期間は3ヶ月という青藍の要望を全面的に叶えた式を挙げた。


何故か私の趣味も見抜かれていて、私には黒の総レースのウェディングドレスを用意してくれたのだ。


ブーケには白薔薇と白百合を。


どうやら白薔薇は私のイメージだということらしい。


私を贔屓にしてくれる患者さんや、リリィのタトゥーを刻んだ人や、ルイの友人に祝われながら、青藍の幸せな表情と共に、私の記憶はここで幕を閉じるとしよう。




〜アフターストーリー〜


私達は結婚してから一年程経ち、私はそんなに急ぐ必要は無いと思っていたけれど、青藍がどうやら寂しいようだ。


青藍の要望としてはお互いに1人づつ妊娠して双子ちゃんを産めたらいいなーと言っている…。


子供を細胞妊娠にて子作りしない?という話が挙がった。


確かに同じ細胞から産むのだから双子と言っても過言では無いのかもしれないけれど、同時に産まれるものなのか?と思い私はその辺りのことを調べてみることにする。


可能性は極めて低いもののどうやら可能、との答えが分かってしまった。


青藍にそれを教えると、明日からでも!!!というのでまぁ早まらずに…と言いなんとか抑えてもらう。


話し合い計画的に、奇跡を狙って同日同時刻に産めるよう調節した。


…そして、いざその日が来てしまった。


お互いの卵子に遺伝子を入れて卵巣に戻すという極単純なものなのだけれど、最近ではこれがかなり有効らしい。


そんな不思議な光景を眺めつつ終わった…というよりもこれが始まりだということはお互いに知らなかった。


妊娠鬱のせいで何度か喧嘩することもあったものの、私達は10ヶ月を乗り越え今隣り合って分娩室にいる。


産まれる感じは個人差があるものの痛み、嬉しみ、苦しみを青藍と手を握って色々な気持ちを分かち合い、お互いのお腹の子と家族4人で心を一つにしていると…2人の元気な泣き声が聞こえた。


今では可愛い嫁と娘2人までいる賑やかな家庭になった。


あの頃の孤独からは考えられない程に、毎日が新鮮でとても嬉しい。ありがとう、私達の愛する子供達 。

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藍する青のガラスの花 @nozuki_miu

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